魔導士ディーラー龍脈にたどり着いたようです。
川までの道のりを小走りで進む私の肩に食い込むリュックサックは少女を格納しているとは思えないほど軽かった。これは魔導士が戦闘中や治療に使う魔道具を常時格納するために用いるリュック型の倉庫である。
数日前まではパンパンに膨れ上がったリュックサックも今じゃ見る影もないほどぺちゃんこになり、背中の軽さが寂しいが、このリュックの中には大量の棚があり魔道具を種類・メーカーごとに分類することができるスペシャルアイテムなのである。
魔物たちと戦う勇者たちにとって戦闘中に受けた怪我や状態異常は処置が遅れれば死に直結することもある。
魔導士は回復のプロだが自力で全ての怪我や状態異常に100%対応できる人は黒魔導士でも不可能だ。
そのために私のようなディーラーが帯同しその状況にあった魔道具を魔導士に使用してもらえるよう仕入れも欠かさないし、最近ではメーカーに依頼して魔道具の貸し出しもやっていた。
魔道具の貸し出しとは仕入れと違いクエストで使用した魔道具分だけをメーカーに報告し後にパーティーにその代金を請求することだ。これなら何かあった時のために余分に魔道具を手元に置けるし、使った分だけの請求だから在庫になるリスクはない。ただ送り返すことと、正確な使用料をメーカーに正しく報告しないといけないからなかなか手間がかかる。
しかし人気の魔道具ともなると他のパーティーでも使用依頼がくることも多いから、ともなって貸し出しも三日間だけとか短期になりがちなので、一人でやっていると首が回らなくなることもしばしばあった。
「あのぉ、どうですかぁ?」
「川が見えるよ」
私がその地に足を踏み入れた時だ。体中に電気が走ったような刺激を受ける。
「あれは一本の木だったのか」
思わずつぶやく。この広い森を横断する川の中州にひときわ巨大な樹木が一本聳え立っていてそこから大量の魔力が流れ出している。
「よかったですぅ」
私の返答に少女もどこか嬉しそうに言った。
「今からそっちに行くけど、もう少し待てるかい?」
巨大樹を目の前に川の傍で腰をおろした。
「待てますぅ、でも自分がどこにいるのか分かりませぇん」
嘆く少女とは対照的に私はなんとなく予想がついていたので呆れ気味に微笑んだ。
「大丈夫だよ、そこで待ってて」
私はリュックサックに右手を突っ込んで彼女を探し始めた。
「あれ、一階層にいないぞ」
異変に気が付いたのは右手を突っ込んだ数分後だった。すぐに見つかると高を括っていたが予想していた場所に少女はいない。
「あのぉ」
今も少女の困ったような声が聞こえているが、私は彼女がいる場所を特定することが出来ない。
「一体どこにいるんだい?」
「すみませぇん暗くてよく分からなくてぇ」
そのうち埒が明かなくなって私はリュックサックの中に頭を入れパスワードを唱える。
真っ暗だった倉庫の中に明かりが灯り全体像を把握できたところで少女を見つけた。
「……なんで棚に分類されてるんだい?」
私の独り言に少女も気が付いたらしい、彼女は無所属の棚に一人ぼっちで置かれていて私の顔を見るなり今にも泣きそうな顔で助けを求めて来た。
「どうしてこんなところいるの?」
「ヒッ、わかりませぇん、明かりがついたらここにいましたぁ。高いところいやぁなんですぅ……」
肩を揺らして言う少女をいつまでも眺めている悪趣味は持ち合わせていない。私は腑に落ちないまま魔道具を取り出す要領で彼女をリュックサックから引っ張り出した。




