第七話
シンシアは、(無事?)ファルス城に軟禁された。
そして、只今、入浴の真っ最中である。
そして、とっても、とっても、どう見ても高位な貴族の御夫人に、入浴補助をしてもらっていた。
「シンシア様、お初にお目にかかります。わたくしは、王宮侍女頭を務めるバウワー伯爵夫人オリビアと申します。
嫁ぐまでの残りのお時間はこちらにお留まり下さい。
後の事は人族で処理致します。ご安心して、お過ごし下さい。」
「はぁ、、、」(結婚前提なんだね••• )
シンシアはもう “どうにでもしてくれ!” と、ヤサグレていた。
「それより、さっきからドアを叩く音がひっきりなしにするんですけど?」
「ええ、シンシア様に御目通りをと何件かの家の者が押し掛けて参りまして•••」
「何の用なんでしょうねぇ?」
「シンシア様と養子縁組を結びたいと申す者ばかりなのです。
シンシア様を養女にし、自分の家から竜王妃を出した事にしたいのでしょう。」
「はぁ~、貴族って面倒ですね、」
「何を仰りますか、貴方様はこの国の最高位の御方に嫁ぐのですよ!
残りの時間はしっかりと王妃教育を学んでもらいます。」
シンシアの口からはもう「はぁ~」としか言葉が出なかった
「わたくしは、あのうるさい者達を排除して参ります。
シンシア様は、安全のため絶対にこの部屋からお出にないように!」
と、オリビア夫人は念を押して浴室をを出て行った。
心地よいお湯に浸かり、思考が停止し、シンシアはもう、抗う事を諦め初めていた。
『 もう終わりだ••• 』
緑の薬草が入った浴槽に、頭から潜る
(エイダにはお咎めがあったであろうか?)
シンシアは逃がしてくれた親友の処遇を心配した。
…………ここが終着点
This is the end
Beautiful friend
This is the end
My only friend, the end
「 コンコン 」
シンシアは、静寂の中、水中に微かに響くノックの音を聞き取った
そして、緑の水面より頭半分だけを出し、キョロキョロ眼球を動かし、目で周りを伺った。
「シンシア様」
そこには1人の年配の夫人が立っていた。
「そんなに湯に浸かってらしたら、お身体に悪うございますわ!」
シンシアは夫人に促され、のっそりとお風呂から上がりガウンを着た。
「わたくし、竜族代表としてこちらに使わされたカレントの妻、エラでごさいます。」
挨拶を聞き、あれ?と、思う
「執事さんの奥さん? エラ様も番なんですか?」
「ええ、カレントは竜族、わたくしは人族。
シンシア様と番の立場としては同じでごさいます。」
「それは、それは、ご愁傷様です。貴方も苦労されたんですね。」
シンシアは、自分に降りかかった数々の不幸を振り返り、エラにもお悔みの声を掛けた。
「私の場合はとても幸運でした。
カレント様に出逢わなければ死んでいたかも知れません。」
「 シンシア様は『竜の羽』という店はご存知ですか?」
「ええ、王都イチの老舗で、唯一、竜城御用達の商会ですよね!」
「あそこの初代がわたくしの弟なのです」
「えっ、だって、あそこは創業150年位じゃぁ•••」
「ウフフ、わたくしは167才なのです」
エラはそう言うと、自分の昔話を語って聞かせた
昔、親子4人で 町から町に行商生活をしていた事。
その途中で盗賊にあい、父を殺され、母とエマは乱暴されそうになっていた処に、カレントがエマを見つけ助けてくれた。
(カレントは盗賊達を焼き殺してくれた、と嬉しそうに語ってくれた)
そして、カレントの妻になり、弟と母は竜人達の手助けにより商店を立ち上げた。
「わたくしはとても運がよかったのです。
カレントに見つけてもらえて、本当に幸せ者でした。
竜は、とても情け深く、自分の懐に入れた者にはとても親身になってくれるのですよ」
「それは、カレントさんが良い方だからじゃないんですか?」
「あら、カレントは竜ですもの、出会った時は傲慢でしたのよ。
竜というものは、そう言うものらしいです。
でも、そこは、ほら、夫教育です。人間もそうじゃありませんこと、、、」
そう言うと、オホホホ、とエマは上品に笑った。
「でも、私の、相手はあの、傍若無人の俺様ドミトリアンですよ。
竜の王様ですもん、あれに教育って•••
望み薄って感じです。」
「良い事をお教えしましょうか。竜は番の言う事は、何でも聞いてくれるのですよ
シンシア様が『隣の国を滅ぼして!』なんて言おうものなら、ドミドリアン様は嬉々として滅しに行くでしょうね。」
「うわぁ、恐ろしいですぅ~」
シンシアは、勘弁してくれとばかりに首を横にブンブン振った。
「、、、それ程 番が大切だと言う事なのです。
もし、シンシア様が敵国の手に落ちて、身柄と引き換えにファルス王国を滅ぼせ、と言われたら、ドミドリアン様は躊躇なく我が国を滅ぼすでしょう。
フィリップ王は、それを危惧して貴方様を人族で保護されたのです。」
シンシアは今更ながら、己の危険な立場を思い知った。
そして、恐怖で手がブルブルと震えて来たのであった。
そんなシンシアを気遣うように、エラは背を摩り、温かいお茶のカップを手に握らせた
「 ねえ、シンシア様、良い事もあるのよ。
竜人を夫に持つって事はね『絶対に浮気をしない夫』を持つって事なのよ。
これって、女にとって最高だと思いませんか!!!」
「プッ」シンシアは吹き出した
「あはは、それ、最高です!!!」
シンシアは気持ちが少し前向きになった。
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その頃、所変わって、ファルス城の一室では、ドミドリアンとフィリップ王達で今後の話し合いをしていた。
すなわち、
『ドミドリアン、嫁取り大作戦 』である。
「俺は早く番を連れて帰りたいのだ!」
ドミトリアンは、イライラと周りにガンを飛ばしながら言った。
「 竜王陛下は、人族の女性という者をご存知でない。女とは追えば逃げるものなのです。
優しく手を伸ばし、気持ちが熟れるのを待ってやれば、自ずと落ちて来るものなのですよ!」
そう、ウンチクを垂れているのは宰相の色男、ロシュフォール伯爵だ。
「そういうものなのか?」
ドミトリアンは何故か後ろに控えている若い侍女に聞いた。
侍女は、赤い顔をして俯いている。
ドミトリアンは侍女にさらに声をかけた
「宰相はそう言っているが、お前はあの男に手を差し出されたのか?それで落ちたのか?」
皆の目が侍女に釘付けになった。
「だって、お前から宰相の匂いがプンプンするぞ! お前達、さっきまで盛っていたのだろう。」
皆の目が点に••••••
「イヤァァァーーーー」
侍女は大声で叫んでドアから飛び出して行った。職務放棄である。
「 いや、その、私は、、、」
ロシュフォール伯爵は赤くなったり、青くなったり、すっかり壊れた信号機である。
「 それに、そこの男、お前、女の匂い•••、三つの別の女の匂いがする。」
ドミトリアンは、騎士団長に向かって顎をしゃくった。
「 私は昨日、その、娼館へ行って、、、」
騎士団長も赤いなったり青くなったり大忙しである。
「人族の男は誰とでも盛る。そんな危険な所に我が番を置きたくない!!!」
ドミトリアンは声を上げて吠えた。
参加者は、皆、口を揃えて言った
「 番様は、そんなにお美しいのか?」
ベーレンス所長とライルハルト•ベーレンス侯爵令息、シンシアを知っている2人は目を見合わせて思った
( そんな事あるか!!!)
「それに関しては大丈夫でしょう。いえ、絶対大丈夫だと私が補償します。」
ベーレンス所長が答えた。
ふと、ドミトリアンは鼻をフンフンさせ1つの匂いを嗅ぎ分けた
「 あっ、その男なら許す、護衛はアイツにしろ!
アイツから眷属の匂いがする。アイツは信用出来る。」
ドミトリアンはラインハルトを指差して言った
( 眷属? ラインハルトから匂いが?)
皆は頭を傾げた。
フィリップ王は気が付いた
( カンピョン公爵令嬢、アレの祖父は王弟。その血は王家に連なる者。
彼女は緑の髪に赤い目、幼い頃より王配様の生まれ変わりだと言われていた。
やはり、彼女は先祖帰りだったのか!)
フィリップ王は、その事実を誰にも気付かれぬよう、話を誤魔化すように話を区切った。
「では、ラインハルトを番様の護衛につけましょう。
彼女には男は近づけないようにいたします。
そして、始祖様には毎日、面会を許しましょう。」
「如何ですか?」
「うむむむ、、、」
これ以上シンシアに逃げられたらたまらないと、ドミトリアンは提案を受け入れた。
その後、ドミトリアンは人族について、しっかりとレクチャーされたのであった。
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本日の映画
地獄の黙示録
歌.ドアーズの[ジ・エンド]
マーティン・シーンの顔が沼から、ぬうっと出るシーンが印象的でした。
『ここが終着点』
ファイナルカットのキャッチフレーズ




