第六話
(目が回る、気持ち悪い、左腕が痺れる)
シンシアは、車酔いのような症状を感じて目が覚めた。
「ううっ、左腕が重いぃ、」
具合が悪くて目が開けられない。
何か、左脇の下にボーリングの玉のような物が挟まっている感覚があったので、空いている右手で[それ]をどかそうとした。
デジャヴ
ハッと身体をずらすと、脇の下には、あの男の頭が埋まっていた。
「 私、千年の眠りについたはずだったのに•••
王子がコイツかよぉ⤵︎⤵︎⤵︎ 」
シンシアは、強い虚脱感を感じて、抜け殻のようにシュルシュルと萎んでいった。
「取り敢えず、二度寝しよう 」
そう言うと、海の底に引きずり込まれるように深い眠りに付いた。
****************
「うーん、よく寝たぁ~」
二度寝後のシンシア、反射的に隣を見るとアイツの頭が無かった。
背伸びをして、昨晩の事を思い出していた。
そして、自分は座敷牢に入れられていた事実に驚愕した。
( 結局捕まっちゃったんだよなぁ•••
何なんだよ、この鉄格子、私は珍獣か!)
ふと、鉄格子越しに外を見ると可愛いメイド服の子が、ウトウトとしている。
その頭には、なんと、うさ耳が•••
( ちょープリティ、本物のうさ耳!ウサギ獣人ちゃんだ!!!
町だと、皆んな獣人なの隠しているもんね。
う、う、う、モフりたいなぁ )
シンシアのモフりたいオーラを感じたのか、うさ耳ちゃんは、はたと目を覚まし、シュルッと耳を消した。
( 勿体ないぃ、癒しのうさ耳が消えた•••)
「 番様、お目覚めでしたでしょうか?」
「 ごめんね、起こしちゃった? 今、何時位なのかなぁ?」
ここには窓が無いのだ
シンシアは鉄格子にしがみつき、うさ耳ちゃんにそう聞いた
「 お昼を回った処になります。お食事のお支度を致しますね。」
そう言って、うさ耳ちゃんはお昼ご飯を運んで来た。
鉄格子の下の受け取り口より搬入された食事は、大変美味であったが、なんだが囚人になったようで落ち着かない。
「あのぉー、私、いつまでこの牢屋にいなきゃならないんですが?」
「 ハイ、夜にドミトリアン様がお仕事よりお帰りになると思いますので、詳しくは後ほどお聞き下さい。」
「 えっ?アイツ仕事してんの?」
「はい、ドミトリアン様は毎日、国境付近を竜態になって見回りしております。
ですので、番様もいち早くお救いする事が出来たのです。
とても愛されておいでで、羨ましい限りです!」
(はぁ⤴︎ お救い?、違うでしょ、あれは強制破壊でしよっ、、、
ハッ、なーにが、愛されているだよ!
こー言うのは、暴力的拉致って言うんだよ、)
「 番様、ここは地下室でして、魔法阻害のお部屋になっております。前回の様に魔法で外に出れない様になっております。」
「「えっ!」」
シンシアは思わずライトの魔法を唱えが、ウンともスンとも言わなかった。
( 魔法が使えないのかぁ、どうしようかなぁ、、
穴掘って脱出ってもの、地下室じゃあなぁ•••
何か良い方法がないかなぁ••• )
回りを見渡すと、机の上にシンシアのバックが置かれていた。
中を確かめると、家から持って来たキャンプ用品と魔道具が欠ける事なく詰め込んであった。
ピコン!閃いた 私って天才!!!
シンシアの脳裏には新たな脱出計画が浮かんだ。
( アレが必要だね)
「 あのぉ••• シュワシュワした飲み物が飲みたいんですけどぉ•••」
「シュワシュワですか? サイダーでよろしいでしょうか」
「 そうです、瓶に入ったシュワシュワした飲み物です。
私、瓶でラッパ飲みするのが好きなんです。
瓶ごと持って来てもらえますか?」
沢山飲みたいので2.3本持って来て下さい 」
シンシアは瓶入りのサイダーを入手した。
別にサイダーが飲みたい訳ではない
瓶が欲しかったのだ。
( フフフ、魔法が使えなくても物理攻撃があるじゃないか )
シンシアは、着替えたいからと鉄格子にカーテンを引いてもらい、視覚を遮ってもらった。
カトラリーのナイフとフォークを使い、部屋の隅のレンガを外していく。
[大脱走のテーマ]を口ずさみながら、カリカリ、カリカリと壁を削る。
(これ銀食器じゃん、削れないよぉ~)
取り敢えず、レンガを2個外した。
瓶に着火用のオイルを入れ、敷布を切り、瓶の口に詰め火炎瓶を作り、それをレンガを外した窪みに押し込んだ。
オイルをタラタラと垂らし導火線を作り、、、
着火し、すかさずベッドの後ろで身を守る
「 ファイア!!!」
<<<<ドカーーーーン>>>>
「「 ぎゃーーーー 」」
「「何事かぁーーーー」」
破壊された室内には煙が充満し、彼方此方に炎が燃え移っていた。
破壊音を聞いて、大勢の人(獣人)が地下室に雪崩れ込んで来た
狭い地下は、人々でごった返し、皆、消火活動やら、右往左往している。
「番様、危険です、はやく避難を!」
シンシアは城外に連れ出された。
皆がアタフタとしている中、シンシアは、ドサクサに紛れて森の中に静かに消えて行った。
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ここからは時間との勝負だ。
シンシアは、竜王城から脱出した事を手紙鳥にしたため、エイドリアンに連絡した。
森は逆に見つかりやすい
木は森に隠せ、人は町に隠せ
「 夜になる前に森を抜け町に行こう 」
エイダから手紙鳥が来た
「西に向かえ 近づいたらモールスにて 」
モールスとは••••
( 頭の中が薔薇で埋め尽くされた腐女子の皆様、[モーリス]と勘違いされないでもらいたい )
言わずと知れたモールス信号の事である。
この世界には電波という認識が無い。
シンシアは前世、理科の実験で[ モールス電信機 ] を作った事があった。
シンシアがそれを作成し、エイドリアが、身体強化でパルス波を感じ取り、2人だけの秘密の連絡方法として確立させたのだった。
全く魔法の世界とは恐ろしいものである。
想像が魔法を作る つまり、何でも来い。
ご都合主の産物であった。
この世界には、時々、前世持ち、異世界人が紛れ込む事がある。
もし、それが発覚したら王国に保護され 国の管理下に置かれ行動制限される。
保護されると国賓扱いになり良い生活が送れるらしいが、自由が無くなる。
シンシアは考えた。
( 私が前世持ちだと国に届け出たら、国は保護してくれるだろうか•••
国に保護され竜王と結婚させられたら•••
ダメじゃん!!!
やっぱり、隠れて町でひっそりと暮らそう )
シンシアは西に向かって全速力で走った。
何時間歩いたのであろうか、、、森からファルス城の鐘が見える。
( 、、、もう少しだ )
周辺が慌ただしく動いている
( 追っ手が来たのか? )
神経を尖らせ回りを伺っていると、身体にピリッと何かが感じられた。
( エイダのモールスだ! )
身体強化を強くして、信号を感じ取る
右••• 右に走れってことね
前、 今度は左、 前、前、 右、
指示に従ってシンシアは走った
左、前、左、前、前、、、、、
「あっ、エイダ、エイダ、、」
エイドリアンの姿が見えた。シンシアの目から涙が溢れた。
シンシアは両手を上げて叫んだ
「「 エイドリアーーーン! 」」
感動の再会だ。
(読者にはロッキーのラストテーマ曲を脳内再生してもらいたい)
ここで「エビドリアーン」と叫ばなかった自分を褒めてあげたい、シンシアはそんな馬鹿な事を考えクスッと笑った
後10m、8m、後6m、
あと少し、あと少し、もう少し
エイドリアンに向かって手を伸ばす
後3m、2m ••••••
エイダの姿が近づき、ホッと気が抜けた瞬間だった
シュタッ 空から赤い彗星が、、、
上空より[シャア•アズナブル]が舞い降りて来て、シンシアの行手を塞いだ
????
何故、ここに、[シャア•アズナブル] が•••
シャア•アズナブルは、固まったシンシアの肩に手を置き、
“池田秀一” ではない声でこう言った
「エイドリアン、君の選択肢は一つだ、友情か愛か!」
エイドリアンは、迷わずシャア少佐に抱きついた。
「 勿論貴方よ、ラインハルト様ぁ♡♡♡ 」
シンシアは一瞬で理解した。
任務の為なら、恥も外分も無くシャアの仮装が出来る男。
その名はファルス王国の騎士 ラインハルト•ベーレンス
それは恥ずかしげもなく、恋人の作ったコスプレに身を包み、がむしゃらに愛を掴む男の姿でもあった。
私には出来ない••• (そんな恥ずかしい事)
シンシアは潔く負けを認め、ラインハルトに拘束され、ファルス王国軍の馬車に乗せられた。
今度はファルス王国、人族側に囚われたのであった。
こうしてシンシアの逃亡劇は7日間で幕を閉じた。
あの時、[大脱走のテーマ]を歌ったから失敗したのか•••
[勝利への脱出]にしておけばよかった••••
シンシアは連行される馬車の中で、自分の映画のチョイスの痛恨のミスを悔んだのであった。
~~~~~解説~~~~~~
今回の映画
モーリス
言わずと知れたBLのバイブル
美青年てんこ盛りの耽美な美しい映画で御座います
4K版では、さらに、若き日のヒュー•グランドの美青年振りが発揮されております♡
ロッキー1
「エイドリアーーーン」はアポロ戦の後のシーンです。
[大脱走]
床を掘り脱出しますが、最終的には76人中3人しか逃げ切れなかった。
(実話に基づいた映画です)
[勝利への脱出]
全員脱出成功の娯楽映画です
[アニメ ガンダム]より
赤い彗星 シャア•アズナブル 声優:池田秀一




