第四話
一つの神話がある。
遥か昔、太古の時代、竜は何千年、何万年と生きる動物であった
竜は黄金に執着した
黄金の輝き、黄金の匂い
まるで心の孤独を埋めるかの様に••••
莫大な黄金に包まれても、まだまだ飢えてと渇きが収まらぬ竜は、心の隙間を埋めるように黄金を求めて街々を襲い山を破壊していく
「もっと光を、黄金の光を•••」
ある日、黄金を求めて彷徨っていた竜は、嗅いだ事のない匂いに惹きつけられた
えもいえぬ、表現する事など出来ない自分を強く惹きつける匂い
自分を強く捉えて離さない匂い
匂いに釣られて行った先には、強い光があった
黄金など霞む程の眩い光が•••
天から声が聞こえた
「竜よ、お前に対となる者を授けよう」
光は竜型を取り、竜にクルクルと絡み付いた
そして、二つの竜は一つに溶け合った。
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カレントは、主人の願いを速やかに成就させる為、フィリップ王に面会してい。
「はい、番様はこちらの魔導具開発部に所属しておられるシンシア•ジェッタ様でございます。」
カレントはシンシアに鞄を返す前に事前に身分証を確認していたのであった。
「今すぐ確認を取ってまえれ!」
フィリップ王の命令でベーレンス室長が呼ばれ面会室に入室した。
「ああ、先ほどまでジェッタ君、いや、番様は部室にいらっしゃいました。
大変、具合が悪く、いや、悪いようにお見受けしました。」
「シンシア嬢は、竜王殿に連れて行かれ、そのまま昨夜は監禁されていたのだよ!」
「そうでしたか••」
(俺、ジェッタ君に脅すような事言っちゃったよぉ~、ヤバいよ!
ジェッタ君が逃走したの俺のせい??)
ベーレンス所長の心臓はバクバクと脈打っていた
「しかし、始祖様も、番が見つかって嬉しいのは解るが、、、
二ヶ月の交際期間というものを、キチンと守ってもらわなくては困るではないか•••」
フィリップ王は、顎に手を当て、カレントを見た。
「あのぉ、ツガイ法の適応で、二ヶ月後に番の拒否権はあるんですよね?」
ベーレンスの問いにフィリップ王が答えた
「いや、竜族に関してはその適応は除外される」
「何故ですか?」
カレントが軽く挙手をし、立ち上がった
「それは私から説明いたしましょう
竜族は。番に拒絶されると生きられないのです。
獣人の番は、相性の良い相手なのですが、竜族の番とは、己の半身と言われております。
その半身に拒絶されると言う事は死を意味します。」
「あっ! 王配伝説の竜殺しの短剣 」
ベーレンス所長は声を上げた
「そうでございます。
我々竜族は、番に拒絶された時の為に、自死用の短剣を所持しております。
それ程、番を失う事は辛い事なのです。」
「じゃあ、交際期間と言うのは••• 」
「 ええ、獣人は番と出逢った直後から一週間程、発情期が続きます。それが過ぎると少し理性を取り戻すのです。
二ヶ月あれば、婚姻してもいいと思える位の情が湧くでしょう。
頭を冷静にし、相手との絆を深める為の期間でもあるのです。
でも、それは、只の獣人の話です。
竜族の番は拒否権がありません。
二ヶ月の猶予とは、あくまで人族の法律に従っているというパフォーマンスに過ぎないのです。
番に拒絶された竜は、子孫を残せないのです。
他の竜に卵を産んで貰う事すら出来ません。
番以外の相手を精神的に拒否してしまうのです。」
「じゃあ、ジェッタ君が拒否したら••••
竜王様は、子孫を残さず、、、」
「ベーレンス、ようやく理解出来たかね!
そうだよ、この国から竜王がいなくなると言う事なのだ。
だから番法は、よく読むと、竜族は例外と記載されている。」
フィリップ王はそう答えた。
「では、私は人族の法に則り、裁判所にシンシア様のツガイ届けの手続きをして参ります。」
カレントは書類を鞄に詰め席を立った
ベーレンスは少し考え、あっ!と声を出した
「私の甥の婚約者が、ジェッタ君の友人になります。そちらに向かっている可能性があるかもしれません。」
「ベーレンス侯爵令息の婚約者と言うと•••
カンピョン公爵令嬢だな!」
「はい!」
「そちらにも、兵を向かわせよう。」
こうしてシンシア•ジェッタの捜索が開始される事になった。
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その頃シンシアは、
王宮で探索隊が結成されているなど梅雨知れず、、、
「王宮は危ない! 市街地にでも潜伏しているのが安全かな?」
シンシアは家に向かって足を進めた。
ジェッタ家は市街地で宿屋を営んでいる。
宿屋の二階 奥が自宅になっており、そこにシンシアの部屋もある。
「取り敢えず、お金と持てるだけの魔導具と魔石。
後は、、野営するかもしれないからキャンプのセットも持って行こう。
ナイフに、念の為、着火オイルも持って•••」
「「ガタン」」
いきなり部屋の戸が開き、シンシアの心臓がドキリと跳ね上がる
「あっ、姉ーちゃん帰ってたのか!」
そのにいたのは弟のノアだった
「どこか旅行にでもいくの?」
斜め掛けのスポーツバッグを2個左右の肩に掛けたシンシアの姿は、ノアにとっては旅行支度に見えた様である。
しかし、実際の処、その切羽詰まった出立ちを見ると、弾丸が詰まったバッグを持った『世界一 運の悪い男 ジョン•マクレーン』を彷彿とさせるものがあった。
「ちょっとね、母さんは?」
「裁判所の人が来て話してるよ!」
(裁判所?)
シンシアは集音の魔導具を取り出し、床に貼り一階の音を拾った。
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「と、言う事で、シンシア様が番だとドミトリアン竜王陛下から届出がでております。
二ヶ月の交際期間を終えると晴れてシンシア様は竜王妃におなりあそばします。」
「まあ!シンシアが竜王妃だなんて•••」
「俺の子が竜王様の番だなんで、なんて光栄な•••」
「さあ、此方にサインを」
(お母さん、サインしないで!お願い)
シンシアの願いも虚しく、下の階からカリカリとペンが引っかかる音がした。
(、、、、もう、ここには居れない)
シンシアは弟の手を取って言った
「ノア、お姉ちゃんは逃げる、お母さん達が私を国に売ったの。
お姉ちゃんとここで会ったのは内緒にしてて、お願い!」
シンシアはそう言うと、窓からコッソリと逃げ出した。
ノアは目に涙を溜め、まるで今生の別をしたかの様な神妙な顔で、窓から姉を見送っていた。
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竜王城では、
ドミトリアンの暴走が止まらない。
彼は地下に豪華な部屋を作っていた。
世間一般に言われる[ 座敷牢 ]というものである
「おい、冷えぬように厚い絨毯を敷き詰めろ!
壁と床、魔封じの魔法陣を書き込め!
天井も忘れるな。敵は魔法を使う。
ああ、そんな粗末なベッドではイカン。
人族は壊れやすいのだからな。ふかふかな物を用意しろ。」
皆は不思議に思った。
人族の魔術師の敵とは?
一体全体、誰をこの地下牢に収容するつもりなか?
そして、何故ここに、フカフカベッドが••••
「いったい、ここにはどんな罪を犯した方が入るのでしょうか???」
「我の番だ!」
「はっ?」
「あ奴は、我が番の癖に、逃げ出しおった!
今度捕まえたら、逃げられぬよう檻に入れようと思ってな!」
「はぁ????」
ドミトリアン配下の者達は目が点になった
(番様を檻に閉じ込める???)
「「カレント様、早く帰って来てください。
この暴走機関車をも止めれるのは、カレント様だけです。」」
皆はお星様に、有能な執事カレントの即急な帰宅を祈って手を合わせた。




