⒌ 「うっかり」
ノーラさんの、あざといウインクで倒れそうになったのをこらえた瞬間、さっきいた謎の空間、水晶玉の中から外へ出てきた。
「いってて…」
外に出たのはいいものの、その反動で大きくしりもちをついた。
そういえば、ノーラさんは。
元居たベッドにややバランスを崩した体制で座っていた。
ちくしょう!
ふかふかだから絶対痛くないじゃん!
そんな感じで一人じだんだを踏んでいると、ノーラさんから指輪のようなものを渡された。
これ何??、みたいな感じでノーラさんを見つめていると、指にはめるようジェスチャーされたので、薬指にはめてみた。
はめたときは少し大きかったが、はめてから、すこしうねうねしてから、ぴしっと指にはまってしまった。
それがあまりに寄生虫みたいな動きをするもんだから、あわてて外そうとすると、ノーラさんがダメダメ!って首を振ったから少し我慢。
うねうねが収まったのを確認した後、今度はノーラさんが喋りかけてきた。
「どう?
私の声、聞こえる?」
「は、はい、聞こえますけど・・・。」
・・・なんと。
この世界の言葉が喋れるようになっていた!!
それまでよくわからない言葉を聞いてたもんだから、やっと母国語が他人の口から聞けて少しホッとした。
この世界にきてずっと緊張していたのか、なんだか眠くなってきた。
そうか。もう夜か。
そんな感じで俺がいすでうつらうつらしていると、ノーラさんがバタバタと部屋を出て、軽いブランケットとを俺にかぶせてくれた。
かすかに、ノーラさんの匂いがした。
俺はノーラさんの優しさを堪能しながら、深い眠りに落ちた。
◇◇◇
チュンチュンチュン。
外から入ってくる太陽の光と、ややうるさい小鳥の声で俺の異世界2日目の朝は始まった。
久しぶりの心地よい眠りを堪能した俺の頭は、珍しくすっきりしていた。
鼻歌交じりに起き上がると、そこは布団だった。
どうやら俺が椅子で寝た後、ノーラさんが敷いてくれたらしい。
「やっさし・・・。」
と親切すぎるノーラさんはどこか、と部屋を見渡すと、隣のベッドで寝ていた。
自分はベッドなのか、と文句を言える立場にいない俺は無言になったがそれでも、やはり女の人にやさしくされるっていうのは不慣れだが
ものすごく嬉しい。
ま、それはいいとして。
心地よく起きたのはいいものの、特にやることがなかった俺は、ノーラさんが昨日言っていた俺の膨大な魔力量、とやらについて考えてみた。
だが魔法についてはアニメとかで見るぐらいの、正しいと言っていいのかわからないあやふやな知識しかなかったため、とりあえず自分の手にぐっ、と力を込めてみた。
すると、手から白い光線のようなものが放たれ、一直線に飛んで行った。
けっこうゆっくりなスピードだが、例えば・・・犬が走ってるくらいの・・・
って、おぇあっ!?
壁に穴空いてるーーー!!!
やべえ!
そんなに高くない位置で放ったのが幸い、テーブルを少し動かしてカモフラージュ…とまではいかないが、半分くらいは隠せたからいいだろう。
「しっかし、物騒な魔法だ・・・」
一人そうつぶやくものの、やっぱり魔法が使えるのはすごく楽しいし、なんとなくこんなナルシスト的発言をするのもなかなか優越感に浸れる。
なかなかいい体験をした、と上機嫌でノーラさんが起きていないか後ろを振り向くと、ベッドの上からこちらを見るひとりの女性がいた。
「あ。」
彼女と目が合って、俺はフリーズ・・・脳が処理落ちした。
(やばい、怒られる)
本能的に察したが、もう逃げ場なんてない。
どうしようか、そんなに考える時間もないのにただひたすらこの場から少しでも離れる方法を必死に考えた。