⒋ 「実情」
・・・大丈夫か?、と彼女に声をかけられて、やっと我に返ることができた。
そう、転生してしまった後、俺は性別が変わってしまったんだ。
受け入れ難いが、これが現実だ。
「すーーー、はぁーーーーー。」
「すーーーー、はぁーーーー。」
何度か深呼吸をした後、俺は彼女に、前々から思っていた疑問をぶつけた。
「あなたは、何者なんですか?」
すると、彼女は少し考えた後、
「私は、もともと時空を司る神だったーー」
そう前置きした彼女は、やがて決心したように話し出した。
「ここ数百年の間は、私が時間や空間を司る、要するに管理する神だった。
だが、なぜか時空の理から外されてしまい、その反動でこの星に落ちてきた。
時空の理から外れた理由も分からないが、たまにそういうこともある。
例えば、どこかで大きな災害とか、星が消滅したりだとか。
そういうものの反動で時空の理から出そうになることもあるが、大概の場合はすぐ元通りになる。
しかし、私が時空の理から出たときの反動は、災害とか星が消えた、レベルじゃなかった。
一瞬で、気づかぬ間にこの星にいたんだ。
そして、元々あった2本の角のうち、一本が根元から、もう一本は3分の1が割れてしまった。」
と、そこで初めて頭の上に巻いてあるものを取った。
確かに、彼女の言った通りに欠けていた。
俺が角を見たのを確認すると、彼女はまた話を続けた。
「私の場合、このツノが時空を操る根幹となっていて、たまにある時空のずれに対する反応は自分
で対応していた。
が、ここに来た時の反動を吸収したのは、ツノだったのだろう。
反動は意図的に吸収できる、というレベルではなく、体が条件反射てきにしか対応できないほど
大きかった。
だから、その衝撃をモロに角が受けたんだ。
そうして、この星での生活を始めたわけだが、十中八九、何をするにも困った。
私はもともと時間を少し食べるだけで食べ物を食べるという概念がなくて飢え死にしそうになった
し、寝るということもこの世界では
しなくてはならなくなった。
だけど、魔法の腕は時空を操れるほどだから、そこそに自信があった。
しかし、魔法の原動力となっていたのはどうも角らしい。
当然のことながら、、1本と四分の一を消失した私は魔法の腕が格段に落ちていた。
方向をコントロールできなかったり、魔力不十分で不発したり。
そんなこんなで困っていたわけだが、私を王国お抱えの魔術指南役として推薦したい、と言ってく
れたのが体格のごつい、巷では性悪
だが実力派の王国騎士団第二大隊 隊長のアレクサンダーだ。
私は自分ほど弱いものが王国お抱えになってもいいのかと少々不安だったが、自分で食っていく自
身もなかったので仕方なく彼についていくことにした。
だが、どうだ。
この王国では、魔術を扱えるものが極端に少ない。
騎士団が5000人近く所属しているのに対し、魔法師団はたったの100数十名。
私は愕然とした。
・・・そのレベルにも。
100数十人のうち、魔法が10回に一回打てればまあ上出来、3回連続で打てたらエリート、と
呼ばれる具合に。
かくして私はこの王国で魔術を教える教師となったわけだ。」
一通り話し終えたところで彼女は一呼吸はさんだ。
「ここまでで何か聞きたいことはあるか?」
おいおいマジかよ、まだあんのかよ、と口に出しそうになるのをとめつつ、特にないです、と伝えると彼女はこくりと頷き、話を続けた。
「魔法師団の指南役となって数か月、私は元の世界へ戻る方法をずっと探し続けた。
ある時は王立図書館、通り過ぎる商人、地方の村々の人々。
特に目立った収穫にも恵まれずに困り果てて居た頃、地方の村の文献で共通しているものがあるの
に気付いた。
それは、遺跡とかにもある文様なんだが、白い、光る発行体のようなものどこの遺跡、地方の村の
文献にも酷似しているものが載っていた。
私はこの白い光る発行体について調べようと思った。
すると、その白い物体は「ソウル」と呼ばれていて、これを集めるたびに所有者の一部に還元さ
れ、あるところへ行くと、その者の願いをかなえてくれる。というものがクコ族という地方民族の
神話に記載されていた。
また、この白い発行体というのは時空の反動ができた際に体の周りに出てくるものと似ているの
で、何かしら自分がこの世界へ飛ばされてきたことと関連性があると思って収集方法を集めている
最中だ。」
そこで俺は
「集める方法さえわかればまぁ・・・。」
と、いつの間にか彼女を応援する気持ちが心の中にできていた。
そうつぶやくと、彼女が
「そ・こ・で!!」
と声を張り上げ、びっくりした俺を傍目にまた話し始めた。
「この世界の今現在自分で行くことが可能な所をくまなく探したがどうもソウルがどこにあるのかは
っきりしなかったので、自分で探すということを諦めて、今度はソウルがどこにあるのか大体でい
いから見当がつける人を探し始めた。
しかしまぁ、これがなかなかうまくいかなかった。
そもそもソウルの存在を知る人が少なかったのと、ソウル自体見える人がその中からさらに絞られ
た「膨大な魔力量を持っている人」にしか見えなかったからだ。
ソウルという存在を知って数か月、私はこの条件に当てはまる人物を世界的に名高い大魔法紙な
の域を出て、学校や現役魔術師、さらには引退した魔術師。奴隷市場までくまなく探した
が・・・。
これもまた、自分がいける範囲で探したが失敗に終わった。
しかし、最後に自分が飛ばされて、働いてるこの国「ラグニゲル」国内を探してないことに気づい
た。
かなりの小国なので、有名な人物や奴隷市場、学校の数も少なかったが探してみることにしたん
だ。
だけど、この作戦も失敗に終わるのか、とまたしても諦めかけながら最後の奴隷市場に行ってみる
ことにした。
この奴隷市場ってのが、誰が経営しているのかは知らないがなかなか質がいいと評判のところだっ
た。
質がいいだけに値も多少張るが、払えない、という規模でもない。
半ばあきらめかけながら入った市場に、お前がいた。
私は左目で魔力量を測定できるのだが、お前はすごい魔力量を持っていた。
一目で買おうと決心し、今に至る、というわけだ。」
俺は、魔力というものを持っていると聞いて胸が高鳴った。
魔力があるということは、多少なりとも魔法が使えるということだ。
また、彼女を羨ましいと思った。
それは、一時の気持ちの高鳴りから来たのかは分からないが、少なくとも大学受験に向けて勉強す
るっていうのだけで挫折していた自分はなんてちっぽけなんだろう、と。
とにかく、確固たる目標へ向かって着実に突き進んでいく彼女の姿に惚れた。
・・・単純に、容姿が美しかった、というのもあるだろうか。
そんなことを独りよがりに考えていると、彼女の方から話しかけてきた。
彼女は、「まだ名乗ってなかったね」と言い、
「私の名前は、ミラノ・ノーラ。
よろしくね。」
と小さくウインクをした。
一瞬、鼻血が出たかと思ったのは、気のせいだった。