⒊ 「驚き」
城の中へ手を引かれ入っていくと、内部の装飾に感動した。
きらきらと輝く無数のシャンデリア。
造形の美しい壁の装飾。そしてその周りにはよくわからない植物。
甲冑を着た兵士もいた。
最初、海賊にさらわれたから、衣装に驚くことはないが、なんとなくーー「剣と魔法の世界」ということに勘付いていた。
やはり、俺は魔法を使ってみたい。
日常の、ほんのちょっとしたことでもいいから使ってみたかった。
そんな激イタな妄想をしていると、彼女が止まったので、俺も止まった。
彼女は俺によくわからないことを言った後、俺が???みたいな顔をしていると、納得したように頷き部屋に入っていった。
入った部屋には本当に何もなかった。
言うなれば、ミニマリストみたいな。
ベッドが1つと、タンスと、いす、机。
強いていえば、机が大きいくらい。
小学校の理科の実験室にある机なみに大きい。
ちょっと腑抜けた感じでいると彼女に、いすに座るよう促されたので、従った。
彼女はベッドの端に座ると、俺に近づくよう手を振ったので、椅子ごと移動した。
その間、彼女は手から岩の塊のようなものを出していた。
ーー魔法だ。
想像通り。ここは剣と魔法の世界だった。
俺は腰を落ち着かせるとこれからのことにものすごく期待していた。
こんな夢のような世界があるなんて、と。
彼女が手から何かを作り出した、と思うと、それはふわふわと俺と彼女の前に浮いた。
その物体は浮いたかと思うと、今度はやや光を伴って、大きくなった。
だいたい、水晶玉くらいの大きさに。
彼女が両手を触れて、とジェスチャーしたのでどうなるんだろう、という緊張とともに両手をピタッとつけた、
それを見て、彼女も水晶玉へと手を触れた。
‐‐‐
水晶玉に触れると、体が一瞬浮いた感覚になり、吸い込まれていった。
ぐいーんと、水晶体の中心に引っ張られている感じだ。
「うわあああぁぁぁ・・・」
と声にもならない悲鳴を出しながら吸い込まれる感覚が徐々になくなっていくのに気付いた。
水晶体の中はもやがかかっているような、不思議なところだった。
そこで気づいた。
「あれ、これやばくね?」
うん。俺を買った人もいないし帰れない!
もしかして、彼女は俺をここに監禁して飢え死ぬまでずっと観察するってのか!?
と慌てふためいていると、物音がしたので背筋をぴんっと張り詰め音の下方向を凝視する。
もやがかかっているのでよく見えないが、足音とともに影が近づいてきた。
なんだ、殺戮兵器か!?と身構えていると影の正体が分かった。
俺を買った人だ。
姿をみて俺はホッとした。
これが青鬼とかだったら狂死するわ。
彼女は俺の姿を確認すると、少し安堵したかのような表情を浮かべた。
そして綺麗な透き通った声が聞こえてきた。
あまりの美しさ、いや麗しい声に音が追いついてこなかった。
「さっきから、想像がうるさいわよ。
この場所は私が作ったんだから、あなたの考えてることが頭に響いてくるの。
だから・・・その・・・・。」
と彼女は語尾につれてしどろもどろになっていった。
俺が彼女を見て美しい、とかなんて綺麗な声なんだろう、とか褒めまくってるから照れてるんだろうか。
気持ち、頬が赤く染まっているような。
ってか、声と顔がきれいすぎて気づかなかったけど、この人、日本語喋ってる・・・!!
まじか。
なんでだ?
ということは俺も通じんのかな。言葉。
「あ、あの・・・。」
そう言いかけて、自分でも驚いた。
女子の声だ。
そうだった。俺、性別変わってるんだった・・・。