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灯台守男爵のほのぼの?スローライフ~大変なことも有るけれど、常々平和な我が家です~

作者: シャチ

ちょっと、下位貴族の話を描いてみたくてさくっと作ってみました

この国において、ロイド男爵家を知らないものは少ない。

別に特別大きな功績を挙げたであるとか、強力な魔導士であるとかではない。

海に面するフランデル王国において、唯一”島”にある灯台を守っている由緒ある家系として有名なのだ。

海洋国家を自負しているフランデル王国において、灯台は大変重要な設備であり、各上位貴族の領地にある灯台を管理しているのは、国から指定された男爵家がになっている。

多くは魔法を使って光を発し、海上運航の手助けをしている家系の為、皆光魔法が使える。

現在の灯台はだいぶ技術も進歩し、光源となる魔道具に魔力をためることで一日中発光するようになっており、そのレンズの手入れや維持メンテナンスが仕事である。

そんな男爵家はこの国に10個あり、すべて「灯台守男爵」と呼ばれている。


私はそんな、灯台守男爵の長男サム・ロイド。

一応は男爵令息と言うことになる。

今は貴族学校に通う寮生だ。

専攻は航海法と農畜産物科。

私の代の貴族は数が少なく、この学校においては1クラスしかない40名。

5つ下の代がいびつに人口が歪んで多く、王太子殿下がいたりする。

辛うじて男女は半々ぐらいであり、何とか婚約者を探したいと思って早1年。

あと2年しかないが、なんとか運命の人と出会いたいものである。


ここで、もう少しロイド家について補足しよう。

フランデル王国で唯一島にある灯台を守る、灯台守男爵で、島の名前はその名もロイド島。

その歴史は古く、フランデル王国創設期に王より任命され、今に至る。

建国当初かなり気合を入れて作られた設備であり、15mの灯台と併設される形でロイド家の屋敷がある。

島までは本土の一番近い港から約1日ほどかかる距離で、この灯台が外洋から戻ってきた船に対して「陸が近いぞ」と示す灯台である。

島自体は小さく、灯台周辺以外は低木に覆われ島の周囲は崖になっている。

それこそ半日もあればぐるっと一周できる。

屋敷には大きな倉庫もあり、自給自足した農作物などを保管し皆で食べる。

島には昔から仕えてくれている執事家があるだけで、私たち家族を入れて総勢10名ほど。

月に2度、領主であるダニエルズ侯爵から給料と生活物資が送られてくる。

仮に補給が切れても1ヶ月以上は不自由なく生活できる体制を整えているし、それが王命でもある為、支援は手厚くしていただいている。

おかげで、ロイド島は税金を払う必要がない。

何せ外に対して商売も出来ないし、何かあってもほぼ孤立無援の地だからだ。

私が学校を卒業したら、両親は隠居するという。

男爵位を譲ったら本土でゆっくり過ごすんだそうだ。

私もそうしたいと思っているが、そのためにはまず相手を見つけなくてはいけない。


私自身、学校に来てから気になる女性がいないわけではない。

ベル・ライリー男爵令嬢。

ライリー男爵家の三女だ。

ライリー家は古くから王城に務める文官の家系で、財務関係の事務仕事をされている。

ベルは三女なのもあり、男爵令嬢ではあるが、あまりきっちりと貴族教育されたほうではないようで、基本は出来ているが、なかなか活発な女性だ。

土いじりが好きだそうで、花だけでなく、野菜も自分で作りたいと園芸部で学校の花壇に勝手にニンジンやカブを植えて怒られるような人である。

ただ、私から見れば彼女は大変魅力的だ。

農業に対する嫌悪感がなく楽しめる事、小柄ではあるが体が丈夫なこと、クリッとした瞳のブラウンストレートの髪など外見も私好みなのだ。

是非お近づきになりたいとおもい、声はかけているのだが、なかなか良い答えをもらえていないので、少し焦ってもいる。

彼女は他に好きな人がいるのではないだろうか?


*****

私はライリー男爵家の三女でベルといいます。

上に兄が二人、姉が二人もいるので、学校を卒業したら貴族ではいられないかもしれません。

それに、結婚祝いも出ないような娘を引き取ってくれるような方は良くて商家ぐらいなもの。

我がライリー家は王城の文官なため、領地もなく、繋ぎを求める貴族も少ないので何とか学園にいる間に相手を見つけないといけません。

最悪、見つけられないと、高位貴族の家のメイド程度しか職がないのが現実。

そうなると、趣味の土いじりはあきらめるしかありません。


土いじりが好きといったのは、農作物を育てるのが好きだから。

これは母の影響で、母は地方貴族の子爵家の出で自前の農地を持っていたからか、王都の家の庭でカブやニンジンなどを植え庭を手入れして園芸を盛んに行っている。

私も学校で園芸がしたく、園芸部に入ったのだが、周りはちゃんとした貴族令嬢ばかり。

お花も鑑賞がメインで、土を耕すとかをしたことがない人ばかり。

普段の活動も、庭師が剪定した鉢植えをお持ちになって品評会をしたりといった感じで、思っていたのと違っていて、疎外感を感じたし、なじめなかった。

学校の花壇にニンジンを植えて怒られたこともある。


そんな私に、やさしく声をかけてくれた男性がいる。

ロイド男爵家のサム様。かの有名なロイド男爵家のご長男。


現在のロイド家の跡継ぎはサム様だけだそうで、結婚相手を探しているという。

ロイド男爵家では、日々の生活のために農作業をするそうで、そういった作業に嫌悪感がない女性を見つけたいとも聞いた。

私にうってつけの嫁ぎ先じゃないか!と思うのだけれど、歴史ある男爵家と長年の王城勤めを認められて男爵になったライリー家だと歴史の重さも責任の重さも違う。

それに、私は三女だ。

結婚しても祝い金が出るわけでもなく、何か特別なつながりができるわけでもない私を貴族令息がもらってくれるわけがない。

何時も優しく声をかけてくださるサム様は、名前で呼ぶことを許可してくださったし、いい人だとは思う。

でも、私なんかよりもっと良い人がいらっしゃると思っている。

明るいサム様は男爵令息ながらも、伯爵令息なんかとも仲が良い。

私が近寄っていいわけがないと思うのだ。


*****

学校で仲良くしてくれているエドワーズ伯爵家のハロルドが婚約したそうだ。

政略結婚だそうだが、1つ歳上の侯爵家のご令嬢だという。

エドワーズ家は王国の穀倉地帯に領地を持つ貴族で、その小麦の収穫量は国を支えている。婚約した侯爵家は土地柄小麦が取れにくい地域のため、食料の融通で有利になるように、伯爵家としては商売がうまい侯爵家とのつながりを作りたかったという思惑があったんだそうだ。

お綺麗な方だそうだが、性格が少々きつく、結婚後は苦労しそうだとぼやいていた。

それでも「学校にいる間に婚約が決まったんだよかったじゃないか」と皆で祝福した。

ハロルドから「サムも早く見つけないとな」といわれたが、声をかけている令嬢から良い返事がもらえていないのだと素直に明かした。

誰か言えというので、ライリー家のベル嬢だとこたえたら、何とかしようと言ってくれた。

持つべきものは友だなと思う。

事結婚に関しては、わがロイド家は本人任せの為、なかなかこういった貴族のつながりを使えることがないから大変助かる。

ライリー家はエドワード家の派閥だそうで、声をかけてもらえることになったのだ。


*****

ある日学校から帰ると父から呼び出された。

「ベル、お前に見合いの話がある」

突然のことで驚いてしまった。

生まれてこの方、釣書などもらったこともなく、どこの貴族からもお声をかけてもらえなかった私に声がかかったのだ。

上の姉は上手いことやってすでに子爵家や男爵家に嫁いでおり、残っているのは私だけ。

そんな私にお見合いの話が来たなんて、どこの商家だろうか?

「私も驚いたが、ロイド男爵家からだ。しかもエドワード伯からの声かけだから、お見合い自体を断るのは難しい」

「え…ロイド男爵家ということはサム様ですか?」

「なんだベル。知っているのか」

「はい…。学校でよく声をかけていただけるものですから」

サム様が私を指名してくださっている?

学校ないでお声がけいただいているけれど、本当に私なんかでいいのだろうか…

「そうか、顔見知りなのか。ベル、お前はロイド男爵令息をどう思っているのだ?」

「それは、その…明るい方ですし、他の令息とちがって彼だけは私にやさしくしてくださいますが、他のご令嬢やご友人の方にも優しい方ですので、まさか私がと混乱しております」

「好ましく思っていないなら、お前からお断りするしかないぞ?」

「そ、そんなことありません!サム様がすいてくださるなら、私は嫁ぎとうございます」

「そうか、サム・ロイド氏だが、今度の土曜日にお一人で来るそうだ。失礼のないようにな」

「わかりました。お母様とも相談いたします」

「うん、そうしなさい」

お父様との会話が終わり、私は慌ててお母様へ相談に行く。

正式なお見合いなんて初めてだ、どんな格好すればいいのかすらわからない。

真新しいドレスなんて持っていないし、今から作るとか無理だ。時間的にも金銭的にも。

このチャンスを逃さないためにも失礼がないようにしなくてはいけない。


*****

私は今日、ライリー家に来ている。

入学祝に父から送られた礼服がまだ着られてよかった。

学校に入ってから少しは体を鍛えたので、入らなかったどうしようかと心配になったものだ。

ハロルドのやつやることが早い。

まさか1週間も開かずに正式にお見合いすることになるとは思わなかった。

ライリー男爵からの返事ももらっており、ベル嬢も乗り気であるらしい。

よかった、思いは通じていたようだ。

「ロイド男爵のサムと申します。お初にお目にかかります」

胸に手をあて礼をする。

この国での貴族の礼である。

「ロイド男爵令息、楽にしてくれ。同じ男爵家だ。それほど固くなることもないよ」

目元が柔らかく、ベル嬢と同じ髪色の男性。フランク・ライリー男爵がやさしく声をかけてくださる。

ベルの御父上だ。

隣には妻であるケイネ・ライリー夫人。

その後ろに今日のために着飾ったと思われるベル嬢がいる。

ライトグリーンのデイドレスで、袖はそれほど広がっていない胸元は隠した品があるドレス姿は、装飾はそれほど多くないが、彼女によく似合っている。

私の髪の色に合わせてくれたようで、それだけで嬉しくなる。

「では、こちらへ。すでにご存じと思いますが、改めて紹介させていただきます」

男爵に導かれ、屋敷内の応接室へ。

王城勤めの男爵家らしく、屋敷は中々の広さだ。

我が家の2倍はあるだろうか?

そもそも応接室があるだけ良い家だと思う。

「こちらが娘のベルです。学校では度々お声がけいただいていると娘から聞いております」

「よ、よろしくお願い致しますサム様」

「こんにちはベル様。今日は一段と綺麗だね」

「あ、ありがとうございますっ」

伏目がちになり、頬に朱色が差す。

良かった、私のことを嫌ってはいないようだ。

ちょっと緊張しているようだが、両親もいるせいだろう。

ソファーに座るように言われて、腰を下ろすと、ライリー男爵から質問を受けた。

娘の何を気に入ったのかと。

私は素直に答えることにした。

自由活発なところ、農業に対して嫌悪感がなく、むしろ自ら作物を育てようとするところ、何より見た目も好みだと。

「末娘のせいで、あまり貴族教育もしてやれなかった娘だが、ロイド男爵令息さえよければもらっていただきたい。祝い金はほとんど出せないような貧乏男爵家なのが申し訳ないが…」

「いえ、お気になさらず。ロイド家はもともと辺境も辺境。島の灯台を預かる灯台守男爵ですから、普段の生活ではお金があっても困るほどですので、お気になさらず。それに灯台守男爵であるがゆえに、貴族とのつながりも弱い。お嬢さんにそういった”貴族付き合いの苦労”をかけることはないと誓いましょう」

「そういっていただけるなら、大変心強い」

「それでも、何かロイド家のためになるものを輿入れにはもっていかせたいわ…」

ライリー夫人からありがたい話を聞いた。

たしか、ライリー夫人は農業が盛んなエドワード伯の一部を切り盛りする子爵家だ。

可能なら新種の麦などの作物の種をもらえると助かる。

「お心遣いありがとうございます。我がロイド家は島で隔離された生活をするため自給自足をしております。もし可能であれば、寒さに強い麦の種などいただけると助かります」

「えぇ!その程度でよければ実家に問い合わせてみましょう。ご希望の物が手に入ると思いますよ」

ありがたい回答をもらえ、ライリー家のご両親は部屋を後にした。

後は二人で仲を深めてくれということらしい。

しっかりとベル嬢の気持ちを確認して、今後の話ができればよいと思う。


*****

サム様が我が家に来てくださった。

お父様からの質問にりりしい顔で答えてくださった内容に思わず赤面してしまった。

こんなにも思っていてくださったのか、と。

恥ずかしぬかと思った。

それにしてもサム様は抜かりがない。

お母様の提案に、さらりと必要な物をこたえてらした。

灯台守男爵と言えど、しっかり貴族らしくて惚れ直してしまった。

両親が部屋を出て二人きりになると、静寂が訪れた。

何を話せばいいのだろう?

サム様がすいていることは分かったんだから、私もお慕いしていることを話せばいいの?なんていう?

「ベル嬢、緊張していますか?」

サム様がやさしく声をかけてくださる。

そんな優しくしないで、本当に私なんかでよいのですか?

「サム様、私なんかでよいのでしょうか?ロイド家ならもっと素敵な方とも婚約できるのでは?」

「そんなことはないよ。ベル嬢以上の女性なんて少なくとも学校にはいない。私はあなたに惚れたんだ。それとも私のことは嫌いかい?」

「そんなことありません!ただ、私自身が信じられないだけで…」

そういうと、サム様が私の手をそっと取ってくださり目の前に跪かれる。

「それを言うなら僕のほうもさ。王都育ちのご令嬢では島の生活は大変だと思う。結婚しても不便をかける自信があるが、ついてきてもらえないだろうか?」

「っ!!よ、よろしくお願い致します」

「では私のことはサムと呼んでほしい。わたしもこれからはベルと呼ぼう」

サム様からベルと呼ばれ、私は耳まで熱くなってしまう。

口がはくはくして、言葉が紡げない。

”サム”と、敬称を無しで呼ぶなんて、慣れることはあるのだろうか?

「ベル?」

私が固まってしまっていたため、声をかけてくれるも、さらに私は頭に熱がこもっていく一方で、身動き一つとれない。

好きな人に名前を呼ばれるのがこんなに破壊力があるなんて…姉から借りた恋愛小説なんて子供の戯言のように感じられてしまう。

「サ…サム」

「なんだい?」

よく見れば、サム様もちょっとふるえている。

緊張なさっているようだ。

目はしっかりと私の顔から外れないが瞳が震えている。

緊張しているのは私だけじゃない。

やっと体の力が少し抜けた気がする。

「えっと、宜しく、お願いいたしますサム」

「あぁ、よろしくねベル。これからよりお互いを知っていこう」

こうして私たちは無事に婚約した。


*****

正式にベルと婚約することができた。

ハロルドには迷惑をかけたといったら、親友じゃないか気にするなと言ってもらえた。

良い友達を持ったものだ。


私は寮住まいなので、ベルとは学校内でデートをすることが多い。

ベルも学校内で女友達がいるわけだが、昼食や放課後は一緒にいてくれる。

学校在学中に、こうして婚約する貴族は少なくない。

私たち以外にも婚約者同士で昼食を食べたり、放課後にスポーツを楽しんだり、お茶会をしたりする貴族はそれなりに居る。

中には政略結婚による婚姻のため、全く学校内で会話をしないものもいるが、多くはいかなる理由があれ婚約すれば互いを理解しようと努力するものだ。


ベルとじっくり話すようになってから、より彼女の魅力は増した。

確かに貴族令嬢としてみると、少々令嬢らしくないところもないわけではないが、心から笑顔を浮かべる彼女をみていると、逆に張り付けた笑顔の令嬢達よりよっぽど話しやすい。

それに、体を動かすことに抵抗もないようで、先日は一緒にテニスをしたほどだ。

領地に戻ったら、空き地にテニスコートを作るのもいいかもしれない。

チェスなど頭を使う遊びは少し苦手なようだが、そこもかわいらしくある。

彼女は園芸を趣味とするだけあって、草木に大変詳しかった。

島では育ちにくい作物があると話すと、是非品種改良したいと言ってくれた。

ロイド家として、自給自足の安定は至上命題なので、良い人が見つかったと本当に思う。

彼女は、水属性魔法が使えるそうだが、あまりうまくないという。

それでも、島において、水魔法は重要だ。

これは付き合い始めるまでは知らなかったことだ。

水魔法が苦手とはいえ島で真水を手に入れるのは苦労する。

生活に使う飲み水程度が魔法で出せるならそれに越したことはない。

いくら真水を作れる魔道具があっても壊れると、生命にかかわるので大切な事なのだ。


趣味も、能力も申し分ない。

お互いに話していて楽しいし、良い家庭が築けると思う。

卒業し、彼女を連れ帰るのが楽しみだ。

島で待つ両親と執事家族を安心させられるだろう。

ロイド家は安泰だと思われる。


*****

サムと共に卒業パーティーに出席する。

婚約してから二人の仲は深まったと思います。

サムはいつも私にやさしくしてくれる紳士だし、結婚するまでは清くいようと言ってくださった。

中には婚約するとこっそりと肉体関係を持つ貴族もいるなかで、サムは本当に紳士だなと思う。

卒業パーティーのドレスはサムが送ってくれた。

島暮らしで大変だというけれど、侯爵家からの給金を回してもらい、ドレスを作ってくれた。

そして、結婚指輪も。

サムに愛されていると再度実感できる。

卒業パーティーは貴族のデビュタントも兼ねている。

これからは成人として扱われる。

初めて国王陛下をこの目で見ることができた。

40名程度のクラスなので、しっかりと目を合わして一言交わすことができる。

サムは陛下から、今後も海運の安全の為ロイド島を頼むと言われていた。

私はサムをしっかりと支えるようにと。

灯台守男爵家は基本的に社交の参加や納税の義務がない。

王国海運の安全を守るための貴族である。

私もその一員となるわけだ。

灯台の管理などについては島についてから説明してくれるという。

王都から陸路でダニエルズ侯爵領へ行き、そこから船で1日かかるそうだ。

天候が悪いときは日程が前後すると聞いている。

王都から出ること自体が初めてで、ワクワクしている自分がいる。

道中、様々な領地を見ることができるそうだ。

明日には王都の教会で結婚式を挙げ、その足でロイド島へ向け出発となる。

両親と離れ離れになるのは、寂しさもあるが、サムと一緒になれる嬉しさが今は勝っている。

島には、ロイド家に仕えている従者家があるそうで、従者の方とその奥さんと娘さんがメイドとして、息子さんが補佐として島で暮らしているそうだ。

そして、ロイド男爵はサムが戻ると爵位を譲り本土に隠居するという。

侯爵領に内にある別邸で余生を過ごすとのことだ。

従者の方々とも仲良くできるとよいなと思う。


*****

ベルと結婚式を行った後直ぐに出発した旅は、道中問題なく侯爵領の港町まで到着した。

花嫁衣裳のベルはほかの男に見せたくなくなるほど綺麗だった。


旅の途中、ダニエルズ侯爵にも挨拶ができ、結婚を祝福してもらった。

今後も変わらず支援していただける言質もとれ、安心している。

ライリー夫人からは何種類もの農作物の種をもらえた。

ベルの趣味用も含まれているそうだ。

品種改良をして島に合う作物を作ってほしいと笑顔で送られた。

皆いい人で、今後もしっかりとお付き合いしたい。


港町ヘルダーについたタイミングで、天候が悪化した。

本当であれば、その日のうちに船が出る予定だったのだが、天候が回復するまで延期となった。

数日はヘルダーの宿住まいをしなくてはいけない。

ダニエルズ侯爵からいただいた結婚祝い金がなければ路頭に迷っていたところだ。


私とベルは宿で初めて体を重ねた。

それまで道中宿どまりではあったが、運よく?二部屋押さえることができ、同衾する機会がなかったのだ。

学校在学中、抱きしめてキスをしたことはあったが、それ以上はさすがに手を出さなかった。

ヘルダーの天候不良の関係で宿はどこもいっぱい。

唯一泊まることができた宿もダブルしかなかった。

「サム、やさしくしてくださいね」

夜、浄身を終えたベルの一言は、とてつもない破壊力だった。

なんとか理性で押さえつけ、最低限は優しくすることは出来たと思うが、やっと思いの人を抱けた喜びは語りつくせないモノだった。

おかげで、翌朝はゆっくりした時間に起きることになってしまった。

目が覚めベルと目が合うと、彼女がにっこりとほほ笑んだ。

彼女の頭をなでると目を細めすり寄ってくれる。

私の嫁は可愛すぎないだろうか?朝から理性を飛ばしてしまうところだった。


それから三日後、ようやく船が出ることになった。

ここから約1日。

ようやく愛しの人を両親に紹介できる。


*****

初めて船に乗りました。

私の私物はそれほど多くなかったですが、それでも人の背丈はある真四角の木箱一つにはなりました。

サムも、寮で生活していた荷物を梱包すると木箱二つになっていました。

それ以外にもロイド島へ搬入する物資が積み込まれました。

侯爵家からでるお給金は町での買い出しで大体使ってしまうのだそうです。

島では手に入らない肉類、燃料となる木材、一部の穀物やイモ類、葉野菜など食料品も積み込まれた。

あとは石鹼や紙類などの日用品も積み込まれました。

また、サムと一緒に本屋に行き、何冊か本を購入しました。

島では暇になることが多いそうです。

それらの木箱が次々と積み込まれ、甲板には10個ほどの木箱が並び、私たちも乗船しました。


潮風が気持ち良いです。

「大丈夫かいベル?」

「これが海なのですね、少々揺れますが風が気持ちいいです」

「島に近づくと、もう少し揺れるかもしれない、気持ち悪くなったらすぐ言ってくれ、酔い止めを用意するよ」

「ありがとうございます」


航海は順調に進みました。

夜は揺れてあまり寝れませんでしたが、島が見えてきたときはホッとしました。

ようやくサムの両親に顔を合わせてご挨拶ができそうです。


*****

「よく来たね!サムと結婚してくれてありがとう」

「父上、ベルがびっくりしてるから、もう少し貴族らしくしてくれよ」

船を降り出迎えてくれた両親がベルとがっちり握手しての発言である。

「ところで、二人は本当に島を出るのか?」

「うむ、まだ40とはいえアイラはもともと侯爵領の出だからな。お前が家督を継げるようになったら、二人で本土で暮らすつもりだったのだ」

「それは聞いていたが、少しはのこってベルに色々教えてくれてもよいんじゃないか?」

「それはお前の仕事だよ。アイラにも私が教えたんだ。そうやって愛をはぐくむもんさ」

父よ…なかなか乱暴な。

私とベルはもうすでに深い愛で結ばれているが、島での暮らしがより二人の絆を強くするだろうか?

「ベルちゃん、子供ができたらお手紙頂戴ね。その時は島に見に行くから」

母はまだベルの手を握って話している。

本当であればゆっくり晩餐会でもするところだろうが、この後昼食を一緒に食べたら、両親は島を出る。

すでに荷物の積み下ろしが始まっていた。

「生活に必要な家財道具は残っているから心配するな。二人の愛の巣の邪魔になるものを持っていくよ。まずは屋敷に行こう。従者のイーデン一家とも顔合わせさせなくてはな」

「それならせめて皆で晩餐ぐらいとればいいだろう」

「そうすると船に乗れるタイミングは2週間後だ。お前らに迷惑はかけんよ」

両親の決意は変わらないようだった。


*****

サムのご両親はとても明るい方だった。

特にお父様のジョン・ロイド男爵はとても、がっしりした体の方で、お母様のアイラ様はお綺麗な淑女という感じでした。

お二人ともサムに似ていて、結婚したことをとても喜んでくださいました。

子供ができたらお二人にもしっかりとご報告しなくては!

そして、昼食を食べる前に、イーデン家の人と顔合わせです。

イーデン家の人は昔からロイド家につかえる家だそうで、一緒に灯台を守っているそうです。

「ベル様、はじめてお目にかかります。マット・イーデンです。こちらは妻のクレアと娘のアンナ。トムはすでに会いましたね、お迎えに上がっておりますから」

「はい、よろしくお願いいたします」

「トムはまた船に乗って本土へ行きます。何かあった時の連絡要員です」

そういえば、ヘルダーの町であった時にトムさんには奥さんがいらした気がする。

「トムさんは本土にお住まいなんですか?」

「あぁそうだね。妻がヘルダーの生まれなんだ。だから俺は連絡係として本土にいるんだ」

「そうなのですね、では2週に1回ぐらいしかお会いできませんね」

「これも仕事だからね。でも今は妻がいるからさみしくないよ。それに妹の婿探しもしないとだしな」

「お兄ちゃん!?まだ私は結婚する気ないって言ったよね!!」

「そうはいってもアンナ、おまえベル様と同い年だろ?もう結婚を考えてもいいと思うんだ」

マットさんが少々考えるような顔をしている。

「そうだな。アンナ次にトムが来たときは一緒に本土に行ったらどうだ?」

「え、なんで?」

「トムだけに任せとくとろくな男を連れてこないぞ?自分で見つけないと」

「…わかったわ。来たばかりのベル様にはご迷惑をおかけするかもしれないけれど、よろしいでしょうか?」

「かまわないわよ?私は身の回りのことは自分でできるから」

「それは素晴らしいですね。アイラ様は初めて島に来たときは本当に淑女でらして自分でお着替えもできなかったんですから…」

「クーレーアー余計なこと言わないで」

「あははは、申し訳ありませんアイラ様」

「もうっ」

「さて、そろそろ食事にしよう。結婚祝いだから豪勢な料理を用意したぞ」

ジョン義父様から声をかけてもらい、みんなで食堂に行く。

「貴族としてはあまりないが、この島では使用人も含め皆で食事をとるんだ」

「そうなのですね!みんなで食べるほうがにぎやかでよいと思います」

嫁いだからにはこの島のルールになれなくてはいけないが、あまり貴族らしくない私にはこの空気はとても合う気がする。

早く仕事を覚えて、ロイド家の一員としてなじむように頑張ろう。


*****

ベルが嫁いできてくれてからいくばくかの年数がたった。

ベルのおかげで水の調達が格段に楽になった。

それまでは雨水をためたり、貯水池を使っていたが、飲料水だけはベルの魔法で安全なものが確保できた。

また、皆で畑を耕し、大麦を植えたり、ジャガイモを植えたりといった作業はベルが率先して行った。

とても楽しそうに畑を耕す姿は、とても微笑ましい。

趣味というだけあって、品種改良も徐々に試しているらしい。

残念ながら私にはよくわからないが。


そして、第一子も生まれた。

生まれたのは女の子。

ソフィーと名付けた。

島での生活は過酷なため、あまり子供は増やしたくなかったが、ベルが男の子が欲しいというので頑張った。

結果、ソフィーが2歳になったころ、ベルは第二子を授かった。

そのころには、アンナも結婚し、彼女とその旦那が島にやってきた。

旦那の名前はロバート。

灯台の管理も手伝ってくれるという彼は、魔道具師だった。

灯台は魔道具でもあるので、そのメンテナンスのために、呼んでいた男で、身元はしっかりしているし安心だ。

彼はその父の代から灯台の修理にかかわっており、父についてきてアンナとトムと遊んだこともあるそうだ。

アンナは初恋の人を射止めたらしい。


二人目の子供は無事男の子だった。

ベルがアーサーにしようというので、アーサー・ロイドとなった。

彼は次期男爵だ。

できれば彼に継いでほしいが、それは成長してからだろう。

あまり無理強いはしたくない。

私はなりたくて灯台守になったが、次代の子供にはできる限り自分の意志で継いでほしいと思っている。


*****

ソフィー10歳。アーサー8歳。

ロイド家はにぎやかになった。

イーデン家もアンナとロバートの間に双子の女の子が生まれた。

島の人口比率は女性が多くなっている。

イーデン家の娘二人シャーリーとジェイミーはアーサーの奥さんになるとよくケンカする。

アーサーが良いなら、どちらかと結婚するのもいいだろうが…もめそうだな。

また、アーサーは将来本土に行きたいそうだ。

逆にソフィーが灯台守を継ぐといっている。

ソフィーは光魔法が発現しており、すでに灯台の管理の手伝いをしてもらっている。

アーサーはベルの血を濃く継いだのか、水魔法が得意だ。


ベルのおかげで、最近小麦の収穫量が多い。

備蓄も増えて安定した生活が送れている。

マットさんとクレアさんはそろそろ隠居しようかといっている。

すでにアンナとロバートに跡継ぎの教育をしているので、あと1年もすれば引き継ぎも終わるそうだ。

そうなると、島がまた少し寂しくなるな。

それでもベルと子供たちに囲まれていればさみしくはないだろう。


*****

マットさんとクレアさんが島を出る日になった。

泣かないと決めていたけれど、私はボロボロないてしまった。

別に一生の別れというわけじゃないのに。

泣いてしまった私を息子のアーサーが慰めてくれたのはうれしかった。

なかなか立派に育ったと思う。


ここ数年は生活が少し大変だった。

ソフィーとアーサーを貴族学校に入れるための資金をためるためだ。

島の生活なので普段から贅沢はしていないが、どうしても侯爵様からのお給金は日々の生活に不足するものを買うことに使われてしまい、なかなかためるのは難しい。

本土で生活しているロイド元男爵家やなけなしのライリー家からの支援でなんとか子供たちに不便はかけていない。

苦しい時やつらい時にはサムがきっちり支えてくれた。

ほんと、この旦那様を選んでよかったと思えた。

初めての妊娠の時はとても不安だったが、サムもそうだし、イーデン家の人たちも支えてくれた。

ソフィーはクレアさんが取り上げてくれたのだ。

クレアさんは産婆さんもできる方で、とてもたすかった。

来年にはソフィーが、その2年後にはアーサーが学校に行くことになる。

二人ともいい人が見つかるといいなと思う。


*****

学校に行ったソフィーから手紙が届いた。

ロイド家を継いでもよいという男爵家の次男を見つけたんだそうだ。

互いに気が合うそうだから心配はないだろう。

「しっかり見定めなさい。お前が選んだ相手なら間違いないだろうさ」と手紙を返した。


アーサーはトムについて今は本土で生活している。

来年には貴族学校に入学する。

ソフィーが家を継ぐというので、アーサーは自分で道を切り開くのだそうだ。

本人は文官になると意気込んでいる。

学校の寮費はバカにならないのだが、ベルがライリー家に話をしてくれ、アーサーはライリー家から学校に通えることになっている。

文官になりたいというアーサーの夢のためにも、文官の家系のライリー家はよい経験になるだろう。

二人には私が可能な限り貴族の教育を行った。

立ち振る舞いだけなら見劣りはしないだろう。

現にソフィーはしっかりと溶け込めたらしい。

貴族令嬢の友達付き合いも順調だそうだ。

妻よりしっかりしているかもしれない。

ただ、最近あまりよくない話を聞いた。

ハロルドから、近隣諸国がきな臭くなっている、注意されたしと手紙をもらった。

どうしても本土と離れた孤島なため、情報の鮮度が悪いが、彼のおかげで王都の状況はよくわかる。

どうも、王太子と第二王子の間でいまだに確執があり揺れているらしく、そのすきを隣国がうかがっているようだ。

ソフィーたちが学校にいる間は平和であってほしいが、どうなることか…


*****

ソフィーが正式に結婚して帰ってきた。

「お帰りソフィー、こっちがコリン・ステイサム君かい?」

「ただいま戻りましたお父様。元ステイサム男爵家のコリンです」

「コリン・ロイドと名乗ることになりました。コリン男爵よろしくお願いいたします」

「うん、よろしく。手紙で教えてもらっていた通り、しっかりした子のようだ。こちらは妻のベルだ」

「よろしくねコリン君」

「よろしくお願いいたしますベル様」


島の家族とのあいさつは和やかに進んだ。

男爵家の出ではあるがコリンも魔道具の知識があるそうだ。

そしてソフィーはベルに似て土いじりが好きなのが高じて、農業を学んできたという。

「アーサーは元気にしているか?」

「彼女もできたようですよ。バーンズ子爵令嬢と恋仲だそうです」

「子爵令嬢と?大丈夫だろうか…」

「バーンズ家は文官の家系の一つで、子爵令嬢は跡取りだそうですから、婿に行くと言い出しそうですね」

「ふむ、まぁあいつが決めたことだ挨拶は手紙だけでもしろと送っておこう」

「そうですね、アーサーは筆不精ですから」

「ちがいない」

ソフィーのおかげで王都の様子も伝わってきていたが、最近はさらにきな臭くなっているようだ。

王都で生活するなら気をつけろとも付け加えてアーサーに手紙を出した。


ソフィーたちは一緒に屋敷に住むことになる。

部屋数は足りているので問題ない。

二人の仲は良好なようで、私たちとの日に二回の食事も和やかな時間だ。

イーデン家の人たちとも打ち解けてくれた。

灯台は魔道具技術の結晶だそうで、とても感心していた。

材料さえ手に入れば、王都ではやりの冷蔵庫や照明も作るといっていた。

ロバートとは師弟の関係になりそうだ。

毎日楽しそうにしている。

ベルのおかげで、食糧供給は本当に安定した。

飼っていた鶏ももう少し増やしていて、毎日卵を食べることができるようになった。

あと、コリン君は釣りにも興味を持って、毎日魚を釣ってきてくれる。

おかげで毎日の食卓が少し華やいでいて良い傾向だ。

自然とともに灯台を日々守る生活は苦労も多いが、ゆっくりとした時間が流れる良い場所でもあるのだ。


*****

珍しくアーサーから手紙が届きました。

フランデル王国とその隣国であるヴィルヘルム帝国の間で戦争が起こったようです。

第二王子の母親はヴィルヘルム帝国の公爵家の出身。

その第二王子を王位につけようと、帝国を後ろ盾に内戦が始まったという。

アーサーが心配で戻ってきなさいと手紙を送った。

だが「母には申し訳ないが、私はバーンズ家の家人として王太子側にて戦う」と手紙が返ってきて、泣いてしまった。

サムも食いしばりながら目に涙を浮かべていた。

下手をすれば無駄に命を散らすことになりかねない。

アーサーはそれほど剣の腕がないし、魔法だって私と同じ程度の水魔法だ。

文官を目指していたのだから当然だが、何の役に立つのだろう。

無事にいてくれればそれでいいが、顔が見られないのがつらい。


戦争が始まったとはいっても、灯台の役目は変わらない。

国としてはフランデル王国に属しているが、このロイド島は大海からこの大陸到着の目印になっている。

海の遥かかなたから来る船が最初にこちらの大陸を見つけるための灯台である。

そのため、常に灯台は動かしていなくてはならない。

サムもソフィーも懸命に働いている。

灯台は魔道具で動くとはいえ、監視員は必要であるので、夜も見張りが必要なのだ。

いつも皆で交代しながら夜の監視をする。

一人で夜の星を見ながら灯台を見守ると、どうしてもアーサーが心配になって涙が込み上げてしまう。

そんなときサムがホットワインを持ってきて一緒に飲んでくれる。

「ありがとう、サム。私サムと結婚できてよかった」

「私もだよベル。心配なのは私も同じだ。だけどベル。アーサーは自分で決めたんだ。男が自分で決めたことは親である私たちが、しっかり見守るしかないよ」

そっと肩を抱きしててくれるサム。

私もそっと彼の背に手を回す。

彼の胸はとても暖かく、私の悲しい気持ちを少しは和らげてくれた。


*****

「フランドル王国は、第二王子派が制圧。ヴィルヘルム帝国の属国になった。僕は隣国のゴート王国へのがれました。妻も無事ですが、父と母に会えぬままこうして遠くへ来てしまい、親不孝な息子で申し訳ありませんでした」

アーサーからそのような手紙が届いた。

また、ハロルドからも元王太子派が敗れ、政変が起こったとのことだ。

両親は戦争が始まった段階でゴート王国へのがれたと手紙が来た。


実際このアーサーとハロルドの手紙が来たのは、実に3か月ぶりにトムが船を出せたことで判明したことだ。

戦争は丸2年続き、旧フランドル王国の国土は甚大な被害が及んだそうだ。

今回の船には食料品は乗らず、侯爵家からの給金もなかった。

小型船でトムが一人でやってきたほどだ。

「王国はおわったよ。ロイド島はどうなるんだろうな?」

「そうか、ありがとうトム。海運の要所であるこの灯台は、国には所属していたが、ある種の中立ではある。どこかの国が領有権を主張し、それが国際的に認められれば、私たちはその国の住人になるだろう。

もしかすると、爵位も関係なくなるだろうな…」

「そうか、一応はまだフランドル王国の男爵位を持ってるんだもんな」

「あぁ、ただ、国がなくなれば爵位も意味をなさなくなる。どうなるかだな」


トムが状況を知らせてくれてから1年、どこからも音沙汰がなかった。

それでも大型船は外洋をこえてやってくるので、灯台は維持している。

ソフィーとコリンの間に息子もうまれたが、苦しい生活をさせざる得なくて心苦しい。

肉類はないが、それでも穀物や豆類など食料はなんとか確保できている。

イーデン家の娘たちも大きくなったが、結婚する気はないようだ。


そんな折、ゴート王国から使者がやってきた。

ロイド島はゴート王国が領有権を保持し、今後支援をするという。

支援者の名前はアーサー・バーンズ。

息子がかなりいろいろ手回しをしてくれたようだ。

そしてやってきた使者の男、ジョナサンはこの島に滞在するという。

騎士であり海軍士官の彼は、準男爵で一代限りの貴族なのだそうだ。

島の領有を主張するための駐留だが、アーサーと仲良くなり信用のおける人物だと認めてもらえ、この島に来たという。


数か月後、ジョナサンはシャーリーと良い仲になった。

ソフィーも二人の仲を応援している。

うまくいくとよいと思う。

私たちは孫のルイスを教育しながら、畑を耕しいつもの生活を続けている。

こうしてベルと二人で夜にホットワインを飲む時間が毎日の癒しだ。

「サム、私はこの島で最後まで生活したいの」

「そう言ってくれると嬉しいよベル。一緒に最後までこの島で過ごそう」

「それでねサム、できれば引退して二人でゆっくりできるように家を建てない?」

「家を?屋敷ではだめなのかい?」

「屋敷はソフィーたちに譲りましょう。もう夜の寝ずの番は私たちにはつらいもの。島の反対側に木の小屋を建てましょうよ。そこで二人でゆっくり畑仕事をしながら暮らすの」

「そうか、それもいいかもしれないな…ソフィーたちが許してくれたらね」

「許してくれるわよ。あの子たちももうしっかり灯台守だわ」

「そうだな、イーデン家も安泰だろうから」


翌朝、朝食の時間皆に相談したところ、賛成してもらえた。

皆でログハウスを作ってくれることになった。

特にジョナサンが身体強化を使えるので、肉体労働なら任せてくださいとのことだ。

ありがたく労働力として使おう。


*****

じっくりと時間をかけて私とサムが住むためのログハウスが作られました。

構想から1年。

入り口から入るとテーブルがありキッチンが見える。その隣が私たちの寝室。

二部屋だけの家。

隠居する私たちには十分なサイズになったと思う。

まだ38歳ではあるが、サムのご両親が隠居したのも40歳だったから、特におかしなこともない。

これからは、愛する人と二人でゆっくり過ごすことができそうだ。

たまには娘たちを手伝ってもよいと思っているけれど、彼とゆっくりと流れる時間を過ごせるのは最高に幸せです。

「こうしてベルと夕日をゆっくり眺めるのはいつぶりだろうね」

「いろいろありましたものね」

「これからも二人でいろいろな思い出を作っていこう」

「はい、そうですね」


昼は畑を耕して、塩害に強い麦を交配している。

朝、サムが焼いてくれるパンは最高においしい。

屋敷にある倉庫は私たちも使わせてもらえるので、食べ物には困ることない。

なるべく自分たちの食べる分は自分たちで育てている。

夜はサムが釣ってくれた魚と野菜で煮込み料理なんかを作る。

下手をすると王都や本土の人より豪華な食事を食べているかなと思う。

お肉は食べられないが、お魚が毎日出るのは島ならでは、とれたての野菜は王都では食べられなかった。


夜はサムと一緒のベッドで寝る。

私たちは今でも愛し合っている。

アーサー以降子供はできないが、今もサムに求めてもらえるのはうれしい。

女性としての魅力はまだあるのだろう。

私もサムもだいぶ年を取ったと思うが、二人の思いはであった頃のままである。



*****

その後もロイド島はしばらく大陸の海からの玄関口を示す重要な灯台として稼働をした。

サム・ロイドが59歳で亡くなるまで、灯台は友人であったが、その翌年魔道具の進歩によって、無人化が可能となり、月に1度のメンテナンスで維持ができるようになるとベルを残して、皆が島を後にした。

翌年ベル・ロイドは60歳で亡くなる。

ベルの体調が悪くなってきたころから、ソフィー夫妻が彼女の面倒を見ていたが、夫の後を追うように、老衰で亡くなった。

このころの平均年齢としては十分な寿命だった。

今もロイド家の墓は島で最後二人が住んでいたログハウス跡に建てられている。

途中国が変わり、大きな戦争なども起きたが、二人は最後まで平和に愛し合い生活していたそうだ。



fin

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[一言] 読んだあとは、ほのぼのした気持ちになりました。(。・ω・。)
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