0091 マジーカ到着!
「ふう、やっと着いた。ここがマジーカか」
御手洗萌生、ライム、月上京花、そして俺、陽川大地の4人は目的地であるマジーカに到着した。
リスタを発って8日後の夕方である。
ここまで来る途中、他の街に寄って、
『新種の魔法を知らないか?』
『なにか不思議なことは起こっていないか』
などと聞き込みをし、咲矢に取り憑いた闇について情報収集に務めた。
だが、全く成果は得られなかった。
とほほほ……
「それにしても大きな街でヤンスね」
辺りを眺めて萌生が言った。
ふむ、たしかにでかい。
わかりやすく例えよう。東京ドーム20個分くらいの大きさはありそうだ。
ちなみにリスタは5個分程度……なに? 東京ドームの例えはわかりにくい?
言われてみればそんな気もするな……。
この例えはテレビでもよく使用されるけど、俺もピンとこない場面が多い。
業界のディレクター達にはもっとわかりやすい例えを考えてほしいものだ。
ま、俺がテレビを見る機会なんてもうないんだけどね。
こんな感じで、2度と見ることがないテレビに対し改善を促していたとき――
「ねえ、フィールドの」
「なんだ京花?」
京花が口を開き、俺が応じた。
京花は俺を『フィールドの』と呼ぶ。なぜか名前じゃなく肩書きで。
せめて『フィールドのプリンス』としっかり言い切ってほしかったから、真意を尋ねると、
『あなたはプリンスの器にない。私の方がよほどプリンスだわ』
京花は出会った頃にも言ったおかしな言葉を繰り返した。
『なんで女のお前がプリンスなんだよ』
とツッコんだが京花はガン無視。
取り付く島もなかったから仕方なしによしとすることにした。
なお、俺はあいつを『京花』と呼ぶ。
仲間になったことだし、親しみを込めて、な。
別に普通のことだろ? 女だろうが下の名前で呼ぶことくらいは。
あ、でも初めてそう呼んだときは、なにか言いたそうな顔してたな。
ま、文句が飛んでこなかったってことは、OKってことだろ。
そんな京花は俺に言う。
「目的地は魔法学校でしょ? 早く行って用事を済ませるわよ」
「ああ、さっそく行くとしよう」
「どこにあるでヤンスかね~?」
3人は歩き出す。
……3人? あれ? 1人足りないな?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
不思議に思い後ろを振り返ったそのとき、残りの1人が声を絞り出した。
ライムだ。
魔法の杖をついて膝はガクガク、そしてなぜか虚ろな表情である。
「どうしたんだ? 早く行こうぜ」
「み、皆さん、疲れはないんですか?」
「疲れ?」
俺は萌生と京花に視線を向けた。
「あるか?」
「ないでヤンス」
「ないわ」
「だよな、俺もない」
「皆さんは本当に人間ですか?」
ええ⁉
辛辣な言葉を飛ばしたライムは続ける。
「どれだけ体力があるんですか。転生者の身体構造は魔物より魔物ですね。身体構造が正常なワタシはクタクタです。ここまで来るのに野宿した日もありましたし、もう動けません。今日はもうなにもしたくありません。てか、しません。お風呂に入ってご飯食べてお布団でぐっすり寝る、これ以外のことはしません」
「お、おお……そうか……」
疲れがそうさせているのか、やけくそ気味だ。
恨みや怒りをぶつけているようにも見える。
とはいえ今日はたった10時間くらいしか歩き続けてないのになあ……。
昨日だって15時間しか歩いてないし……。
これだけで根を上げてだだをこねるとは貧弱な奴だ。
うーん……ま、仕方ないか。
ライムは年下だ。
俺17歳、萌生17歳、京花も17歳と聞いた。
だがライムだけは16歳。1つだけとはいえ、この中では最年少なのだ。
したがって、末っ子的わがままポジションになるのは自然な流れだ。
「ライムの言うとおりにしよう。今日は休む。魔法学校に向かうのは明朝とする」
ライムは力強く何度も頷いた。
萌生どこか微笑ましげに「わかったでヤンス」と。
京花は「仕方ないわね」と嘆息し、渋々ながら了承した。
「よし、そうと決まれば銭湯へ……あ、その前に宿屋に寄ってこれを預けたいな」
これとは、俺が背負っている大きなリュックである。
元々はライムが背負っていたが、やけに重そうだったため、道中はずっと俺が持ってやっていたのだ。
そして実際なかなか重い。
20kgはあるぞ。
「……ところでこれ、なにが入っているんだ?」
旅の荷物なのだろうが、それにしては重すぎる。
疑問をぶつけると、ライムはお淑やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「男性同士の恋愛小説です」
「よし、風呂の燃料にしよう」
「なんてことするんですか!」
それはこっちの台詞だ。
くだらないものをずっと持たせやがって。
「わざわざこんなもの持ってくるなよ……」
「こんなものとはなんです! その中には素晴らしい小説がたくさん入っているんですよ。たとえばですね、主人公の旦那が弟の彼氏に寝取られるドロドロの4角関係を描いた作品は特にオススメで――」
「めちゃくちゃだなおい」
な、なんかどっと疲れが出てきたぞ……。
こいつのペースで会話すると身体がいくつあっても持たないな……。
「もういいからさっさと宿屋へ行くぞ……」
「あっ、実の弟との恋愛を描いた『俺の弟がこんなに可愛いわけがない』という作品もオススメで――」
どこかで聞いたことあるな、それ。
お久しぶりです!
続きを書きたかった作品なので無事更新できて嬉しいです。
これからもゆっくり更新していきますよー




