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0087 月上京花の決断(フェイズ京花)(2)

 ――13日後――


 私はドリアンが入った木の籠を下げ、リスタに帰ってきた。

 結論から言うと、あの子は見つからなかった。

 

 しかも道中ではちょっとしたハプニングも。

 客船と思って乗り込んだ船がまさかの海賊船だったのだ。

 あのときは右手が釣り針みたいになった髭面のおっさんが襲いかかってきて少し焦った。

 まあ拳ひとつで返り討ちにして船を乗っ取り、事なきを得たが。

 海賊のくせに歯ごたえのない奴だったなあ。


 だがこんなくだらない勝利で喜べることはない。

 

 自然と肩が落ちる。ため息が止らない。

 ドリアンは得たが、私的にはなんの成果も得られない旅だった。

 時間と金の無駄だ。


 しかもこのドリアン……臭い!


 布で籠に蓋をしていても臭ってくる。

 復路で泊った宿屋ではこの悪臭が部屋に充満して眠れなかったほどだ。


 マリカはこんなのを使ってなにをするつもりだろう?

 ダイチさんが……とか言ってたけど、まさか彼に食べさせるつもりなのか?

 もしそうならやめた方がいい。嫌われるぞ。


「あっ! キョウカさん!」


「マリカ」


 ギルドの食堂にいるだろうと思い、向かう途中だった。

 八百屋で物色しているマリカに出会う。


「お帰りなさい! その籠は……」


「ええ、お望みのドリアンよ」


 布をめくり、黄緑の果実を見せる。

 うっ、臭いがひどい。


「わあ! やったあ!」


 でもマリカは満面の笑みだ。

 あまりに嬉しかったのかドリアンを抱きしめ頬ずりしているほど。

 痛くないのか?

 てか、臭くないのか?

 とにかく後で顔を洗った方がいい。

 

「ありがとうございますキョウカさん!」


 その喜びようはまるでクリスマスプレゼントを貰った子供だ。

 そう、クリスマス……。


 嫌なことを思い出しそうになった。今は忘れよう。


「どういたしまして。ところでこれ、何に使うの?」


「調理してダイチさんに振る舞います! ドリアンはワタシの十八番料理のピザに欠かせない食材なんですよ!」


 ドリアンで……ピザ?


「ど、どうやって作るの?」


「ドリアンをよく練り込んだ生地の上に、辛子明太子、たくあん、海苔の佃煮、蜂の子、蝉の抜け殻、パクチー、青魚の皮を乗せて焼くんです!」


 ???????????????????????????


 え? え? え?


 私の聞き間違いか?

 

 ご飯のお供やクセのある香辛菜、一部地域でしか食材とされてないものを耳にした気がする。

 てかそんなのまだマシだ。


 生ゴミや、木に引っかかっているものが紛れていたような……。


「この日のために最近はずっとお料理の練習に明け暮れていたんです。あまりの上達ぶりにダイチさんはあっと驚くはずですよ」


「驚きはするでしょうね……」


 この世のものとは思えぬ物体Xを出されるのだから。


 彼に襲いかかる災難を想うと目を覆いたくなる。

 もしかしたら2度目の死を迎えるんじゃないか?

 

「ああ、早くダイチさんに食べてもらいたいです」


 この発言、考えようによっては殺人示唆だ。

 恐ろしい。


 …………でも、私が言えた口ではないか。

 

 また嫌なことを思い出しそうになってしまった。 忘れよう。


「ま、頑張ってね。それじゃあ私は行くわ」


「ああ、待ってください」


 踵を返そうとしたところでマリカに止められた。

 まだなにか用があるのか?


「お願いはもう充分でしょう?」


「さすがにそんなに欲張りじゃないです。キョウカさんにお礼がしたいなと思って」


「料理なら結構よ」


「ふふん、残念でした。ワタシが手料理を振る舞うのはダイチさんだけです」


 それは有り難いことだ。


「どんな物でも遠慮しておくわ。気持ちだけで充分」


「そんなこと言わないで受け取ってください」


「だからいいってば」


 固辞し続けていると、マリカがジト目を向けた。


「またエッチな目で見てきたことを叫びますよ」


「な⁉」


「それどころか今度はもっと過激なこと叫びます」


「か、過激なこと……?」


「強〇されたとか青〇されたとか」


「それこそ真っ赤な嘘じゃない!」


「でもそういう噂は広まってますけどね。女喰いの女剣士が女の子相手に繰り返してるって」


「ええぇ……」


 酷すぎる。

 そんなこと一切してないし、そもそも女喰いの女剣士は事実無根の肩書きだ。


「ま、とりあえず今はギルドの食堂に行きましょう。ワタシの料理の腕前を見せてあげます。味見くらいならしてもいいですよ」


 味見すら御免被りたい。

 それに……。


「いや、待って」


「まだ拒むんですか? 往生際が悪いですよ」


「そうじゃないわ。そこまで言うのならお礼を受け取ってあげるわよ」


「貰う側なのに高飛車ですね」


「そっちが押しつけたんじゃない。お礼は拒まないわ。でもギルドには行きたくないの」


「どうしてです?」


「陽川大地と会うことになるでしょう?」


「まあ遅かれ早かれ食堂までお呼びしますけど」


「彼と会いたくないのよ」


 サンソレイユを託したあのとき、『冒険者を辞めるな』と迫られた。

 またそうなったら鬱陶しいことこの上ない。


「……イケメンが嫌いなんですか? 女喰いだから?」


「別にそういうわけではないわ。色々あったのよ」


 まあ男性に興味がないのは事実だけど。

 私はレズビアンだ。

 前世の頃、女性同士がイチャイチャする動画を視聴し自分もそうであることに気付いた。


「ふうん、ま、詮索はしませんよ。それならワタシのお家に来ます?」


「お願いするわ。私がこの街にいること自体、彼には教えないでね」


「わかりました」


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