0084 コームさんの策(3)
ハッタリをかまそうと決まった談合のすぐ後、咲矢が目覚めた。
その2日後の夜、コームさんから『明日、来ます』と王国兵士の襲来を告げられる。
翌日、俺は皆をギルドに集めるために宴会を提案。
あえて大勢の冒険者を呼んだのは、数の力で抵抗の意思を強く押し出すためだ。
案の定、皆は俺の後に続いてくれ、一触即発の空気を作ることに成功した。
その後は談合通りにコームさんが任意同行を要求。
打ち出されたかなりの譲歩に冒険者の皆も納得し、咲矢が拒否することは性格上ないと考えていたからその通りに事が進んだ。
そして会がお開きとなった今、喫茶店にて再びコームさんと落ち合った。
今後の方針や確認事項の整理のため、あらかじめマスターと奥さんに了承を得てこの場を借りたのだ。
「うまくいきましたね。ダイチさん」
「そうっすね。コームさん」
本当に、想像以上に上手くいった。
なんならこの話し合いの場を設けた意味がないくらいだ。
「コームさんが考えたエグい煽りも効果ありましたね。兵士からすれば相当嫌なやつに映ったでしょうけど、冒険者のみんなが乗っかかってくれましたよ」
「敵にとって嫌な人は味方にとって頼りになる人です。その点で大勢をあの場に集めたのは正解でした。ですが良いことばかりでもありません。付添人は予想外でしたよ」
「ああ、ドミゴっすね。あの展開は俺も驚きましたよ。付添人を認めて大丈夫っすか?」
「禁止はされていませんから1人くらいはなんとか……。上手い言い訳を考えておきます」
「すんません。迷惑かけます。咲矢のやつもドミゴがいると安心すると思うんで、重要参考人の精神安定を考慮した結果――、とでも言えばいいんじゃないっすかね」
「採用します」
「こりゃどうも」
コームさんは疲れたように「ふう」と一息ついた。
付添人の是非で頭を悩ませていたのかな?
「迷惑といえばですね、訳のわからない発言をしていた緑の髪の少女はなんですか?」
あ、そっちか。
そりゃ疲れるわ。
「すんません。ちょっと頭がおかしいやつでして」
「親しいのですか?」
「はい。俺、これからマジーカに行くんすけど、あいつも一緒に」
「それはそれは、大変ですね」
「大変ですよ。おかしな言動が絶えませんし、一緒にいるだけで疲れます。でも……放っておけないんです。一緒にマジーカに行きたいと願い出たのはあいつの方からですけど、それはただのタイミングで、一緒にいたいと強く願っているのは俺の方かもしれません。あいつが言い出さなければ、俺の方から誘ってました。……あ、この話、秘密ですよ」
シッーっと、人差し指を唇に当てた。
……ん?
ランプが照らす先で、コームさんのキョトンとした表情を見た。
実は感情表現豊かな人であることはさっき知ったが、なぜそんな顔をする?
「それはそれは……青春ですね」
「はい?」
「ああ、その無自覚がまた甘酸っぱい。ワタシにもそのような時期がありました」
「???」
なんだなんだ? 訳がわからない。
「なに言ってるんすか?」
「まあいいじゃないですか。いずれ気付くときが来ますよ」
「???」
お茶を濁されてこの話は終わった。
その後はこれ以上話すこともなかったのですぐに解散、ダラダラ話し合いを続けて誰かに見つかれば面倒だ。
俺は宿へ、コームさんも自宅へと帰った。
そして、夜が明けて次の日がやって来る。
出発の朝だ。




