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0080 王国兵士、襲来

 ――ザワッ――


 コームさんが言い放った瞬間、場が騒然となった。

 突然の出来事に冒険者達は狼狽。

 だがそんなことなどお構いなしに、後ろに控えていた兵士が動き出す。


「ちょっ、ちょっとちょっと!」


 俺は立ちふさがった。


「どうしたんですかコームさん、残業なんて珍しいっすね」


 冗談だろ、と言わんばかりのおどけた声を出す。


「ええ、しかもサービス残業です。しかし国王様の命令遂行とあらば致し方ありません」


「今からなにするんでしたっけ? ちょっと聞えなくて」


「別にあなたが知らなくても事は進みます」


「そんな冷たいこと言わないで、もう一度言ってくださいよ」


 なおもおどけた声を出す。

 対照的にコームさんは眉1つ動かさない毅然とした態度で。


「街に甚大な被害を与えた罪人サクヤを拿捕し、王都へ強制連行します」


 ――ザワッ――


 騒然さが増した。

 俺は表情と語気を変える。


「……なぜ知ってるんすか?」


 真実を伏せてデマを流したはずだ。『闇の破壊者は消滅した』と。


 コームさんを睨み付ける。


 説明もなしに拿捕できると思うなよ。

 そんな圧力を視線に込める。


 今彼女がなにを考えているのか、表情から思慮は読めない。

 だが、やがて口を開き。


「簡単なことです。陰ですべて見ていたのですよ。街を破壊する様子から、武具屋に運び込まれるまでの一部始終をすべて。そしてこの件を王都へ報告した結果、国王様がこのような決断をなされました」


「コームさんが見て、報告したのですか?」


「いえ、別人です。王都から派遣されている人間はワタシだけかと思いましたか? 治安維持のため、こちらにいる王国兵士も常駐しているのですよ」


 コームさんではなく後ろにいる彼らが見、報告した、と。

 じゃあ彼ら王国兵士は街の危機に加勢することなく傍観を貫き、一丁前に告げ口だけしたってわけか。

 なんてやつらだ。


「話はもう終わりです。賜りしご命令を遂行致します」


「待ちやがれ」


 武器を構えた兵士達はそう言った俺を見据えた。

 へっ、告げ口しかできないくせに物騒なもん持って睨みやがって。


「見ての通り、今の咲矢は温厚そのもの。暴れていた頃の見る影もない。あれは原因不明の闇に取り憑かれていたせいなんだ」

 

「理由がどうあれ、彼が街を混乱に陥れたことに変わりはありません。そこをどいてください。拿捕します」


 コームさんは相変わらず毅然としている。

 そして、兵士達は今にも動こうとする。


 俺はそんな彼らを見渡し、言い放った。

 

「はっ。街の危機の時は隠れて見ているだけだったのに、いざ安全が保証されたら満を持してご登場ってわけか。しかも丸腰相手にしっかり武装しちゃって。さすがは王国兵士だ。大物だねえ」


「貴様、我々を愚弄する気か!」


 王国兵士のひとりが声を荒げた。


 愚弄? どっちが。


「愚弄もなにも、ただ事実を言ったまでだ。街の危機を救ったのも、その後の壊れた建物の修繕も、尽力したのは俺達冒険者だ。なのに今まで関与してこなかった王国連中が急にしゃしゃり出てきて強制連行だと? こんな筋の通らない話があるか。ふざけるのも大概にしやがれ」


 俺と王国兵士達は睨み合う。

 静かだが、張り詰めた空気が場に充満。

 そんな一触即発ムードが漂う中で、


「ダ、ダイチの言うとおりじゃないか!」


 俺の背後にいたひとりの冒険者が叫んだ。


「そうだそうだ!」

「サクヤは渡さんぞ!」

「なにが国王のご命令だ!」

「国の狗が! 恥を知れ!」

「とっとと帰れ!」


 抗議の声は連鎖し、


「「「「「帰れ! 帰れ! 帰れ! 帰れ!」」」」」


 やがて憤慨溢れる帰れコールへと変わった。

 こうなれば立場は逆転。

 王国兵士達は戸惑い、怯え、武装の威圧感は完全に消え失せた。

 勢いは作業着姿の俺達にある。

 

「わ、我々に逆らうというのなら容赦はせんぞ!」


 負けじと抵抗を見せる兵士もいたが……。

 

 震える声から見せかけなのは一目瞭然。

 俺はそいつに言い放った。


「やってみろよ」


「っ……」


 返事は声にならないたじろぎだった。

 俺は再度一押し。


「やってみろと言ってるんだ」


「ううう……」

「な、なんだこの迫力は……」

「この金髪、たしか闇を纏った罪人をやっつけたやつだぞ……」

「くそっ……」 


 丸腰の俺達に怖じ気づき、武装した兵士達が一歩二歩と後ずさり。

 安全が保証された場面でしか強気に出られない、そんなやつらが剣を構えたところで怖くもなんともない。

 もはや決着はついたも同然だ。


 だがそんな中、今だ毅然とした態度を貫き続ける人もいた。

 

「……わかりました」


 情けない兵士達に一瞥くれ、その後声を上げたのはコームさんだ。

 声色を変えず冷静沈着に続ける。


「では罪人として強制連行は致しません」


 伝えられた吉報に冒険者が湧きかけた。だがしかし、


「重要参考人として任意同行を要請します」


 その言葉に皆、首をかしげる。

 疑問が表情に浮かんでおり、『それはつまり……どういうことだ?』とでも言いたげだ。


 俺はその気持ちを代弁する。


「詳しい説明をお願いします」


「はい。今後サクヤ様の身柄を王都にてお預かりし、事情聴取や身体検査を受けていただきます。その他の扱いにつきましては客人と同等になりますので、身の安全等々はご案じなく」


 ――ザワッ――


 食堂全体がまたざわめきに包まれた。


「随分といい扱いに変わったな」

「ああ、これなら安心だ」

「いや待て、コームさんが嘘を吐いてる可能性だってあるぞ」

「たしかに。鵜呑みにするのは危険だ」


 様々な意見や憶測が飛び交う中、


「これはかなりの譲歩です」


 コームさんはそれらを封じ込めるような強い口調で言った。


「もしこれすらも受け入れられないと仰るならば、応援を要請し強硬手段に出ます。もちろんその場合は命の保証なんて致しませんよ」


 冒険者達はゴクリと唾を飲み込み、場が凍ったように静かになった。

 彼女の鋭い目から本気度がうかがえたようだ。

 軟弱な王国兵士達とは違う。この人は肝が据わっている。

 

「嘘は言っておりません。取り憑いた闇の原因を早々に解明したい、そして2度とこのようなことが起こらないよう予防保全に努めたい、この気持ちは双方同じのはずです。どうかご理解を」


 冒険者達は複雑な表情を浮かべ押し黙った。

 だれも言葉を発することなく、しばし時が経つ。

 

 やがて、ひとりの男が口を開いた。

 ずっと沈黙を貫いていた当事者だ。


「あの……ぼく、王都に行きます」


 皆の視線を集めた咲矢は続ける。


「ここで逃げたり突っぱねたりしてもなにもいいことは起きないと思うんです。それならば皆さんが勝ち取ってくれた任意同行に応じます」


「けどよサクヤ、本当に任意同行で終わるかは怪しいもんだぜ」


 チンピラ冒険者の言葉に皆が頷く。

 嘘は言っておりませんと、コームさんの言質が取れたものの、信じ切れてないようだ。


「そもそも勝手に判断してる時点で怪しいんだ。サクヤを罪人として強制連行することが国王の命令なんだろ? あんたのやってること、命令違反じゃねーか」


 チンピラ冒険者から至極まっとうな意見が飛ぶ。

 

「たしかにそうだ」

「命令違反なんてできるわけない」

「自分の身が危うくなるもんな」

「やっぱりこの場を収めるための嘘なんだ」


「それには心配及びません」


 一層強くなった疑惑の声。

 それをコームさんがまたも封じ込めた。


「抵抗に遭ったときのことを踏まえ、寛大なる国王様は予めこの譲歩を示してくださっておりました。我々の目的はあくまで、サクヤ様の身柄を監視下に置き調査することにありますから。断罪の優先度は低いのです」


「じゃあどうしてそれを最初に言わなかったんだ」とチンピラ冒険者。


「当たり前でしょう。1番望ましいのは身柄をどうとでもできる状況下に置くことですから。そのためには罪人とした方が都合良い。最初から譲歩してどうするんです?」


「ちっ、こしゃくな」とチンピラ冒険者が舌打ち。


「……なるほどな」と声を上げたのはドミゴだ。皆を見渡しながら続ける。


「みんな、釈然としないのはわかるがここはコームさんを信じる他ないんじゃないか」


「聡明な判断、感謝致します」


「ただし」


 ドミゴはコームさんに力強い目線を送り、言う。


「その任意同行、オレも加わらせてもらう」


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