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0079 打ち上げスタート!

 てんやわんやの中、日が落ちて夜がやってくる。

 冒険者達がギルドの食堂に集まった。


「よーしみんなお疲れ! 乾杯!!!」


「「「「「乾杯!!!」」」」」


 豪華な料理や酒、あとコーラがずらりと並ぶ会場で、僭越ながら乾杯の音頭を任された俺の声を皮切りに打ち上げはスタート!


 立食式の中、冒険者達は料理にがっつき酒を浴びるように飲み……そして今日は前より早かった。

 大勢が裸で踊り、歌い、駆け回っている。


「はあ、まったくこいつらときたら」とドミゴはため息をつく。


「はわわわ、ほとんどの人が裸じゃないですか……」と咲矢。


「前より酷いでヤンス」と萌生。


 皆、当然困惑。

 だがしかしライムだけは一味違った。


「ワタシはですね、男性同士の恋愛がもっと活発になっていいと思うんです。というのも人類は皆、心の奥底では同性に恋しちゃう感情が眠っているんです。ところがその気持ちに蓋をして、異性同士で恋愛するのが普通だと自分に言い聞かせて逃げてしまうんですよね。嘆かわしい。まあ、そんな葛藤と紆余曲折あったのち、けれども乗り越えて結ばれることができたらそれは素晴らしいことなんですよ。ゴクゴクゴクゴク……プハッー! すいません、ビールのおかわりください」


 ツッコミどころ満載だなおい。


 まずビール飲みすぎだ。大ジョッキ5杯目だぞ。

 この世界に未成年飲酒という概念がないといえばそれまでだが……それにしても16歳の女の子がこんなに堂々と飲むか? こいつ、俺の1歳下だよな?


 あと酔った勢いで熱弁を振るうのはよしとしても……内容!


 隣にいる俺と、まだ酔いが浅めの冒険者達に向けて自身の偏りきった思考を発信している。

 冒険者達は畏怖したのか、気持ちよさそうな赤ら顔が引きつった青白い顔へと変わっていた。

 いい歳したおっさん達が16歳の女の子にドン引きさせられる、なんともシュールな光景がここにある。


 そういえば……


     

     ***


『ギルドには行かなかったのか?』


『いえ、なんというか、あまり評判がよろしくないので……』


     ***

 


 出会って間もない頃はこんな感じでギルドに対して拒絶を示していたのに……。

 今では馴染んでいる、いや、ビビらせている。

 はっきり言おう。この会場で1番の変態はライムだ。


「こらこら、あなた達はただぶら下げてるだけですか?」


 ライムの興味が移る。

 対象は冒険者達がぶら下げている剣だ。


 おいおい年頃の女の子がまじまじと見るなよ……。


「それはなんのためにあると思ってるんですか! せっかく丸出しにしているんだから使用してください! 男性を押し倒してください! 男性同士でまぐ〇ってください!」


「コラ! みっともないからやめろ!」


 酔っているとはいえ強烈すぎる。16歳の女の子が言っちゃいけない言葉だ。

 

 俺はライムのこめかみにデコピンをお見舞い。

 ちょうどマリカが運んできたおかわりのビールを取り上げた。


「ワタシのビール返してください!」


「ビールはもう飲むな! コーラでも飲んでろ!」


「ジュースでご飯食べろって言うんですか! 無理です!」


「16歳の打ち上げなんてそんなもんだ!」


 まったくこいつは……。

 

「あ、あははは、ダイチさんもコーラのおかわりどうですか?」


「ああ、頼むぜ」


 マリカにおかわりを促され、グラスを手渡した。


 ちなみにだが、近頃マリカは俺に手料理を振る舞おうとしない。

 

 3色のパスタと5色の丼を超える7色のピザの存在を知って以降、食事時にマリカと会うことを避けていたのだが、どうしても出会ってしまうときもある。

 

 だがそんなときも、マリカは料理を振る舞おうとする素振りを一切見せなかった。

 

 料理に興味がなくなったのか?

 それなら救われた気持ちになるが……これが嵐の前の静けさでないことを祈るのみだ。


「……あっこら! ライム!」


「ゴクゴクゴクゴク……プハッー!」


 マリカと話す一瞬の隙を見て、ライムは俺から大ジョッキを奪い返した。

 喉でいい音を鳴らし一気飲み。そして、

 

「おかわりください」


 ……もう好きなだけ飲んで好きなだけしゃべれ。



 そして楽しい?時間はあっという間にすぎ――


 料理が食べ尽くされ、酔い潰れる者が床に大勢転がる宴会の終盤に差し掛かった。

 ちなみにライムもそのうちのひとりである。

 こいつはジョッキ10杯目くらいからビール瓶直飲みへと移行。

 その後15本目くらいで酔い潰れ、今はビール瓶を抱き枕代わりに気持ちよさそうに寝ている。

 どんだけ酒豪なんだこいつ……。


「よっしゃいくぞー!!!」


 しばし和やかな談笑が続いていたとき、離れたところで大声を出したのはチンピラ冒険者だ。

 手にはかつてジャグリングに使用していた玉が一個だけある。


「ここ数日の陰の努力を見せてやる! オレのリフティングに刮目しろー!」


 そういやこいつ、リフティングプレイヤーに転職したんだったな。


 チンピラ冒険者は玉を宙に高く上げると、それを太ももで受け止めた。

 蹴り上げて蹴り上げて蹴り上げて……太もも以外にも足の甲や脛を使って玉を弄ぶ。


 おお、結構続けられてるじゃないか!


 チンピラ冒険者のリフティングは当初とは比べものにならないほど上達していた。

 安定感は抜群で、机がひっくり返ったり食堂がしっちゃかめっちゃかになる心配もない。

 観衆と化した冒険者達の感嘆が漏れる中、フィニッシュ!


「どうよ!」


「「「「「うおー!!!」」」」」


 割れんばかりの拍手と歓声、指笛なんかも贈られた。

 最初を鑑みたら驚くべき上達スピードだ。

 もしかしたらこいつ、本当にリフティングマスターになるのでは?


「サクヤ、リフティングは得意か?」


「はい、結構できますよ」


「よーしやってみろ!」


 そんなチンピラ冒険者はサクヤに振る。


「いいぞー!」

「やれやれー!」

「見せてくれー!」


 周囲に煽られながらチンピラ冒険者が待ち構える方へ。

 その後ろ姿を眺めていると、ドミゴが小声で俺に尋ねた。


「あいつもダイチくらいリフティングが上手いのか?」


「まあそれなりには。前に俺が見せた程度ならお茶の子さいさいだろうぜ」


 なんといってもあいつは『ダントツの二番目』

 高校サッカー界全体で見ても5本の指に入るであろう実力者だ。


「そうか。いつも口癖のように『ダイチセンパイみたいになりたい』と言っているだけのことはあるな。あいつにとってのお前は『なりたい姿そのもの』らしい」


「ま、その感じは俺にも伝わるな。てか、伝えられる。面と向かって『大地先輩みたいになりたい』って」


「微笑ましいよな」と俺は笑った。


「そうとも限らないぞ、ダイチ」


「え?」


 どういうことだ……?

 ドミゴは声色を変える。


「あいつの言うなりたい姿は、やりたいことと乖離しているように思えるんだ。なんとなくな」


「……それってどういう」


 言葉の意味を掴みかねて尋ねたときだった。

 皆の気持ちいい酔いが冷め、楽しい時間が崩壊する出来事が訪れる。


 

 ――バン!――


 

 勢いよく開いた扉。

 皆の視線が集まる。


 そこに立っていたのはコームさんだ。

 後ろに武装した兵士を10人ほど引き連れている。


 食堂全体がただならぬ空気に飲まれる。

 

「え? なんだ?」

「誰かコームさん呼んだのか?」

「一緒に飲もう、なんて雰囲気じゃないよな……?」

 

 困惑の声が飛び交う中で、毅然とした態度のコームさんは1枚の書類を突きつける。

 彼女の目は、煽りを受けてリフティングを始めようとした咲矢を強く見据えていた。


「ただ今より、国王様からのご命令を遂行いたします。部外者の方々はどうぞお静かに。サクヤさん」


「は、はい……」


「街に甚大な被害を与えたあなたを罪人とし、王都に強制連行いたします」



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