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0077 新たな扉

「ワタシの名前はライムです。聞くところによると、ワタシとサクヤさん、同い年だそうですね。よろしくお願いします。」


「僕の名前は御手洗萌生。同じ転生者としてよろしくでヤンス」


「よろしくお願いします。……ヤンス?」


「ふふふ、この語尾は僕の最高のアイデンティティでヤンス」


「は、はあ……」


 ライムと萌生も自己紹介を済ませた。

 

 ちなみに萌生が転生者であること、ドミゴを含む周囲の冒険者達は周知済みである。

 1度は転生者であることを隠したが、騒動の後で打ち明けたのだ。

 隠し事がなくなったのは純粋にいいことだ。


「ふむ、フドウサクヤ。フドウってのがミョージだな」


 難しい顔で腕を組むのはドミゴだ。

 言葉を続ける。


「ミョージは隠した方がいいと思う。転生者と気付かれ周囲の人間に騒がれ、そして騒動のことがうっかり漏れるようなことになれば厄介だ。ダイチはどう思う?」


「たしかにその通りだな」


 俺は同意した。

 咲矢の場合、大っぴらにはせず隠しておくのが吉だ。


「咲矢、この世界では名字が転生者の証となる。ドミゴの言うとおり転生者は目立つから、隠せ。闇の破壊者の正体がお前だとを知るやつはここにいる連中とこの街の一部の冒険者達だ。それ以上広めるな」


「わかりました」


 どこまで隠し通せるかわからないが、やれるだけの手は打っておくさ。


「ダイチの言う一部の冒険者達は建物の修繕作業中だ。このことはオレから伝えておく」


「頼むぜ。ドミゴ」


「ああ。伝えるついでにそろそろ作業に戻るか。サクヤも手伝ってくれるか?」


「はい! ぼくにできることならなんでも!」


「ははは、威勢のいいやつだな。よし、作業着を持ってくるからちょっと待ってろ」


 ドミゴが持ってきたのはみんなも着ている枝豆色の作業着。

 咲矢は寝間着からそれに着替えた。


「大地先輩とお揃いですね!」


「萌生もライムもドミゴもみんな同じ服だぞ。違うのはサイズだけだ」


 そう言うと、なぜかライムが目を見開いた。


「はっ! これはとんだ無粋なことを。男性同士のお揃いに女性であるワタシが混ざるなんて許されざる行為です。今すぐ脱ぎますね」


「はしたない真似はやめろ!」


 ズボンに手を掛けようとするライムを必死で止める。

 そんなことをしながら俺の頭の中ではある別の懸念が泳いでいた。


 みんな、咲矢のことを許してくれるだろうか?


 ドミゴからは温かい言葉を貰えたが、全員が全員割り切れるはずがない。

 直接被害を受けたチンピラ冒険者なんか特に、だ。


「……⁉⁉⁉」


 懸念が吹っ飛ぶ。驚いた。

 

 俺が考え込む隙を見て、ライムがすでに上着の方を脱いでいたからだ。

 目に入ったのは中に着ていた白のTシャツ……だけでない。

 汗のせいか、下着的なものが、ブラジャー的なものが透けて見えている!


「バッカお前!」


 脱ぎ捨ててあった上着でライムを巻くように覆った。


 顔が火照る。冷静さを失う。強引になる。

 こんな風に心を乱されたのは初めてだ。


「そんなに怒ることないじゃないですか」


「いや、お前、あのなあ、目のやり場ってもんがあるだろう」


「はい?」


「はい? じゃねえよもう……頼むから着ててくれ……」


「は、はあ、そこまで言うなら」


 渋々ながら上着に袖を通すライム。

 ため息をつきたいのは俺の方だ。

 こいつといると気が休まらないことが多い。


「は、ははは、じゃあ外へ出るか」


 さあ気持ちを切り替えて。

 苦笑いを浮かべたドミゴの合図で現場へ向かった。




「みんな聞いてくれ。色々あったが、今日からこいつも作業に加わってもらう」


 現場に到着。

 ギルドの冒険者のみを集め、ドミゴが言った。

 持ち前の低い声、だが配慮してくれたのか声量は小さい。


「さ、咲矢といいます。よろしくお願いします」


 咲矢は挨拶と共に一礼した。

 だが、冒険者達から返事はない。

 ドミゴの言った通り、『色々あった』から。やはり割り切れないのだ。

 露骨に睨み付けたりするようなやつこそいないが、皆複雑な表情を浮かべている。

 どう関わってよいのやら対応に困っているのだろう。


「あの、その節は……申し訳ございませんでした」


 続けて謝罪の言葉を口にした。

 だがそれにより、モヤモヤした場の空気はより一層重苦しさを増す。


 謝られても、どう返せばいいんだ?


 そんな困惑の声が聞えてきそうだ。

 それもそうだろう。

 だって1番被害を受けたのはあいつなんだから。

 あいつがなにか言わないかぎり、他の冒険者達はなにも言えない。


 チラチラと、あいつに視線が寄せたり引いたり。

 しかし当のあいつは集団の最後部に位置し黙りっぱなし……


 ……かに思われたそのときだった!


「よっしゃー!!! 今すぐ焼き芋パーティーやるぞー!!!」


「「「「「⁉⁉⁉」」」」」


 口を開いたかと思えばそんな素っ頓狂なことを言い出す。

 発言の主はあいつ、もといチンピラ冒険者だ。


 ズカズカと、皆をかき分け最後部からやってくる。

 そして咲矢の肩を組んだ。


「おいサクヤ、焼き芋は好きか!」


「は……はい! 大好きです!」


「よーしドミゴ! 枯れ葉を集めてくるから炎魔法ぶっ放す準備を頼む!」


「はははっ! 火打ち石で充分だろと言いたいところだが、出血大サービスだ! サクヤにも魔法を見せてやりたいしな!」


「さすがドミゴ、そうこなくちゃな! よしみんな、焼き芋パーティーの開始だー!!!」


「「「「「おー!!!」」」」」


 あいつ……。

 ありがとうな。

 咲矢の先輩として礼を言うぜ。


 重苦しい空気はどこへやら。

 憑きものが取れたかのように和やかな空気へと変化を遂げた。

 満面の笑みのチンピラ冒険者と、嬉しそうな咲矢の表情がそれをよく物語っている。


「今朝、ダイチのやつが女の子から大量のサツマイモ貰ってさ。こいつ超イケメンだからモテるだろ? 男として羨ましいかぎりだぜ」


「わかります! ぼくも大地先輩には超憧れているんです! 差し入れしたくなりますよね!」」


「おお、女の子目線かよ。そんなに憧れてるのか……」


「はい! 大地先輩になりたいくらい!」


 おおう咲矢、絶妙に気持ち悪い発言だな。


「まあ見た目と発言は一致してるが……こう見えて男なんだよな?」


 チンピラ冒険者は咲矢の股、丁度剣がある位置をパンと叩いた。

 

「きゃ! えっち!」


 すると咲矢は女のような声を出し、赤ら顔で股を押さえる。

 まるで乙女が恥じらう姿だ。


「……やべえ」


 なにがやばいんだチンピラ冒険者よ。

 神妙な面持ちのやつは俺を見て言った。


「ダイチ、オレ新たな扉開いちゃったかも」


「今すぐ閉じろ」

 

 今日この日、チンピラ冒険者の性癖は少し歪んだ。


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