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0075 咲矢目覚める

 萌生の話によると、目覚めた咲矢の側にはドミゴとライムがついているらしい。


「闇が再び取り憑いて暴れ出す、なんてこともなかったでヤンスよ」


「それはよかった」


 闇の再発もない。

 また暴れ出すのではないかと懸念していたから一安心した。

 

 武具屋に入る。


 しかしあいつ、大丈夫なのかな?

 10日間も気絶していたのだ。

 目覚めたといっても衰弱しきっているだろう。


 床に伏せって元気とは言いがたい状態。

 そんな想像をしたが……


 閉まった扉を向こうから元気な声が聞えてきた。


「いや緑色凄すぎません⁉ 何回ブリーチして何回カラーしたんですか⁉」


 咲矢の声だ。


「よくわかりませんが人工の色ではありませんよ。生まれつきです」


「生まれつき⁉ それ地毛なの⁉」


「はい。あっ、そんなことより男性とお伺いしましたが、好きな男性のタイプは?」


「いや、ぼく女性とよく間違えられますけど実は男で……ってあれ? 間違えてない?」


 おいこらライム、寝起きにおかしな質問をぶちかますんじゃない。

 咲矢が混乱してるじゃないか。


「おい、身体の方は問題ないか?」

 

 ドミゴの声がした。


「いや自分の身体よりあなたの身体が気になりますよ! 何食ったらそんなでかくなるの⁉ 熊ですかあなた⁉ しかも顔は厳ついし、北〇の拳のキャラか! え? いつのまにか世界が核の炎に包まれたの⁉ それとも19XX年にタイムスリップしちゃった⁉」


 なんかやけに元気いっぱいで面白い反応を見せてるな。

 ライムの発言で混乱に拍車がかかってるようだ。


「萌生、先に行ってみろよ」


「どうしてでヤンスか?」


「あいつがどんな反応するか気になって」


「僕は同じ元日本人だから、面白い反応は望めないと思うでヤンスよ」


 そう言いながらも先に入室。


「こんにちはでヤンス」


 おお、いきなりツッコミどころをぶっ込んでるじゃないか。


「わあ眼鏡! 眼鏡だ!」


 いや眼鏡は普通だろ。


 ツッコミどころを誤るくらい混乱しきっている。

 こりゃさっさと顔見せてやった方がよさそうだな。


 入室。


「よう咲矢」


 寝間着姿で上半身だけ起こしたそいつが俺をジッと見た。

 ふむ、顔色もよさそうだ。心配して損した。


「うわ! 金髪長身イケメン!」


「おう、褒めてくれてありがとよ」


「……って! 大地先輩じゃないですか!」


 咲矢はぴょんと立ち上がりジャンプ。俺にしがみついてくる。

 重いな。


「会えて嬉しいですぅ……」


 そう言ってくれて何よりだが、男が猫なで声を出すな。


「素晴らしい……」


 ライムは鼻血を出すな。

 

「ぼく、どうしてこんなところで寝ていたんですか? いつものように下校していたはずなのに気付いたら面白軍団に囲まれて、わけわかんないです」


 ふむ、この世界に来て以降の記憶がまったくないのか。

 記憶断絶のタイミングを鑑みるに、こいつも俺と同じトラックに轢かれたのかな?

 

「咲矢、異世界転生って知ってるか?」


「修介先輩がハマってたラノベですよね。少しなら知ってますよ。学力も運動神経も人望もない無能な人間が神様からチート能力貰って努力もせずに成り上がる話ってくらいは」


 それはまた歪みきった観念だな。

 あと萌生はどうして胸を押さえて震えてるんだ?


「まあ……人物やストーリーについてはどうでもいい。大事なのは世界観だ」


「世界観? 中世ヨーロッパ風の町並み、魔物を剣や魔法で倒す、って感じが王道だと思うんですけど」


「おお、まさにそれだ。ドンピシャすぎてこっちが驚いたぜ」


「は、はあ……」


 異世界転生モノのラノベをまったく知らなかった俺だが、実は最近、萌生から教わったのだ。

 

女神を連れて一緒に転生したり、めっちゃ強いスライムになったり、何回も死んで何回も生き返ったり。

 

多種多様な異世界転生があるみたいが中世ヨーロッパ風の町並みや剣と魔法の世界であることは大体共通しているらしいな。


「ところでそのラノベがどうかしたんですか?」


「ラノベの話というより、俺達に降りかかった現実の話だ」


「……はい?」


「よく聞け咲矢」


 俺はずっとしがみついていた咲矢を下ろし、肩に手を置いた。


「俺達は死んで、異世界に転生したんだ」


 キョトンと、咲矢は固まった。

 

 しばし間が開いたのち――

 

 プッ、と吹き出す。


「はははっ、いつからそんな冗談言うようになったんですか? あるわけないじゃないですか、そんなこと」


 うーむ、信じようとしてくれない。

 ま、それもそうか。

 まだこの部屋の中しか知らないからな。


「よし、現実を見に行くぞ」


「はい?」


「どこへ行く気でヤンスか?」


「ちょっくらリスタの森まで」


 俺は寝間着の咲矢を外へ連れ出した。



 ――30分後――



「おい大変だ! こいつ、ゴブリン見ただけで気絶しやがった!」


 咲矢をおぶって武具屋にとんぼ返り。

 それを見た面白軍団達は『気の毒に』とでも言いたげな表情を咲矢に向けた。



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