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0072 あれから10日後

 ――10日後――


 闇の破壊者(咲矢)の大暴れ。

 リスタの街を恐怖に陥れたこの騒動から今日で10日が経過した。


 騒動を引き起こした張本人である咲矢は依然として気絶したままで、今もなおドミゴ宅兼武具屋でその身を隠させてもらっている。

 

 そんな中、俺・萌生・ライムもこの街にまだ留まっていた。

 咲矢が目覚めていない、というのも理由の1つだが。

 ぶっ壊れた建物の修繕、これに手を貸そうと決めたのだ。


 変な闇に取り憑かれていたとはいえ、後輩がやらかしたことだし……と。


 俺なりに少なからず罪悪感があったのだ。

 てなわけで戦闘服を作業着に、剣を大工道具に換え、修繕に励む。

 なおギルドの冒険者達や萌生も同じくであった。

 

 特にドミゴは、上手い。

 武具屋のせがれであるこいつは物を作ることにとにかく長けているようで、持ち前のリーダーシップも発揮しながら、街の大工を差し置いて現場監督のように仕切っていた。

 差し迫っていた武具の納期は客先に伸ばしてもらったらしい。

 仕事よりも街の修繕を優先するなんて、いいやつだ。

 

 ちなみに――


「うんしょ……うんしょ……うんしょ……」


 一応ライムも現場で励んでいた。

 だがレンガひとつ運ぶのにも苦労するほどだ。

 戦力になっているかはお察しである。


「ライム、休んでていいぞ」


「いえいえダイチさん、ここにいさせてください」


 枝豆色の作業着の袖で汗を拭いながら言う。


「汗にまみれる男達の間に芽生える恋心。これを見逃すわけにはいきません」


「そんなもん芽生えないから安心して下がってろ」


 ライムとは頻繁にそんなやりとりをしながらも自由にさせていた。

 まあ、用材を鼻血で汚したりしないかぎりは好きにしていいさ。

 俺もこいつが側にいてくれるとなんか嬉しいし。



「あのーヨウカワダイチさんですよね」


 

 ふと、声をかけられた。

 初対面の女の子3人組だ。


「そうだけど」


「あ、やっぱり」


 女の子達はチラチラと目線を動かしながらモジモジしている。

 なんの用だ?


「あの、街を救ってくださったヨウカワダイチさんに少しでもお礼ができたらな、と」

「食べ物や飲み物を持ってきたので是非受け取ってください」


 ははあ、そういうことね。


 こういった事は最近よくある。

 闇の破壊者を消滅させたヨウカワダイチ、と。

 半分真実で半分デマであるこの情報がリスタの街に浸透し、お礼の言葉や品をよく贈ってくれるのだ。おかげで『食』に関しては困った記憶がない。


「ありがとう! 遠慮なく頂くぜ!」


「わあよかった! それじゃあどうぞ! うちで穫れたリンゴです!」


 籠一杯のリンゴを手渡された。

 真っ赤に熟れていて美味そうだ。


「ワタシからは山ぶどうジュースです! 穫れたてを絞ってきました!」

 

 紫に染まった一升瓶を手渡された。

 穫れたての山の幸が味わえる贅沢な一品だ。


「ワタシは……どうぞ! サツマイモです!」


 ほう、サツマイモ。

 でっかくて美味そうだがどうやって食べよう?

 いつもみたいにギルド所属の料理人さんに任せるか。


 こういった調理必須な食材は彼らに寄付するのが一番だ。

 さすれば立派な御膳になって返ってくる。

 そもそも1人で食べきるには限界があるしね。


「ありがとう! ここにいるみんなに分けてもいいかな?」


「それはもちろん! ……あと、お願いがあるんですが、お時間よろしかったりします?」


「ん? お願い?」


「はい。すぐ近くに美味しいパンケーキ屋がありまして、よければ一緒に……」

「ちょっと! なに抜け駆けしてるの!」

「ほんと油断も隙もない! ……あの、街を出て裏手にお花畑があるんです。よければワタシと二人きりで……」


「たははは……参ったなあ……」


 怒濤のお誘いに困惑していると、


「はいはいはいはい、ちょっと失礼しますね」


 話に割って入ってきたのはライムだ。

 ちなみに――


【女の子に話しかけられる→ライムが割って入る】


 この一連の流れも頻繁にあった。


「見ての通り、ダイチさんは街の修繕作業中です。今はそれを理解していただけませんか?」


「うっ……そういうことなら……」

「わかりました……」

「失礼します……」


 女の子達はすごすごと帰ってゆく。

 

「リンゴと山ぶどうジュースとサツマイモありがとうねー!」


 俺は手を振り見送りながら、一仕事終えたと言わんばかりのライムを見た。

 穏便な姿勢でもっともらしいことを言ったこいつだが、本当の狙いは異なることを俺は知っている。


「ふう、油断も隙もないのはこっちの台詞です。まったくダイチさんという人は……アプローチしているわけでもないのに勝手に女性を集めてしまう。イケメンの宿命でしょうか。でも、ワタシの目の黒いうちは美少女ハーレム構築なんてさせませんよ。というわけでダイチさん、さっさと美少年ハーレムを構築してください」


「なんでだよ」


 さっきの流れには追記が必要だな。


【女の子に話しかけられる→ライムが割って入る→ライムが女の子を追い払う→ライムが俺に謎のハーレム構築を促す】と。


「ダイチ、今日も色々と貰ってるな」


 次に話しかけてきたのはバリバリ知った顔。

 ドミゴだ。


「リンゴにジュースに……おっ、サツマイモがあるじゃねえか。焼き芋にでもしようぜ」


「おお! それはいいアイデアだな!」


 寄付の予定は変更。

 焼き芋パーティーだ。


「なに⁉ 焼き芋⁉」


 話を聞いて近寄ってきたのはこれまた知った顔。

 チンピラ冒険者だ。

 こいつは騒動のどさくさにまみれて美少女ハーレムの構築間近だったが、自身の軽率な行動によりおじゃんとなった。

 以後しばらくぶーたれていたが、最近はすっかり元の調子である。


「美味そうなサツマイモだな! よーし、さっそく落ち葉を集めてくるぜ!」


「待て待て」


 駆け出すチンピラ冒険者の首根っこをドミゴが掴んだ。


「まだ午前中だぞ。3時のおやつまで待て」


「けちくせえこと言うなよ。身体はでかいくせに器は小せえな」


「芋じゃなくてお前を燃やすぞ」


 言葉は乱暴だがじゃれ合うように仲良く喧嘩してる。

 それをライムがジーッと見ている。


「……ありですね」


「まじかお前」


 見境ないやつにツッコミを入れたそのとき、またしてもひとりの男が近寄ってきた。


「大地君、今日も色々と貰ったんだね」


「……おう」


「えーと、リンゴにサツマイモに、これはなに?」


「……山ぶどうジュース」


「へえ、美味しそう! 飲んでみていい?」


「……いいぞ」


「? 大地君? 反応が薄いね。どうしたの?」


「……」


「ねえ大地君、どうしたのさ?」


「……いや」


 ポン、と。

 俺は両手をそいつの肩に置き、言う。


「お前がどうしたんだよ!!!」


 大声に驚いた表情のそいつ。

 名は御手洗萌生である。


 そう、アイデンティティのあれを言わなくなったのだ。


「ヤンスはどうしたんだ! ヤンスは!」


 語尾のヤンスが消えて今日で3日目くらいである。

 理由は不明。なんの予兆もなく突然の出来事だったから、さぞかし戸惑った。


「なんで急に言わなくなったんだよ……」


 なにか深いわけがあるのかと思い質問を自重していたが、今日は聞かせてもらおう。

 このままじゃ気になって作業に集中できない。


「いや……まあ……心変わり……的な?」


「的な」


「うん、的な」


 核心を避けた回答だ。

 まあ、言いたくないならこれ以上深い追求はしないさ。


 でも、これだけは言わせてもらうぞ。


「はあ、結構好きだったけどな、お前のヤンス」


「え⁉」


「え⁉ 好きだったんだ、お前のことが⁉」


 できることならライムを日本の病院に連れて行ってやりたい。

 耳の精密検査をしてもらおう。

 ついでに脳の方も。


 ライムのことはとりあえず無視し、萌生に話を続ける。


「最初は違和感あったけどさ、すっかり慣れちまってむしろ気に入ったんだよ。今ではヤンス抜きの方が違和感だぜ」


「そ、そう? いや……そうでヤンスか?」

 

 なんと! 元に戻った!


「おお、それそれ! やっぱしっくりくるなあ!」


「へへへ、大地君がそう言うなら、このままがいいでヤンスね」


「うんうん、絶対そっちの方がいいって」


 なにがあったかは知らないが、1度はヤンスを辞めた萌生。

 だが、また元の口調に戻った。

 これで違和感ともおさらばだ。


「さあ! 今日も張り切っていくでヤンスよ!」


 威勢いい語気でヤンスが放たれる。

 聞いているこっちも気持ちが良い。


「大胆な告白、素晴らしい……素晴らしい……素晴らしい……」


 そう連呼しているのはライム。

 聞いていると気味が悪くなってきた。


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