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0070 美少女ハーレム構築?

 萌生・ライム・ドミゴ・マリカ。

 各人が思い思いに行動した結果、場は混沌と化した。


 それもこれも全部、咲矢の股に生えた『剣』が原因だ。


 ……あ、剣といえば。


 気絶してもなお迷惑の発端となる後輩にため息の1つでも吐こうとしたとき、一本の剣の存在を思い出した。


 神剣サンソレイユ。


 月上京花が所有するその剣だが、今は咲矢が気絶する部屋の隅に投げ置かれている。

 戦いが終わったあのとき、あいつはいつのまにか姿を消していた。

 だから返しそびれたのだ。


 俺は部屋に戻り――


 ……まだ丸出しになってる……いい加減パンツを履かせてやってくれ。

 あっ、こら、マリカは入ってくるな。


 今度こそため息を吐きながら、刃むき出しの神剣サンソレイユを拾い上げた。


 何はともあれ返しに行こう。

 このまま借りパクしたい気持ちもないわけではないが、それはそれで良心が痛むしな。


 ……って、あいつどこにいるんだろう?


「なあ、誰か月上京花の行方を知らないか?」


 皆に尋ねた。

 萌生・ライム・ドミゴがと首をかしげる中、「あ、それなら知ってますよ」と声を上げたのはマリカだ。


「ここに来る途中、すれ違いましてね。『どこに行くんですか?』と尋ねたら、『少し身体を休めたいの。ギルドを借りるわよ』と。おそらくまだいるんじゃないでしょうか」


「よし、それじゃあちょっくら行って剣返してくる」


「あっ、僕も付いて行くでヤンス」


「ワタシも。おふたりの仲がどこで更なる進展を迎えるかわからないですからね。戦いが終わり、興奮冷めやらぬ中、ぶつかり合う色欲……」


「……まあ勝手にしてくれ。ドミゴ、マリカ、すまないがこいつのことを頼んだぞ」


 ふたりに咲矢を任せ、武具屋を出た。

 向かう先は月上京花がいるであろうギルドだ。


 ふと見れば、逃げていた街の人々が正門近くに戻ってきている。

 

「何者だったんだろうね?」

「さあ? でも消滅したらしいよ」

「よかったあ」


 街の人々の声が耳に届く。

 どうやら冒険者達が流したデマが広がっているみたいだ。


「どんな顔だった?」

「そんなの見る余裕なかったよ。ただでさえ黒くて見えずらかったし」

「だよね。ワタシも」


 そんなやりとりに安堵しながらギルドへ。

 

 着き、横開きの扉を開けた。


「よう! ダイチじゃないか!」


 ……ええっ⁉


 俺の姿を見るや否や、溌剌とした声をかけたくれたのはチンピラ冒険者だ。

 なぜか五人の若い女性に囲まれ、非常に元気な姿を見せている。


 こいつ……闇を纏った咲矢にボコられたんじゃなかったのか?


「よう、元気じゃねえか」


「そらそうよ、なんたってここにいる回復使いさんらが五人がかりで治療してくれたからな。酷い傷だったが、すっかり治ったぜ」


 チンピラ冒険者は軽い口調だ。

 たしかによく見れば、全員が緑の魔法石をはめ込んだ杖を持っている。

 その内のひとりが口を開いた。


「身体の大きな男性から託されたときは驚きましたが、すっかり元気になられたようでよかったです」


 ははあ、なるほど。

 ドミゴが託した相手はこの女性達だったのか。


 彼女らはギルドの下品な雰囲気に似つかわしくない。

 街の奥へ奥へと走り、逃げ込んだ頑丈そうな建物がたまたまギルドだった、想像するにそんなところだろうな。


「もう痛いところはもうありませんか?」

「もしあればすぐに仰ってください」

「あなたは街のヒーローなんですから」

「正体不明の破壊者に立ち向かうなんてかっこいい」

「ええ、ほんと。素敵です」


「いやーありがと! みんなのおかげで元気いっぱいだぜ!」


 モテモテのチンピラ冒険者は鼻の下を伸ばしてデレデレだ。

 五人の回復使い達はうっとりとした目線をやつに向けている。

 ボコられたとはいえ、闇の破壊者相手に立ち向かった果敢な姿は女心をくすぐったらしい。


『倒したのは俺だぞ』


 ここでそんなことを言えばどうなるだろうか?

 おそらくユートピアは終焉を迎えてしまうだろう。

 

 なーに、そんな無粋なこと、行動には移さないさ。


「はあ……男ひとり女性複数人のハーレムなんて見ていてなにも面白くないです」


 うちの回復使いはまたおかしな発言をしている。

 別にお前を喜ばせようとしてこうなっているわけじゃないぞ、ライム。


 ……って、それはさておき。


「なあ、月上京花がここに来なかったか?」


 チンピラ冒険者に問うた。


「ああ、来たぞ。食堂にいる」


 彼は頷き、扉の閉まった食堂を指した。


「声をかけるのを躊躇うくらい思い詰めた表情だったな。破壊者が消滅したというのは聞いたが、倒したのって、あいつじゃないのか?」


「いや、別のやつだ」


「へえ……ってお前⁉ 手に持ってるそれ、あいつの剣じゃないか⁉ まさか⁉」


 おいおい、自分からハーレムを終焉に向かわせてどうする。


「いやいやいやいや、違う違う! これはただ落とし物を届けに来ただけだ!」


 必死に優しい嘘を付いたが、効果ないようで――


「え⁉ あなたが倒したんですか……しかもイケメン……」

「すごい……ってかイケメン……」

「お強いんですね……あとイケメンですし……」

「かっこいい……さすがイケメン……」

「素敵です……さらにイケメンとか最高……」


 五人の回復使い達はチンピラ冒険者を離れ、俺に近寄ってきた。

 どうやらイケてる顔が女心をくすぐったらしい。

 

 あーあ、案の定こうなってしまった。


 チンピラ冒険者は俺に恨みたっぷりの視線を向ける。

 いやいや、俺はフォローしてやったぜ。


「はいはい皆さん、どいてください」


 割り込むように俺の前を立ち塞がったのはライムだ。

 憮然とした態度で続けた。


「ダイチさんに美少女ハーレム構築なんてさせるものですか。美少年ハーレムなら大歓迎ですけどね」


 なにを言うかと思えば、相変わらずのおかしな発言だ。

 慣れがない五人の回復使いはドン引きの様子である。


「さあダイチさん、ここはワタシに任せてホウセイさんと奥へ」


 少年漫画のような台詞だな。

 ボス戦を前に敵幹部を引き受ける熱いシーンに使われるのが鉄板だが、まさかこんな歪なシチュエーションでも使えるとは。


「お、おう、じゃあ頼んだ」


「い、行ってくるでヤンス」


 なにはともあれ面倒ごとを引き受けてくれるのはありがたい。

 俺は萌生と共に奥へ向かい、食堂の扉を開けた。


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