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0067 戦いが終わって

 ドミゴ、月上京花、萌生。

 彼・彼女らの数々の攻撃が空を切ってきた。


 それは俺とて同じ、であったが……。

 神剣サンソレイユを手にした途端、状況は一変する。


 身体と感性。

 それらが異変と言っていい不思議な現象に包まれた。


 まるで――

 

 一歩先が見える。


 そんな中、俺が繰り出した斬撃は咲矢の身体を捉えた。


 


 この手に確かな感触があった。

 目の前で倒れる咲矢。

 闇は天へ浄化するように消え、仰向けのそいつは目を瞑って倒れたまま。


 同時に、俺の身体と感性に異変をきたした不思議な現象も消えた。

 

 なんだったんだ……一体……?


 というか。

 今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 生気を失った咲矢を見て、さあっと、己の顔から血の気が引いてゆく。

 おそらく今、青白い顔をしていることだろう。


 斬っちまった。

 結構がっつり。

 やっちまった。


 やべえぇぇぇぇ!!!


 なんか場のノリというか! 戦い特有のテンションというか!

 後先考えず斬っちまった!

 え? なに? 俺、人殺し?

 いや、俺を越えたあいつに勝とうとは思ったよ! 

 でも、殺そうとは思ってない!

 殺すつもりはなかったんだよ! ……ってそれ、殺人犯がよく言う台詞じゃねーか!


 頭の中は大パニック。

 後輩を剣で斬りつけるというどんな部内暴力事件よりも物騒なことをしでかした俺は、パックリと切れ目が入った制服を広げた。


 頼むからまだ生きていてくれ。

 傷が浅ければいいのだが……


 ……あれえ?


 見て触れて、俺は首をかしげた。

 

 服は斬れ、肌色が見えている。

 だが、傷は1ミリたりともついていない。

 血は一滴も流れていない。


 無傷、なのだ。


 念のため胸に耳を当ててみた。


 ――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――


 生きてる! 

 ただ気を失っているだけだ!


 どうしてこんな都合よく?

 疑問が湧かないわけではないが、そんなこと今はさておき。


 なんとも嬉しい誤算に思わず顔がほころぶ。救われた気分だ。

 よかったよかった。

 目覚めたらお詫びになにか奢ってやって、その後はフットサルでもして遊ぼう。


「そいつ、まだ息があるのか?」

 

 安堵しきっていたそのとき、低い声がかかった。

 見上げたその視線の先には、ドミゴ。

 ぐるっと辺りを見渡すと、萌生・ライム・ギルドの冒険者達が、俺と咲矢を囲うように立っていた。


「おう、無事だ!」


「……無事?」


「ああ! なぜか無傷だし、じきに目覚めるだろうな! ……?」


 嬉々として告げる中、違和感が襲った。

 やつらが俺とはあまりにかけ離れた態度だったからだ。


「そいつ、ダイチと同じ服装だな。転生者なのか? 知り合いなのか?」


 皆複雑な表情を浮かべる中、1人の冒険者が言った。


「ああ、どっちもその通り……!!!」


 なるほどそういうことか。

 

 咲矢は俺にとっては可愛い後輩だ。

 だが、面識ないこいつらにとっては街や仲間に危害を加えたにっくき破壊者であり、それ以上でも以下でもない。


 だから生存を喜べない。

 それどころか、息があるなら今のうちにトドメを、なんて思ったやつも少なくないだろう。

 嬉々として『無事』と告げた俺に、それこそ違和感を抱いたに違いない。

 目覚めたら一緒に遊ぼう、なんてもってのほかだ。


「待て待て待て、みんなの言いたいことはわかる! でもな、あの大暴れは闇のせいだ。断言する。こいつのことはよく知ってるが、あんなことするやつじゃない!」


 必死になって庇い、そして萌生に問うた。


「萌生、お前ならこいつのこと知ってるよな⁉ 不動咲矢は中学の時から名が知れ渡っていたはずだ!」


 遊んでいた俺とは違って、咲矢は幼い頃から競技としてのサッカーに揉まれていた。

 

 そして中三の頃には俺が作った高校サッカーブームにあやかり、未来のスター選手として脚光を浴びていたはずだ。


「え? え? え? あー。そ、そうでヤンスね! ぼ、僕も知ってるでヤンスよ! そ、そんなことする人じゃないでヤヤンス!」


 ええ嘘下手! バレバレの忖度! ヤヤンスとか言っちゃってるし!


 問われた萌生はしどろもどろ。

 そういやこいつは俺のことを知らなかったのだ。

 そりゃ咲矢のことも知らないよな。


 皆の複雑な表情はなおも変わらない。

 そんな中、俺にできることはひたすらな説得にほかない。


「闇は消えた! だからもう大丈夫だ!」


「……もし、また暴れ出したら?」


 言いづらそうに、ひとりの冒険者が声を上げた。

 もっともな不安要素だろう。

 

「心配なら目覚めるまで身体を縛り上げるなり牢にぶち込むなりすればいい。それでも万が一のことがあったら――」


 落ち着いてもらうために、安心してもらうために。

 俺はゆっくりはっきりと告げ、神剣サンソレイユを胸の前で掲げた。

 そして、続ける。


「そのときはまた、この俺が止める。絶対、止める」


 言い放ち、返答を待った。

 どれくらい沈黙が続いただろうか。

 大した時間じゃないだろうが、俺には1時間にも2時間にも思えた。


「……よし!」


 場を仕切り直すような声を上げたのはドミゴだ。

 ぐるりと見渡しながら、冒険者達へ告げる。


「お前ら、これから街中にデマを流せ。『闇の破壊者は完全に消滅した』と」


 え、それって……。


「ダイチ、こうしたほうが今後やりやすいだろう? 街の連中は闇に気を取られてそいつの顔なんて覚えていないはずだ。目覚めるまで、その身を俺の家に隠そう」


「ふう、ダイチが大丈夫って言うなら信じるぜ」

「ああ、そもそも街を救ったのはダイチだしな」

「ダイチがやりたいことに、オレ達はついていくぜ」


「ドミゴ……みんな……ありがとうな……」


 皆、理解してくれた。

 それだけでなく、ドミゴに至っては咲矢をかくまってくれるという。

 感謝してもしきれない。


「よーし! それじゃあ街を回るぞー!」

「「「「「おう!!!」」」」」


 ギルドの冒険者達はデマを流すべく走り出す。

 咲矢を抱えた俺は、萌生・ライム・ドミゴと共にドミゴの家である武具屋へ。

 ここが被害を受けなかったのは不幸中の幸いだ。


 武具屋に入り扉を占める直前、冒険者達の大声が響き始めた。


「おーい! 闇の破壊者は消滅したぞー!」

「もう安心だー!」

「逃げなくても大丈夫だぞー!」


 お、ありがたいデマが始まった。


「ヨウカワダイチが倒したぞー!」

「あいつは最強の転生者だー!」


 おいおい、俺の宣伝はいいんだよ。

 でも、悪い気はしないなあ。


「女の破壊者を一発で逝かせたぞー!」


 いや言い方ぁ!

 あとこいつ男ぉ!


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