0066 誇り高きプリンスの信念
あまり俺を舐めるんじゃねえぞ。
信念を簡単に変えてたまるか。
サポート役は楽しかった。
これは嘘偽りのない事実だ。
だがな、そこで満足して留まるような男じゃないんだよ。俺は。
――負けたなら、次は勝つ――
――頂点に立つのは俺だ――
初めて敗北を喫したとき、心に誓ったことだ。
その信念は今もなお烈火の如く燃え上がり、揺らぎ消えることはない。
見てみろよ、今の不甲斐ない状況を。
ここにいる奴だけで、俺より強いのが3人もいる。
なんともイラつく事実、なんともむかつく事実だ。
でも同時に……少しワクワク事実でもある。
フィールドのプリンスたる俺を超えるやつが同世代に3人もいるんだぜ。
こんなこと、前世ではあり得なかった。
上には上がいるというのを、初めて体感した。
そんな中、俺は――
下から這い上がって、そいつらの足下をすくってやりたいと思うんだよ。
俺の上に立つ奴がいるのなら、そいつに勝って俺が上に立てばいいだけの話だ。
そして、それはけっしてつらい茨の道なんかじゃない。
サポート役を楽しみ、敗北を糧にして、大きな光も大きな陰もすべて俺のものにする。
さすればオンリーワンを兼ね備えた真のナンバーワンになれる!
これ、絶対楽しいぞ!
見てろよ、必ず這い上がってみせるからな。
いわばこれは下克上!
俺という、天才の下克上だ!
――キシュン! キシュン! キシュン! キシュン! キシュン!――
咲矢の斬撃をいなす。
ったく、変な闇を纏ったかと思えば俺より強くなりやがって。
生意気な後輩にお仕置きが必要だな。
勝機なんてまったくないけど、お前に勝ってやる。
「「「「「ワーワーワーワーワー」」」」」
そのとき、どこからか大人数が騒ぎ立てる声が聞えた。
どんどん大きくなるその声で、その者達がどんどん近づいてくるのがわかる。
やがて鮮明に言葉が届き――
「あ、いたぞー! あの黒いやつだー!」
「仲間がやられたのに黙って見ていられるかー!」
「復讐だー! やり返せー!」
「あっ、ダイチが戦ってるぞー!」
「加勢しろー!」
すぐにわかった。
その声の主は、ギルドの冒険者達だ。
20人は下らないであろうその者達は、チンピラ冒険者がやられて怒っているのだろう。
変な奴等だが、熱い奴等だ。
「瓦礫を投げてダイチを援護しろー!」
「「「「「おー!!!」」」」」
ふふふっ、ありがたい援護だ。
……ん? 本当にありがたいか?
案の定というべきか、
冒険者から放たれた瓦礫は咲矢の身体をすり抜けまったく効をなさない。
というか、それだけに留まればまだマシだった。
すり抜けた瓦礫が俺の身体に命中する。
お前ら、どっちの味方だ。
「おーいお前らやめろ! やつには攻撃が一切通じないんだ!」
ドミゴの野太い声が響く。
しかし、忠告が遅かった。
――キシュン! キシュン! キシュン! キシュン! ガキン!――
げっ! 剣が折れた!
上手くいなせず、刃はポッキリと。
瓦礫に気を取られ、反応が鈍ったせいだ。
「おおお! やべえぇぇぇぇ!!!」
武器を失った俺は咲矢の斬撃を地面に倒れ込むようにかわす。
這い上がるつもりだったのに、まさか這いつくばる羽目になるとは……。
少しやるせない気持ちを抱いた、そのとき――
「フィールドの!!!」
それは俺のことか? ……うおっと!
月上京花の声がしたかと思えば、オレンジのなにかが矢のように飛んできて、目の前の地面に突き刺さった。
だがそれは矢ではない。剣だ。
月上京花が持つ、神剣サンソレイユだ。
使えということか。ありがたい。
これこそ援護だ。
自身以外の人間に炎は出せない。
そう語っていたが、普通の剣としての役割は担ってくれるだろう。
もし折ったりしたらあとで怒鳴られそうだが、そのときはそのときだ。
「拝借するぜ!」
言ったとき、不思議な感覚に陥った。
――サンソレイユが、俺を呼んでいる?――
意思とは関係なしに、手が伸びる。
それだけでなく。
心なしか、サンソレイユがこちらに近づいてくる。
まるで俺の身体と神剣サンソレイユが互いを欲していたかのようだ。
なんとも言えぬ心地の中、その剣に手が触れた。
「……⁉」
なんだこれ……⁉
血が沸く。
細胞が踊る。
身体が燃えるように熱い。
けれど――
空間が静かに。
視界は鮮明に。
感覚機能は冷静沈着そのものだ。
振り向き、咲矢を見た。
……? あいつ、こんなに動きトロかったか?
咲矢が斬撃を繰り出す。
サンソレイユを手にしたまま、余裕を持ってかわした。
いや、あいつがトロいというより、どちらかといえば――
鮮明になった視界の中、俺の動体視力が洗練。
もはやその概念を飛び越えて、変な表現だが、咲矢自身が自身に後れを取っている。
極端なことを言えば――
あいつの一歩先が、見える。
俺は踏み込み、一気に間合いを詰めた。
臆することはない。
だって咲矢は次の斬撃で――
俺の頭を、水平斬りするつもりだもんな。
腰を落とした。
重心を低く。
剣を下からすくい上げるように。
オレンジの刃が、咲矢の身体を捉えた。




