0065 陽川大地vs不動咲矢
破壊者の正体を、俺はよく知っていた。
女の顔に、秀明高校の男子制服。
やつはサッカー部の後輩である不動咲矢だ。
咲矢は俺の1つ年下で高校一年生。
年下の中では特に仲が良く、かわいがってやったものだ。
サッカーの実力も大したもので、『ダントツの二番手』と評され、秀明高校内で俺の次点につけていたプレイヤーである。
ちなみに女のような顔と髪型をしているが、こいつはれっきとした男。
そのため男女両方からよくモテる。
某高3男子は『可愛い上にちんちんまで付いていてお得』だと話し、
某高3女子は『女の子に恋したみたいでイケナイ気持ちになってしまう』と話す。
このように、男女両方の需要を摩訶不思議な形で満たす人物だ。
まあ受験勉強し過ぎた上級生達の脳がおかしくなっただけかもしれないが……。
少なくともこんなやつ、他にいねえ。
だからこそ、ドミゴから聞いた特徴に整理がついたとき、瞬時にこいつだとわかったのだ。
咲矢もトラックに轢かれてこの世界に転生したのか?
俺と違って力は貰っているかもしれないが、かといって良い気分ではなさそうだな。
――『大地先輩は凄いですね!』――
そんなことを言いながら人懐っこく俺にひっついていた前世の姿は、今は見る影もない。
闇に取り憑かれた咲矢は、小さくうめき声を上げてどこか苦しそうだった。
そんな風に苦痛を感じさせながらも、剣を構えてこちらへ突っ込んでくる。
「大地君、相手はなかなか強いでヤンスよ!」
「だろうな」
萌生が相手しているのを眺めているとき、同じことを思った。
斬撃のキレから察するに、今の咲矢には俺以上の腕力がありそうだ。
「じゃあ無理――」
「無理なんかねえよ」
萌生の言葉を途中で遮り、俺は駆ける。
剣を向けて、相対した。
強大な力を持つ相手に力で対抗したらそりゃ無理だ。
それはオーガ討伐でよく学んだ。
だが、柔よく剛を制するという言葉もあるだろう?
咲矢が繰り出してきた斬撃。
俺はそれを――
――キシュン!――
刃で滑らせ、威力を別の方向へ追いやった。
斬撃を受け止めるのではなく、受け流したのだ。
俗に言う『いなす』ってやつかな?
――キシュン! キシュン! キシュン! キシュン! キシュン!――
休む間もなく連続して繰り出される斬撃。
俺はそれを丁寧にいなし続けた。
こうすれば負けることはない。
でも、どうやって勝とう?
――キシュン! キシュン! キシュン! キシュン! キシュン!――
それにしても、なんて力だ。
受け流す手がビリビリと痺れてきやがった。
前世では『大地先輩』と懐いていた咲矢が、今は俺と対峙し、俺を越える力を見せつけている。
いつも俺の後ろをついてきた咲矢が、俺を越えやがった。
まったく……
この世界は俺より強い奴だらけだな。
萌生といい、月上京花といい、身体能力のインフレじゃねーか。
嫌になるぜ。
――キシュン! キシュン! キシュン! キシュン! キシュン!――
本当に、嫌になる。
この世界に来ていい思いをしたことはない。
初めての敗北を味わい、その後も負け続けた。
前世で常勝の道を歩いてきたこの俺が、だ。
プライドをへし折られ、今まで培ったものが崩れ去る感じがした。
でも、そんな中でひとつ気付いたことがある。
サポート役の重要性だ。
ラビットファイター討伐で萌生のサポートに徹し思ったが、サポートは重要かつ楽しみも見いだせる役割だ。
サッカーにおいて、強固なディフェンスがあるから果敢なオフェンスが可能になるように。
サポート役がいてこそ主役は輝く。
光が大きく輝くためには、それを支える陰だって大きくなくてはならない。
俺もドミゴマリカ兄妹のように、そんな大きな陰になれたら……。
そう、ナンバーワンじゃなくて、オンリーワンになるんだ。
なぜだろう、心が温かい。
大切にしていたプライドも、今では馬鹿らしい。
フィールドのプリンスという肩書きも、どうでもいい。
不思議と頂点への興味がなくなった。
ああ、よくわからねえけどいい気持ちだ。
まるで身も心も生まれ変わ――――
「るわけねえだろバカ!」
一瞬の隙を突いて、咲矢へ反撃を試みた。
が、斬撃は空を切る。
一旦、距離を取った。
萌生を見る。
月上京花を見る。
咲矢を見る。
まったくお前ら……俺に変な気を起こさせるんじゃねえよ。
なにが大きな陰だ。
なにがオンリーワンだ。
大きな光とナンバーワンこそが、フィールドのプリンスたる俺にふさわしいに決まってるだろ!
はっはっはっはっ!!!




