0064 破壊者の正体
俺、陽川大地。
リスタに駆けつけてみると、月上京花が滅茶苦茶ピンチに陥っていた。
どうやら『あいつとて危うい』と予感したドミゴの勘が当たったみたいだ。
黒い渦を纏った人間が、月上京花の頭上に剣を振り下ろそうとしている。
やばい。でもいくら足の速い俺でも加勢は間に合わない。
そんなとき――
足下の近くで赤色の玉を見つけた。
炎の魔法石だ。
この騒動のせいでどこかのお宅の所有物が転がってきたのだろう。
地面に転がる丸い物を見つけたら、蹴ってしまうのがサッカープレイヤーの性というもの。
丁度良いところに。
狙ってやる。
走る勢いそのままに魔法石を蹴り飛ばした。
それは糸を引いたように真っ直ぐと伸び行き、月上京花に迫っていた剣に命中。
フィールドのプリンスと呼ばれた俺ならば、このくらいわけないね。
「よう、また会ったな」
よく考えたら魔法石を蹴るのは2回目だ。
ドミゴお手製ブーツのおかげで、今度は足に痛みはない。
ローファーで蹴ったときは痛かったもんなあ……。
「フィールドのプリンス……」
月上京花がそう呟いた。
一方、破壊者は剣を拾い上げ、俺に向かってきた。
……ああ、やっぱりお前か。
全てがドミゴの言ったとおりだった。
黒い渦を身体に纏うその姿は、まるで闇に取り憑かれているよう。
そして、女の顔に、秀明高校の男子制服。
初見ならば闇に紛れて不鮮明だろう。
だが、見慣れている俺にははっきりとわかった。
剣を抜くその前に、一声かけようとした。
そのとき――
「僕が相手でヤンス!」
俺を庇うように前に立ったのは萌生だ。
「ちょ、おい!」
呼び止めはしたが、耳に入らないのか剣を抜いて破壊者に立ち向かう。
迫り来る破壊者に勢い満点の跳び斬りをお見舞いした。
しかし……
――スカッ――
萌生の斬撃は空を切った。
「え?」
不可解な光景を目にし、俺は首をかしげた。
「な、なんでヤンス⁉ たしかに当たったはずなのに⁉」
破壊者の反撃を避けながら言う萌生も、慌てた様子だ。
「こちらの攻撃は一切通じないわ!」
「「⁉」」
月上京花の叫びに俺と萌生は愕然とした。
「やはり……オレの炎魔法が効かなかったのもそういうことか……」
――『さっき、オレの炎魔法が外れたと言っただろ。あれな、オレの感覚では確かに当たっていたんだよ』――
森でそう言っていたドミゴは、合点がいったように顎に手を当てた。
ならばたしかに月上京花がピンチに追いやられたのも頷ける。
てか、攻撃が通じない相手にどう勝てというのだ?
「おーい萌生! 一旦戻ってこい!」
相手の攻撃を避けたり受け止めたり。
防戦一方の萌生に声をかけた。
「戻ってこいって……それでどうする気でヤンスか⁉」
「俺に任せてくれないか!」
「またそれでヤンスか⁉」
「今までとはわけが違う! そいつは知った顔なんだ!」
「「「「⁉」」」」
萌生、ライム、ドミゴ、月上京花、驚愕した皆の視線が俺に集まる。
そんな中、俺は声をかけた。
今は破壊者となった『そいつ』に向けて――
「久しぶりだな。 ……ってそうでもないか」
萌生は『そいつ』の剣を力任せに打ち払い、その隙にこちらへ駆け戻る。
俺の声に耳を傾ける気など毛頭なさそうな『そいつ』だったが、かまわず言葉を続けた。
「また会えるとは思わなかった。でも、嬉しさと悲しさが半分ずつってところだ」
そいつは剣を拾い上げ、こちらに目を向ける。
俺が誰であるか、まるでわからないらしく、剣を構えて近づいてくる。
話し合いは、無理そうだ。
悟った俺は剣を抜く。
そして、虚しさとやるせなさを込めて告げた。
「なにやってんだ、咲矢」




