0063 月上京花vs闇の破壊者(フェイズ京花)(3)
鋭いオレンジ色の刃も、灼熱の炎も、闇を纏う破壊者の前に無力化された。
頭部への渾身の斬撃が通じなかったのだ。しかも、2回。
ならばほかの切り口はないかと、私は攻め立てた。
手、足、胴、首元。
弱点を探るべく狙いを定め、必死の斬撃を繰り返す。
だが、どこも通じなかった。
打つ手なし。
そんな言葉も頭をよぎる。
サンソレイユを持つ手は必要以上に力がこもり、
額を流れていた熱い汗は冷や汗へと変わる。
元来、示現流という剣術は、長期戦に不向きである。
先制攻撃による一撃必殺を美徳としているから、それに伴う弊害といえよう。
連続技や防御の型がないわけではないが、どうしても他より劣る。
戦いが長引くことは、端から念頭に置いていない。
そもそも――
攻撃がまったく通じない。
こんな相手と戦って、どう勝てというのだ?
「はあああ!!!」
なりふり構わずやみくもに突っ込んだ。
冷静さは消え失せ、見えない出口を目指して右往左往するようだった。
完全に、焦っている。
上から右から左から。
型が大崩れしたでたらめな斬撃を繰り返す。
どれだけ剣を振るっても、空気を切る感覚は終わりを迎えない。
炎の剣士の所以である灼熱の炎も、闇に飲まれ効をなさない。
焦りは募るばかりで、なんとも無様な一心不乱の様だった。
事態が好転する兆しはみえない。
それどころか――
ふと、足を滑らせ尻もちをついてしまった。
即座に体勢を立て直そうとしたが――
「⁉」
一瞬だけ、足腰が金縛りにあったように動かなくなった。
おそらく、蓄積した疲労のせいだ。
この遅れが命取りとなる。
破壊者の目と、刃が、すぐ目前で私に睨みを利かす。
――間に合わない――
むなしくもそう悟ってしまった。
そのとき、私はまた金縛りにあい、頭上に迫り来る刃はスローモーションとなる。
――ああ、またか――
思い出が脳内を巡る。
こんな状況なのに、いや、こんな状況だからこそ。
これは、走馬灯だ。
1年前、日本で死んだその間際でも、同じものを見た。
すべてが『あの子』で彩られた、走馬灯を。
あの子。
あの子は、私のすべてだ。
有名になりたいのには理由がある。
自己顕示欲とか、承認欲求とか、そんなものでは断じてない。
私はただ、あの子に自身の存在を知らせたいのだ。
誰よりも大切で、かけがえのないあの子に、もう一度会うんだ。
そのために――
色々な場所を訪れあの子を探した。
強力な魔物を倒して有名になろうとした。
有名になって名が知れ渡れば、あの子の方から会いに来てくれるかもしれない。
あの子に会うその日まで、私は歩みを止めない。
そう決心していたのに――
今、得体の知れない闇によって、その想いは破壊されようとしていた。
ああ、私は2度も死ぬのか。
あの子にもう一度会うという希望も、ここで潰える。
こんなことなら首を突っ込まなきゃよかった。
刃が迫る。
相も変わらず私は動けない。
無情な状況に、もう諦めていた。
――そのときだった――
目の前を赤き閃光が横切った。
――ガキッ!――
それは破壊者が持つ剣を打ち払う。
音と光景に衝撃を受け、走馬灯が混じるスローモーションは終わり、現実世界へと引き戻される。
私は助かったのだ。
地に落ちた破壊者の剣。
その近くには、赤き閃光の正体がコロコロと転がっていた。
赤色の魔法石である。
石のように固い魔法石が光のような速さで飛んできた。
それも破壊者の剣を打ち払う威力を持って。
誰がどのようにしてこんなことを?
破壊者は魔法石が飛んできた方向に目を向けた。
私も遅れて同じ方向を見る。
「よう、また会ったな」
この再会は求めていない。
だが、多少は感謝してやってもいい。
シュートを打ち終え仁王立ち。
彼はフィールドのプリンス、陽川大地だ。




