0061 月上京花vs闇の破壊者(フェイズ京花)(1)
話はほんの少し遡る。
大地がラビットファイター相手に奮闘していたその頃、月上京花はリスタの街にいた。
私、月上京花は宿屋を出、リスタの街を歩いていた。
視野にあるのは、次の旅の準備だ。
武具の手入れをして、食料でも買おう。
この街に留まっていても、私の目的は果たせない。
今から約1年前――
日本の女子高生だった私は訳あって死に至り、この世界に転生。
その後は太陽神からもらい受けた身体能力と神剣サンソレイユをフルに活用し、各地を放浪しながら強力な魔物を討伐し続けた。
すべては有名になるため。
月上京花という名をこの世界に轟かせたいのだ。
現段階の知名度を鑑みるに、そこそこ順調である。
だが一方で、最近は肩書きの方が目立ちつつあって、その点では心外だ。
炎の剣士はまあ良しとしても、もう片方の肩書きである女喰いの女剣士は、無礼千万かつ、事実無根。
私がそっち系であることは紛れもない事実であり。
そして、小さな女の子にそういう目を向けてしまうことも否定はしないが……。
喰ってない。手は出してない。
『あの子』以外は、手を出す気にならない。
「はあ……」
昔を思い出し、気持ちが沈んだ。
心中を代弁するかの如きため息をひとつ。
前世を振り返るのはよそう。
私は前を向くしかないのだ。
リスタはこの世界に来て最初に訪れた街だ。
第二の故郷と呼んでもいいこの場所に帰ってきてとりあえず一泊はしたものの、用なんて特にない。
だからまた旅に出よう。昨日のうちからそう決心していた。
この世界は広い。
私はまだまだ有名になれるはずだ。
決意を胸に、街の出入り口方向へ歩く。
そのとき――
「キャー!!!」
耳を裂くような悲鳴が聞えた。
何事かと足を止める。
悲鳴は次々と連鎖し、大きな物音と共に街にこだまする。
怯えた表情の人々が必死に向かってきては通り過ぎる。
私の歩く方向とは逆、つまりは街の奥へ奥へと逃げているのだ。
出入り口の方でなにかが起こったとうかがえた。
「ねえ、なにかあったの?」
1人を止めて、尋ねた。
慌てふためく相手から鬼気迫る声が返ってくる。
「街の出入り口から変な奴が現われたんだ! 黒くて暴れている!」
黒くて……?
黒人?
詳細な説明を求めようかとも思ったが、冷静さを失った人からこれ以上明確な答えが返ってくる気がしない。
「そう、わかったわ」
そう告げて、私は走った。
人の流れに逆らって現場を目指す。
百聞は一見にしかず、だ。
いったいなにが起こっているのだろう?
魔物が現われて暴れているとか?
いや、さっきの人は『変な奴』と言っていた。
その言い方だと、魔物ではなく人間だ。
やはり……黒人?
なんて憶測をしながら、私は走り、走り、走り――
やがて見えた光景に、我が目を疑った。
街の出入り口から数十メートルにかけてがボロボロ。
建物、品物、ありとあらゆる物が破壊され、がれきが山積みになっている。
そして被害は物だけに留まらず、怪我をして倒れ込んでいる派手な髪型の男がひとり。
だがこれらは驚愕のほんの一端にすぎない。
真に目を引いたのは、この異常事態を引き起こしたと見られる破壊者の容姿だ。
たしかに、黒い。
だが黒人ではない。
信じがたいことだが――
破壊者に黒い渦のようなものがまとわりついている。
まるで闇に取り憑かれているようだ。
あんなの、見たことがない。
この世界には魔法と呼ばれるものがあり、それは前世と大きく異なる点だ。
しかしそれらは炎、雷、氷、回復の4属性が全てであり、闇、なんてものは存在しない。
あれは、いったいなんだろう……?
状況を整理する。
あの闇に取り憑かれた人間が街を破壊し、人々を恐怖に陥れた。
破壊は物だけに留まらず、被害者がひとり。
そして今、二人目の被害者も生まれようとしている。
先端に赤い魔法石をはめた杖を持つ大男が、鉄パイプを持つ破壊者に標的とされている。
やられるのは時間の問題だろう。
走りながら、私は神剣サンソレイユを抜いた。
闇の謎なんて、今はどうだっていい。
だって――
これは大きなチャンスじゃないか。
自然、口角が上がった。
逃げる人々とは対照的に、笑みがこぼれる。
街を滅茶苦茶にする破壊者。
そいつを倒せば、私はヒーロー。
ああ、今日はなんて良い日だ。
私はさらに、有名になれる。




