表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/93

0060 恐怖の予兆(2)

「待て待て、順を追って、もっとくわしく説明してくれ」


「ああ。あれはついさっき起きたことだ――」


 ドミゴの話によるとこうだ。


 迫り来る納期に怯えながら武具屋で作業していると、外から大きな物音と悲鳴が聞えた。

 

 忙しいし、そのときは気になりながらも作業を続けたそうだ。

 

 どうせ大したことはない。

 

 馬鹿な冒険者が股間を露出して物を投げつけられたとか、その程度のことだろう、と。


「……いやそれ、俺が元いた世界では立派な犯罪なんだけど」


「まあ、最後まで聞け」


 大したことはない。

 そう思ったが、物音と悲鳴は連鎖し、広がるばかり。

 

 なにかがおかしい。


 そう思ったドミゴは外へ飛び出した。

 そこで見た光景に、我が目を疑った。


「街の出入り口から数メートルにかけて、すでにグチャグチャに破壊されていた。建物、品物、子供の遊び道具までもが、木っ端微塵だったぜ。で、その犯人なんだが――」


 犯人である破壊者の姿に、ドミゴは驚かされたと言う。


「姿形は人間だった。でも真っ黒な渦に包まれて、正気を失ったように鉄パイプを振り回していたんだ。まるで闇に取り憑かれているようだった。この世の者とは思えねえ」


 闇に取り憑かれた破壊者はうめき声を上げながら街を破壊し続ける。

 恐怖した人々は、できる限り遠くへ逃げようと街の奥へ。

 

 だがそんな中、果敢にも破壊者に立ち向かった者がいたそうだ。

 

「あいつだよ、ジャグリングが得意な――」


「え⁉ あいつが⁉」


 チンピラ冒険者は剣を抜き、破壊者に振るった。

 だが、斬撃は一度も当たることなく外れ、惨敗を喫したらしい。


「あいつは倒れ、戦闘不能となった。だが、破壊者の攻撃は止まることなく続いてな。どうにか救ってやろうと、オレも魔法の杖を持って向かって行った」


 ドミゴは炎使いだ。

 杖を持ち、必死に射程圏内まで走り、破壊者に炎魔法をお見舞いした。

 

「だが、それも外れてしまったんだ。そして破壊者の標的はオレへと変わる。もうダメかと思った。でもそのとき、炎の剣士が現われたんだ」


 なんとそこに、炎の剣士、月上京花が駆けつけた。

 

 間一髪のところで救われたドミゴは、気絶したチンピラ冒険者を逃げる通行人に『どうか頼む』と涙ながらに託し、その足で俺の所まで加勢を申し出にやってきた。

 

 そして今に至る、と。


「なんだ、月上京花が相手しているのか」


 少しほっとしたのは俺と萌生。

 あいつの強さは既知であるし、迫力は体験済みだ。

 負けることはないだろう。


 しかしドミゴは首を横に振る。


「いや、オレの勘が正しければ、あいつとて危うい」


「ん? どういうことだ?」


「さっき、オレの炎魔法が外れたと言っただろ。あれな、オレの感覚では確かに当たっていたんだよ」


「んんん?」


 こいつはなにを言ってるんだ?

 外れたのに、当たっていた?

 パニックを起こしているんじゃないか?


「まあ、ただの勘だ。今この場で話を詰めても仕方ない。この件は一旦忘れるとして、それより服装だ。射程圏内まで近づいたとき、闇の中に見えた服装はたしかにお前が着ていたのと同じだったぞ」


 服装については、さっきからずっと頭を離れずにいた。

 俺が着ていた服、つまりは秀明高校の制服だ。


「あれはこの世界の物ではない」


「な⁉ ……ということは、破壊者の正体は転生者か!」


 そう考えるのが妥当だろう。

 俺が着ていた制服はドミゴの母親が雑巾にしたと今朝聞いた。

 この世界の住人が使い回した可能性はない。


「なんということだ……だが、これであの強さも合点がいく。そうでなきゃ女があんなに強いはずがない」


「女? 破壊者は女だったのか?」


「ああ、闇の中で不鮮明ではあったが、たしかに女の顔をしていた」


 てことは、闇に取り憑かれた破壊者は転生した秀明高校の女子生徒。


 ……いや、待てよ。

 

 自分で出した結論に、なにか引っかかりを覚える。

 

 俺と同じ学校の制服を着た女だから、秀明高校の女子生徒。

 

 この単純明快な論理になんの綻びが生まれようか。

 

 どう考えても正しいはずだ。

 

 でもそれなら、この引っかかりの正体はいったい……?


「大地君と同じ服装の……女? まったく同じ?」


 首をかしげた萌生が俺のズボンへと目を向けた。


 ――そのときだった――


 ビビビッ、と。

 脳に電流が流れるような感覚を味わう。


 なんてことだ、俺はとんでもない思い違いをしていた。


 引っかかりの正体がわかったぞ!


「ドミゴ、破壊者は俺と『まったく』同じ服装だったんだな⁉」


「あ、ああ、そうだが……」


「スカートじゃなくて⁉」


「お前は普通にズボンを履いていただろ? 破壊者も同じく、だ」


「……ははは」


 思わず力のない乾いた笑いが飛び出た。

 なんともまあ、俺としては悲しい答えだ。


「とにかく、今こうしている間にも人や街がどうなっているかわかったもんじゃない。オレと一緒に来てくれ」


 ドミゴの声が号令となり、俺、萌生、ライムは街へ急ぐ。


 道中、俺の心中は複雑な思いでいっぱいだった。

 女の顔。

 秀明高校の男子制服。


 さっきまで不特定だった犯人の正体が、この2つの事実でとある1人に絞られた。

 

 しかもそいつは、俺がよく知る人物だ。


 なんであいつがそんなことに……どうなってんだまったく……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ