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0059 恐怖の予兆(1)

「あ、ありがとな……」


 ライムに魔法で治療してもらった俺は、お礼の言葉を告げた。

 

 ……なぜか目を逸らして。


 施しを受けた側なのに、態度が悪い。

 だが告げる瞬間、無意識のうちに目が他所を向いてしまったのだ。


 本当はむしろずっと見ていたかったのに。

 なんで意思と反する行動を取ったんだ?

 てか、『ずっと見ていたかった』もおかしいだろ。


 もう……わけがわからない。


「これからも怪我をしたときはお任せくださいね」


「あ、ああ、頼りにしてるぜ。……なあ萌生」


 ライムとの会話を逃げるかのように、離れたところにいた萌生に同意を促した。

 

 ふたりだけで話を続けるのが、きつくなったのだ。

 これもわけがわからない。


「うん。頼りにしてるでヤンス」


「ああ、それと、ひとつ聞きたいんだが、太陽神って女性の姿をしていたか?」


「え?」


 なぜ急にそんなことを聞く? とでも言いたげな表情だ。

 もっともな反応だと思う。


「いや、男の姿でヤンスよ。チャラチャラしてノリが軽かったでヤンス」


「へえ……そう……」


 目論見が外れた。

 というか、ライムが太陽神なんて突拍子もない発想だ。

 そんなわけないだろう。


「ふう……」


 そのとき、大きく息を吐いたのはライムだ。

 座り込んで、俯き気味になる。


「ど、どうした?」


「いえ、ワタシ、疲れやすくて。魔法を使った後、いつも貧血を起こしたみたいになるんです。でもすぐよくなりますから、大丈夫ですよ」


 それは心配だな。

 てか、本当に貧血なんじゃないか?

 頻繁に鼻から出血してるし。


「それにしても、チャラ男の神様ですか。どんなタイプの男性が好きなのか、気になりますよね」


 そんなのお前だけだ。


「やはり王道を征く『ギャル男×真面目系』でしょうか。周りからは仲が悪いと思われているけど、裏では親密な関係を築き上げているんですよね。あっ、でも、神と人間の恋は王道ではありませんね。ふふっ、王道の中にすこし変則的な要素がある、これは素晴らしいことですよ」


 お前はなにを言っているんだ。


 変態全開のライムが鼻血を垂らしたのを見て、それまで遠くに行っていた自分が戻ってくるような感覚に陥った。

 

 さっきまでの不思議な感覚がなんだったのか気になるけど、自然体でいられるこっちの方がいいのは当然のことだ。


 自分が自分じゃなくなるような感じは、もうお断りだ。


「はあ……それだけ話せるなら充分元気だな」


「ダイチさんとホウセイさんがこの場でイチャイチャしてくれたらもっと元気になります」


「調子の良い奴だ」


 言いながら、デコピンをお見舞い。

 ライムはふくれっ面になった。


 おかしな発言も、かわいい顔も、相変わらずか。


「ま、もう少し休憩するか」


「はい」


「そうでヤンスね」


 俺、ライムに続き、萌生も近くで腰を下ろした。

 リスタの森の中、3人で草の上に座り、適当な雑談に花を咲かせる。


 穏やかで、ゆったりしたひとときがそこにはあった。


 

 


 ――だがそれは、つかの間に終わる――





「おーい!!!」


 ふと、どこかで聞いた声を耳にした。

 野太いそれはしかし、いつもと違って危機感が込められている。


「おーい!!!」


 2度目の声と共に、木々の間からそいつの姿が露わになった。


「ドミゴじゃないか」


 声の主は案の定ドミゴであった。

 汗水を垂らし、巨体を必死に揺らしてこちらに駆けてくる。

 鬼気迫る目が、俺達3人を自然と立ち上がらせた。

 

 ――ただごとではない――


 そう勘づいたのは、ライムも萌生も同様だろう。


「どうしたんだ?」


 膝に手を着いて息を切らすドミゴに尋ねた。


「た、大変だ。今、リスタの街が何者かに破壊されている」


「「「⁉」」」


 驚きで声も出ない。

 なにがどうしてそうなった。


「し、しかも……」


「しかも?」


「そいつはな、ダイチ、お前が最初ギルドに来たときとまったく同じ服装だった」


 ドミゴが告げたさらなる事実は、俺の驚愕に追い打ちを掛ける。


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