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0057 vsラビットファイター(2)

「邪魔をするな」


「邪魔だなんて。ただ、手こずっているようだからほんの少し手助けを……」


「いらん。そんなもの」


 萌生の助け船を拒絶。

 俺はひとりでこいつを倒すんだ。

 そうじゃないと強くなれねえ。1番に返り咲けねえ。

 つらくても茨の道を進まなければ大輪の花は咲かないんだ。


「ダイチさん、このままじゃらちがあきませんよ!」


 しかしライムからそんな声が飛んできた。


「翻弄されているじゃないですか。強がってどうするんですか!」


 ――っ!!!


「強がってなんかねえよ!!!」


 ライムの言うことは正論だった。

 正論だからこそ、気分を逆なでされる。

 つい語気を荒げてしまった。


「あっ……ごめんなさい……」


 ライムはビクッと怯え、俯き、謝罪の声を絞り出す。

 その姿を見て、さすがの俺もばつが悪くなった。

 下を向いて頭を掻きながら、


「……すまん」


 くそっ、さっきから調子が狂いっぱなしだ。

 こんな思い通りにならないことばかり、前世では経験にない。


 思わず逸らしてしまった視線を、ふと戻した。

 ライムはまだ俯き、申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

 あーもう……


「しゃーねーな」


 俺は呟き、萌生に言う。


「ぴょんぴょん跳びはねられて鬱陶しい。やつの動きを止めるサポートをしてくれ」


「わかったでヤンス!」


 意気揚々と返事を寄越した萌生は、相手に向けてビシッと指を差した。


「やいやいラビットファイター! これを見るでヤンス!」


 続けて足を広げ、グーを作った両手を前に突き出した。

 こいつ、剣も抜かずに何をする気だ?


 疑問に思う俺に、萌生の呟きが飛んでくる。

 そのとんでもない作戦に、仰天させられた。


「渾身の一発ギャグで気を引いて、あいつの動きを止めるでヤンス」


 ……はい?


 理解が追いつかない。

 そんな俺を他所に、萌生は両腕を広げて大の字になった。

 そして……炸裂する!


「ヒトデ」


 ……え?


 大の字、いや、この場合だから星形のつもりなのだろう。

 そのポーズをしてドヤ顔で言い放った萌生は、誇らしげだ。

 

 こいつ、積極的になったな。

 方向性は微妙だけれども。


 対するラビットファイターは口をあんぐりと開けていた。

 喜怒哀楽、やつの心中はおそらくどれにも当てはまらない。

 

 面白いとか、つまらないとか、そういう次元にないシュールな一発ギャグを目の当たりにし、ただ呆然と立ち尽くしている。

 

 正しい反応だ。

 

 俺やライムだって同じ反応をしている。


「さあ、大地君、今のうちに」


 少しピリピリしていた空気が一変し、困惑に包まれた中、萌生はささやく。

 

 今のうちにって言われてもなあ……。


 困惑が拭えないのもさることながら、場所が悪いのだ。

 

 ラビットファイターが立つその場所は、両側と背後の三方がコの字の茂みに囲まれている。

 

 しかもそれは垣根のように分厚い。まるで枝葉の壁だ。


 そんな状況だからひっそりと忍び寄ることは容易だが、そうしたところで枝葉の壁に遮られて斬撃が通らない。

 

 唯一開かれているのは正面だが、そこから攻撃しようものなら簡単に気付かれて空中に逃げられるのがオチだろう。


「動くヒトデ」


 まったく光明が見えないにもかかわらず、萌生は一発ギャグに変化をつけた。

 といっても同じポーズからウニョウニョと動き始めただけだが。


 ……意味がないからやめさせよう。


 声をかけようとした矢先のことだった。


 ――ハッ!――


 まるで天啓の如く、閃きがおりてきた。

 これなら、いける。


 なぜか本末転倒という言葉が頭をよぎったが、先に足が動いた。

 

 気配を殺し、やつの背後へ移動。

 頭をよぎった余計な言葉は消え失せ、必死だった。


 分厚い茂みを目の前にした。

 この先にあるのは、ラビットファイターの背中だ。


「踊るヒトデ」


 茂みの向こう側から、萌生の声が聞える。

 どうやらまだ気を引かせられているらしい。

 だが、飽きるのなんて時間の問題だ。

 悠長にはしていられない。


「ふう……よし!」


 意を決した俺は刃渡りの数倍はある分厚い茂みに飛び込んだ。

 匍匐前進で向こう側を目指す。

 感づかれないよう、静かに、されど素早く。


 密集した枝葉のせいで、髪型はぐちゃぐちゃ、額は傷だらけ。

 けれど、気にならなかった。

 

 光を目指し、真っ暗な茂みの中を突き進む。


 そして――


 茶色い脚を目視できた。


「ははは、捕まえたぞ」


 ついに向こう側にたどり着いた俺は、手を伸ばしてその脚を掴む。


「おっと、暴れんなよ」


 まずい!と表情で叫ぶラビットファイターは逃げようと必死だ。

 ジャンプの勢いにつられて、俺の身体は茂みから引きずり出される。

 だが、その手を離すことはなかった。

 握力の全てを出し切り、食らいつく。


「萌生、早く!」


「二浪したのに現役時も合格した大学にしか受からなかったヒトデ」


 お前……まだやってたのか。

 しかもシチュエーションを凝り過ぎだ。 


 だが中々上手いな。

 遠くに投げた虚ろな視線が哀愁を漂わせている。

『俺の二年間はなんだったんだ……』と心の嘆きが聞えてきそうだ。


 ……って!


「そんなのいいから早く! お前が攻撃しろ!」


「おおお、いつの間にそんな状況に⁉」


「いいからさっさと剣を抜け!」


「わかったでヤンス!」


 萌生は駆け寄り、剣を振りかぶった。


「うおおおお! ラビットファイターを討伐するヒトデ!」


 おおう、もはやヒトデ関係ねーな。


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