0053 付いて行ってもいいですか?
茶番を楽しんだ後はパン屋でドミゴお墨付きのタマゴサンドを購入。
ふかふかのパンと、濃厚なタマゴソースの相性は抜群で……美味い!
まともな飯にありつけたのは約1日ぶりだ。
一心不乱に食いながら、俺はドミゴに言う。
「フガフガフガフガフガ、フガフガフガ」
「気に入ってくれたようでなによりだが、飲み込んでからしゃべってくれ」
たしかにそうだ。
飲み込んでから今一度口を開いた。
「これから魔物討伐に行こうと思うんだが、お前も来るか?」
完全にその場のノリだった。
特になにか考えていたわけでもなく、適当にドミゴを誘ってみた。
「すまん。あいにくだが今は武具の製作で忙しくてな。納期が近い品もあるし」
納期が近いって……。
メーカー勤めのサラリーマンみたいな台詞だ。
どんな商売形態してるんだ、お前んとこの武具屋は?
「だが、気分転換も必要だ。昼を過ぎた頃に軽く加わらせてもらおう」
「お、じゃあその頃に1度街に戻っとくぜ」
「適当なメンツも何人か誘っておこうか?」
「いいなそれ。よーし、じゃあ昼飯食った後ドミゴんち集合な」
なんて学校が午前終わりで喜ぶ小学生みたいなやりとりをし、来た道を戻る。
武具屋の前で一旦別れ、俺と萌生はリスタの森へ向かう。
今日もひとまずこの2人で魔物討伐だ。
だが、萌生に手出しされてはあっという間に終わってしまう。
これでは俺のレベルアップに繋がらない。
ここは昨日と同じく――
「萌生、俺ひとりでやるから、お前は見ていてくれ」
丁度、街の門を出て草原に踏み入った瞬間だった。
目前にはリスタの森が見え、萌生が「またでヤンスか?」と返す。
そして、その声に被せて――
「なに言ってるんですか。ひとりでヤるよりふたりでヤった方がいいですよ」
⁉⁉⁉
横からおかしな発言が飛んできた。
門を出てすぐ横にいた発言の主は、驚愕する俺達にかまわず畳みかける。
「は! でも片方がヤってもう片方がそれを傍観するというシチュエーションも中々そそりますね……。変わったプレイですがそれもまた一興。素晴らしい」
緑の魔法石がはめ込まれた杖を持ち、緑のワンピースを着て緑の髪をしたこの女と会うのは2度目だ。
おかしな発言は相も変わらずである。
「あ、ホウセイさんの口元になにか付いてますよ」
視線を向けるとたしかに付いていた。
さっき食べたタマゴサンドのソースだ。
「ほらほらダイチさん。早く、お願いします」
俺になにを期待する?
わけもわからず困惑する間に、萌生は自身の舌でそれを舐め取った。
彼女は「はあ……」と大きなため息をつく。
「こういう場合、ダイチさんが指で拭ってペロッ、ですよ。『付いてるぞ』『お前の味がする』なんて台詞があればなお良しですね。がっかりさせないでください」
勝手に期待して勝手にがっかりしないでくれ。
「えーと、ライム、だよな?」
さっきからおかしな発言を繰り返す回復使いは、ライム。
昨日会ったとき、そう自己紹介していた。
「はい、なんでしょう」
「俺達になにか用?」
「そうそう、そうです。ワタシとしたことがつい熱くなって、本題を忘れるところでした。そのために朝早くから待っていたのに」
俺達が来るか確信もないのに待ち構えていたのか。
それはそれは、よほど重要な話だ。
「ワタシは見ての通り回復使いの冒険者です。ですがちょっぴりわけあって、今はひとりなんです」
これほど容易に想像がつくわけも珍しい。
ドン引きされたんだろうな。
「ひとりになってからというものフラフラしてばかりで、半ば引退状態でした。ですが昨日、お二人と出会ったことで、『冒険者としての』熱い気持ちを思いだしたのです」
それは本当に『冒険者として』なのか?
よこしまな思いしか感じないぞ。
「というわけで――」
ライムは背筋を伸ばし、改まった態度で言う。
「お二人に付いて行ってもいいですか?」
「⁉」
「あ、もちろんお二人の愛の空間に割って入るような無粋な真似はしませんので、ご安心くださいね。回復から結婚の仲人まで、すべてワタシにお任せください。」
「は、はあ……」
おしとやかな口調でおかしな発言。
咲いた笑顔が少々不気味な回復使いの名はライム。
うーむ、断っても尾行とかされそうだし……。
「まあ、いいけど」
返答を待つ彼女に、俺はそう告げた。
☆Regular Member☆
陽川大地
御手洗萌生
ライム←NEW




