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0050 地獄の昼食

 見る者のトラウマになりそうな二面性を持っていた月上京花。

 

 彼女は俺を負かしてマリカのパンツを堪能した後、颯爽とどこかへ去って行った。

 

 恐ろしい剣士であると共に、恐ろしい女喰いであった。


 もう二度と会えないかもしれないが、会いたくないのでそれでいい。


「おーいマリカ、マリカ」


 そんなことよりも、だ。

 マリカの様子がおかしい。


 ボーッとしたまま視線を遠くに投げて、俺の呼びかけにも応じない。

 お姫様だっこで怪我の具合を観察して以降、ずっとこの有様だ。


 怪我した箇所が痛むのかと不安に思ったが、けれどその可能性は薄い。

 

 というのもマリカは、表情筋の全てを緩ませ、夢見心地な表情でボーッとしているのだ。

 

 怪我をした直後なのに、なにがそんなに幸せなのか。

 もうわけがわからない。


 ふと、萌生へと目を向ける。

 こいつはこいつでまたよくわからない。


 哀れむような目でマリカを見たかと思えば、

 ゴミを見るような冷ややかな目を俺に向ける。


 それを交互に繰り返しているのだ。

 なにが言いたい?


「……はっ! ダイチさん!」


「おお、マリカ、気がついたか」


 ようやく正気に戻ったマリカ。

 しかし今度はモジモジと身体をくねって、


「もーダイチさんったら、だ・い・た・ん」


 紅潮した頬を両手で覆いながら、そんなことを言う。

 おいおい、大胆なのは月上京花の方だ。

 他人の目も憚らずお前のパンツをガン見していたんだぞ。


「そうそうダイチさん、お昼ご飯、まだですよね?」


「ああ、そうだけど……!!!」


 しまった!


 唐突に切り出された昼飯はまだかという問い。

 それを安直に肯定してしまった思慮の浅さを悔いた。


 まずい! この流れは非常にまずい!


「よかった。ワタシ、ダイチさんのためにお昼ご飯を作ったんです」


 ほらきた最悪の展開だ。


「は、はははっ、ちなみにメニューはなに……?」


 もしかしたら、朝の信号機とは違って普通の料理が出てくるかもしれない。

 

 声を震わせながらもそんな一縷の望みを抱き、尋ねたが……。


「キムチと桃の卵とじ丼です! 最初は特製ゴーヤソースをかけて、半分を過ぎたらラムネを入れてお茶漬けのようにして食べてください!」


 5色に増えてる⁉


 しかも赤・ピンク・黄・緑・青って……

 戦隊ヒーローか!!!


「今回は沢山作ってありますから! おかわりしてくださいね!」


 勘弁してくれ!!!


 朝の信号機を超えるオリジナルメニュー、しかもおかわりまで促されて俺は卒倒しそうになった。

 

 昼飯を食ってないと言ってしまったから後には退けないし。

 なにより目を輝かせる少女の善意を袖にすることなど、俺にはできない。

 

 くそっ……せめて萌生に手伝ってもらってどうにか……ってあれ?


「な、なあ、萌生は? 萌生はどこに行った?」


「さっき、『ちょっと身体を鍛えに……』と呟いて出て行かれましたよ。さすが冒険者さん、研鑽に余念がないですね!」


 あいつ、また裏切りやがったな!

 なにが身体を鍛えに、だ!

 こちとら胃と忍耐を鍛える羽目になるんだぞ!


「さあダイチさん、行きましょ!」


 マリカはギュッと俺の腕を組む。

 食堂へ強制連行だ。

 

 死刑台に上る死刑囚って……こんな気分なのかな……。

 

 

 虚ろな目で重い足を引きずった俺はその後――


 キムチレッド!

 桃ピンク!

 卵イエロー!

 ゴーヤグリーン!

 ラムネブルー!


 これら戦隊ヒーロー達に完膚なきまでに叩きのめされ、腹の調子を悪くした。

 

 そして異世界生活2日目の午後を丸々寝て過ごすことになったのだった。


 本当にもう……今日は踏んだり蹴ったりだ。


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