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0005 プリンスのファンクラブ

「「常識超えてんじゃねーか!!!」」


 声を合わせた2人から非常に快活なツッコミが返ってきた。

 立ち上がるほど元気が良くて何よりであるが、ここは教室だぞ。


 もう少し声のボリュームを落としてほしいのだが、そんな願いは届かない。

 2人はよく通る大きな声で言葉を続ける。


「常識的なモテ度合いならファンなんていないからな!」とわんぱく坊主の圭一。


「陽川大地ファンクラブなんておかしな団体が学校にある時点で充分常識外だ!」とインテリヤクザの修介。


 おおう、それもそうかもしれない。


 修介の口から出た『陽川大地ファンクラブ』だが、これは確かに実在する。

 発足のきっかけは……今も食っている昼の弁当だ。


 高校に入学した直後から、沢山の女の子が弁当を俺に作ってくれた。勝手に。

 だが流石に食い切れない数だったため、申し訳ないなと思いつつも、その日最初の弁当以外は断ることにした。


 そんな中で女の子達が勝手に発足させたのが俺のファンクラブである。


 このファンクラブは『陽川大地様に昼のお弁当を渡したければ当団体に所属しなければならない』という勝手に定めた独占的な方針を元に活動を行っている。よくこんなのがまかり通っているものだ。

 

 しかしまあ便利な点もあり、その日の弁当を誰が作るかのローテーションがルールとして組まれているから前述の問題を見事解決した。うん、それはよかったんだけど……。

 

 厄介なのが『抜け駆け禁止』というルールだ。


 このルールは『ローテーションを破って陽川大地様に弁当を渡してはいけない』という内容らしく、『破った者は今後一切、陽川大地様と会話してはならない』という厳しい罰則付きだ。

 うん、勝手に変なルール作ってるけど、これ俺にも弊害出るよね。会話くらいはさせてよ。

 

 以前そのことについて軽く物申してみたのだが……。


『治安維持のためです。それくらいしないとローテーションを破る者が続出します』と。


 申し訳なさそうに返ってきたのは自らを正当化する言葉であった。

 なるほど、治安維持のためなら言論統制もかまわない、と。

 何年前の日本だ?

 

 俺がこの抜け駆け禁止ルールのことを陰で『現代版治安維持法』と呼んでいることはさておき、先日、ファンクラブのルールを知らない女の子が弁当を作ってきたところ、渡す前にファンクラブ員に見つかってしまい、こう叱責を受けたという。


『勝手になにやってんの⁉』


 非常にユーモラスだ。座布団1枚。




「大地お前、今までに何回告白された?」


 ファンクラブの厄介&面白エピソードを振り返っていると、落ち着きを取り戻した修介がそんな質問を投げかけてきた。


「うーん……正確に数えたことはないけど……」


 面と向かって告白された回数は軽く三桁に乗り、下駄箱や机の中などにこっそり置かれたラブレターの総数はそろそろ四桁に届くのではないか。

 

 修学旅行や文化祭では告白のトリプルブッキングを引き起こして楽しい学校行事が修羅場と化した。ラブレターの方もいい加減置き場に困ってきたところだ。燃えるゴミの日にビニール袋にまとめるわけにもいかないし。


「まあ、数え切れないくらいだな。あっはっはっは!」


 豪快に笑い飛ばすと、修介は「あっはっはっは、じゃねーよ」と嘆息し、眼鏡の位置をクイッと正した。頭がいい人がよくやる動作だ。


「どうしてそんなにモテるんだよ、と言いたいところだが、大地の場合はその理由が明白だからな」


「うんうん」と圭一は同意し、2人は当人である俺をそっちのけにして、その理由とやらを確認し始めた。


「まず運動神経だよな」と圭一。


「それと学力もだ」と修介。


 そう、スポーツも学力も、俺は誰にも負けたことがない。

 この世に生を受けてから、一度たりとも。


「今日返された全国模試も大地は1位だったよな」


「今日どころじゃない。その前も、もっと前も、ずっと前も、こいつが1位以外の順位を取っているところを見たことがない」


 うん、俺も自分の順位欄に『1』以外の数字が付いた記憶はないな。

 勉強なんてまったくしたことがないけれど、俺の成績は常にトップだ。


「あと顔か。こいつはイケメンだもんな」


 圭一は俺を一瞥し、言う。

 幼い頃からイケメンともてはやされていたから、少なからずその自覚はあった。

 

 渋谷を歩いていたら1日に10回も芸能スカウトに声をかけられたほどだ。

 人はよく、そんな俺の見た目を『王子様のようだ』と語る。

 端正な顔つきが一番の要因だろうが、もうひとつ挙げるとすれば……。

 

 俺は自身の髪に触れた。

 

 耳に少しかかるくらいの長さの金髪、それが俺の髪型だ。

 なるほど、物語に登場する王子様も皆大体こんな髪型をしている。

 その表現は的確かもしれない。


 フィールドのプリンスと呼ばれる理由もこの容姿にあるみたいだしなあ……。


 今ではかなり世に浸透したこの肩書き。

 内緒だが、俺も結構気に入ってる。


 ちなみにこの高校で髪型は自由。

 とはいえ、ここまで派手に染め上げると普通は注意を受けるらしいのだが、文武における輝かしい功績が教師陣の暗黙の了解を生んだらしい。黒髪にしちゃうとプリンスっぽさも失うしね。


「スポーツも勉強も顔もチート級とかそりゃモテるよな。今朝も他校の女子生徒が校門で入り待ちしてたし」と修介。


「かわいい子も結構いたよな~。1人くらい分けてくれよ」とおちゃらけたのは圭一だ。


 分けられるなら分けてやりたいさ。

 塀をよじ登って登校するとかもうごめんだからな。

 


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