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0045 炎の剣士、月上京花(2)

 炎の剣士、月上京花。


 やつが持つオレンジの剣から燃え上がる炎を、俺は唖然と眺めていた。


 性格に擬えた肩書きだと思っていたが、まさか本物の炎を操る剣士だったとは……。


 てかどんな仕組みなのその剣⁈

 着火装置があってガソリンでも入ってるの⁈


「キョウカさんそろそろ消してください! ギルドが火事になったら大変です!」


「はいはい」


 火遊びを咎められるが如く注意をマリカから受け、月上京花は炎を収めた。

 着火も消火も自由自在なんだな。


「じゃあワタシ、食堂の方に用事ありますから! 炎を出すなら出来るだけ外でやってくださいね!」


「はいはい」


 念押しし、マリカはギルド奥の食堂へと向かった。

 月上京花は「あの子、肝が据わってるわね」と呟く。

 それについては全くもって同感だ。

 いつもギルドの変わった連中に揉まれてるから、精神的に強くなったのだろう。

 下半身の剣を見ても無然としていたように。


 この場にいるのは俺・萌生・月上京花の3名。

 奇しくも転生者のみとなった空間で、俺は月上京花と向かい合った。


「その剣、太陽神から貰ったのか?」


 オレンジ色の刃で炎を出す剣は普通じゃない。

 だから、気になったのは入手経路。

 そして、転生者であるならさっき萌生が話した太陽神が絡んでいると察した。


「そうよ」


 月上京花は肯定する返事をよこした後、すぐに怪訝な表情を浮かべて、


「あら? どうして太陽神なんて知ってるの?」


「それは俺も転生者だからだ。名は陽川大地。よろしくな」


「へぇ」


 こちらも転生者であることを告げると、驚きの声を上げて目を丸くさせた。

 そして俺の顔をまじまじ眺めながら言う。


「ふうん、でもそれなら納得だわ」


 いったいなにを納得したのか。

 

 気になって尋ねようとしたが、月上京花は言葉を続け、炎の剣を手にした過程を語り出す。


「太陽神からは良い顔と良い身体能力が貰えるけれど――――」


 話によると、当時太陽神から顔と身体能力に関することを切り出された月上京花は、顔の方を固辞したらしい。

 

 なんでも、どうしても顔を変えたくなかった理由があったそうだ。


 しかしその交渉はすんなりとは進まなかった。

 

 というのも、月上京花が文字通り神も恐れぬ行動に出たからだ。

 

 なんと顔を現状で留めたい事情を逆手に取り、その代わりにと、身体能力向上を通常より割り増しで寄越すよう要求したらしい。


 その要求に太陽神は難色を示す。

 しかし粘り強く交渉を進めていると――


「結局、身体能力向上の割り増しは受け入れられなかった。でもそこまで言うのならと、これをくれたわ」


 月上京花はそう言って、腰に差した剣を鞘ごと抜いて掲げた。


「これは神剣サンソレイユ。神の剣にして、私にしか使えない炎の剣よ」


 神剣サンソレイユ。


 オレンジ色の刃同様、鞘も存在感抜群だ。

 円と放射線状の彫刻が施されており、悠然と光輝く太陽を彷彿とさせる。


「あんたにしか使えないって……他の人は炎が出せないのか?」


「ええ。私以外の人が使ったら何の変哲もないただの剣よ。太陽神がそうなるようアレンジしていたわ」


「ま、そんなところね」と話は一区切りついて、神剣サンソレイユは月上京花の腰位置に戻された。


「そうそう、懇切丁寧に語ってあげたけど、これはただの慈善活動ってわけじゃないわよ」


「なに? なにか要求があるのか?」


「そういうこと」


 太陽神の時といい、がめつい奴だな。


「なあに簡単なことよ。月上京花の名を広めてほしいの」


 いったいどんな要求をされるのかと身構えていたら、余裕を感じさせる表情でそんなことを言う。

 

 たしかに難易度でいえば拍子抜けするレベルだが、そんなことをして何になる?


「その意図は?」


「それ、語る必要あるかしら? 私はとにかく有名になりたいの」


 月上京花はあくまでも有名になりたい理由を語らない。

 

 しかしとにかく有名になりたいだなんて……。

 

 愛想のない高飛車な女だが、前世ではSNSに張り付いて『いいね』の数に一喜一憂でもしてたのか?


「最近は肩書きの方が目立っちゃって、少し不本意なところもあるの。そもそもギルドに来たのだって、沢山の人がいて手っ取り早く名を広められることが理由よ。そうじゃなければこんなむさっ苦しい所には出入りしないわ」


 たしかに。

 月上京花の年格好は俺と同じか、それより少し上くらい。

 この年齢の女にここの環境はきついものがあるだろう。


 それゆえに、有名になりたい想いの強さも伝わってはくるが。


「じゃあ私は行くわ。そうそう、今後見かけても話しかけたりしないで頂戴ね。同じ転生者でも、あなたと馴れ合う気なんてないから」


 なんて可愛げの無い女だ。

 

 この展開、少女漫画の世界の男なら『へえ、面白い女』とか思ったりするのだろうが、俺はちっとも面白くない。むしろ不愉快だ。


 月上京花は淡々とした表情で俺の横を通り過ぎた。

 

「おい、待て」


 振り返り、呼び止める。

 別に文句を言いたいわけじゃない。


「なによ」


 こいつには因縁がある。

 ブリザードドラゴンの件だ。


 単に炎の剣が氷のドラゴン相手に相性よかったんじゃないか、と。

 

 討伐したことを今更どうこう言うつもりはないが、イチャモンめいた思考も湧き上がる。


 まあそんなことはさておき、大切なのは――

 こいつに勝てば、俺が代わって最強の剣士になれるということ。


「月上京花と言ったな。俺と勝負しろ」


 俺は絶対、1番に返り咲くんだ。



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