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0042 強さの謎

「さあて大地君!!! 充分休憩は取れたし、また軽く魔物でもしばきに行くでヤンスか!!!」


 突如として表立った活力漲るその姿に、俺は気圧されていた。

 本当に、なんの脈絡もなく、急に、元気ハツラツになったのだ。


 さきほど俺が『俺達、友達だよな?』と問いかけると、顔一杯に笑みを浮かべて、飛び跳ねながら『そうでヤンスよね! そうでヤンスよね!』と。事はそこからである。


 もしかして、この発言が関係しているのか?


 いやいや、恋人同士かと問われたから、今更わかりきったことを確認しただけだ。


 一緒に飯を食って、同じ部屋に泊まって、たくさん話をした。

 

 出会ってからまだ1日だが、これだけ密度の濃い時間を共に過ごして友達じゃないわけがないだろう。


「次はどんな魔物に出くわすでヤンスかね、大地君!!!」


 それと――

 

 気圧される俺をおいて勝手に話を進める萌生は、俺を大地君と呼び始めた。

 さっきまでは陽川君と名字で呼んでいたのに。

 これもいったいどういう心変わりがあったというのだ?


 まあ、急に張り切り始めたわけも下の名前で呼び始めたわけも、そんなのどうだっていい。

 

 それよりも今、気になって仕方がないのは――


「萌生、お前何者だ?」


 今だリスタの森の中。

 地に尻をつけたまま、跳び跳ねている萌生を見上げて尋ねる。


 おかしな回復使いのせいで話が逸れていたが、俺が抱いた萌生の強さの謎は明らかになっていない。


「何者って……ただの元日本人、現異世界在住民でヤンス……」


 言葉の意味を図りかねたのか、訝しげな表情を浮かべて答える。

 ピョンピョン跳びはねていた足も止まった。


「嘘つけ! ただの元日本人がその強さ、おかしいだろ!」


「どちらかと言えば大地君の強さの方がおかしいでヤンスよ」


「な⁉ お前それ、俺の強さがおかしいって……弱すぎるって意味か……?」


「うん」


 遠慮なしにキッパリと告げる萌生。

 俺は心に大ダメージを受けた。

 

 弱すぎるって……酷すぎる……。

 フィールドのプリンスたる俺になんて言い草だ。


「ていうか……」


 またがっくりとうなだれた俺には触れず、萌生は話を続けた。


「元日本人だからこそ、そして転生者だからこそ、僕の強さは当然でヤンス」


 転生者だからこそ、強さは当然……。


 まただ。

 

 転生者であることにより、なんらかの利点をを得ている言い方だ。

 

 その手の発言は昨日から何回か耳にした。

 

 だが邪魔が入ったりそれより気になることがあったりで、今まで核心に迫れていなかったのだ。


「それってどういう……」


 尋ねると、萌生は困惑気味に口を開いた。


「どういうって……」


 そして、知っていて当然、周知の事実、世界の常識といった口ぶりで、衝撃の真実を告げる。




「転生者は皆、神様から力を貰っているはずでヤンスよ」




「神……様……?」


「うん、神様でヤンス」

 

 目が点になる。

 俺はしばし呆気に取られて思考が止まった。


「神様でヤンス、じゃねーよ! そんなおとぎ話みたいなことがあってたまるか!」


「ええぇ……魔物がいる別世界に転生した時点でもう充分おとぎ話みたいじゃないでヤンスか……って、昨日も似たようなやりとりをしたでヤンスよね」


 そうだっけ?

 まあ言ってることは正論だけれども。


「だいたい、異世界転生ラノベでも神様の登場とチート能力はお決まりでヤンス。あれと同じと思えばいいでヤンスよ」


「同じって言われても……俺、異世界転生ラノベなんか読んだことねーし……」


「それは……あれでヤンスか? 『あいにく前世ではリア充陽キャだったんで』アピールでヤンスか?」


「そんなつもりねーよ」


「やれやれ」と嘆息する萌生を見て、その反応をしたいのは俺の方だと心の中で嘆く。

 

 続けざまに頭に手をやった萌生は、


「ちなみに僕の転生直前を1から説明すると――」


 と切り出し、自身が体験したラノベお決まりの展開とやらを語ってくれた。


 それによると――


 死後、不思議なことに目を覚ますと光の届かない真っ暗な空間にいて、

 わけもわからず彷徨っていると突然、全身から光を放つ人間が降りてきた。


 しかしそいつは人間ではなく神様で、

 太陽を司る神、『太陽神』だと名乗った後、萌生を異世界に転生させることを告げた。


「この鎧や剣も、その神様、太陽神から貰った物でヤンス」


 萌生は腰に差した剣と身に付けた鎧に手を触れる。

 

 だから俺がブレザーの制服のまま転生したことを疑問に思っていたのか……。

 

 萌生と出会った直後を思いだし、1つ合点がいった。


「さらに、太陽神から貰えるものはこれらだけに留まらず――」


 続く話はいよいよ核心を突くものだった。


「さっきも言ったように、転生者は皆、神様から力を貰えるでヤンス。チート級の身体能力を」


 転生者には身体能力向上を約束していると言う。

 

 その上げ幅は皆一律であり、元々の身体能力が高ければ高いほど、異世界でのそれは他より優れるそうだ。


「だから、前世で運動神経のよかった大地君は僕より強くないとおかしいでヤンス。僕の身体能力なんて、前世ではダメダメだったでヤンスから」


 ダメダメの身体能力の持ち主が、オーガの巨体を蹴り飛ばすまでの強さになったというのか。

 

 じゃあもしも、武術に精通している者が転生すればどれほどの強さになるのだ?

 底が知れん。


「足の速さだけ、向上しているとかはないでヤンスか?」


「え?」


 不意に、萌生がそんな質問を投げかけてきた。


「いや、オーガに向かって行ったスピードだけはめちゃくちゃ早かったでヤンスから。鎧を脱いだ僕でもあんなに早くは走れないでヤンス」

 

 スピード『だけ』か……。

 

 たしかにスピードは1番の自慢だ。

 その魅力が有象無象と一緒くたにされないことは喜ばしいが……。

 

 すべてにおいて完璧だった俺にしてみれば、悲しくなるほど余計な助詞が付いている。


「変わってねーよ。そもそも、太陽神なんてやつには遭ってないしな」


 死後、気付いたらすでにこの森にいたのだ。

 真っ暗な空間で光る神様と出会う、なんてイベントは起きやしなかった。


 吐き捨てるように言った俺の顔面を、突如として萌生がのぞき込んだ。

 なんだいったい?


「そう言うわりには、ちゃんと顔は良くなっているでヤンスよね」


「え? 顔が良くなる?」


「言い忘れてたけど、転生者は見た目も良くしてもらえるでヤンス」


「え?」


「男ならイケメンに、女なら美人にしてもらえるでヤンス」


「え?」


「だから大地君も、顔だけは太陽神から恩恵を受けたでヤンスね」


「え?」


「え?」


 萌生から『え?』が返される。

 俺達は顔を見合って首をかしげた。


モチベ向上のため、

評価とブックマーク、是非ともお願い致します。

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