0028 宴会無双(2)
うーむ……。
多少は雰囲気に乗せられやすいところもあるのかな?
実際、ああいう茶番めいたことは嫌いではない。
さっきのことを振り返り自己分析をしていると、
「よーし、そうと決まればさっそく練習に励むぞ!」
嬉々として意気込むチンピラ冒険者は、机に置いてあった玉を抱えた。
ところが、そのうちの1つが腕から転がり落ちてしまう。
いっぺんに抱えるとそうなるよね。
けれど玉が床に着くことはなかった。
俺が足で拾い上げたからだ。
ポーンと一度高く蹴り上げたのち、足の甲や太もも、かかとなんかでも数回弄ぶ。
そしてキャッチ。
「ほらよ」
抱えた玉の山の頂点に置いてやると、チンピラ冒険者はきょとんとした表情でこちらを見ていた。
「あ、わりい。大事な玉を足蹴にしちゃって」
つい癖で。
野球やテニスで遊ぶときもたまにやってしまうが、サッカー経験者特有の悪い癖だ。
「いや……そんなことよりも……」
唖然としたチンピラ冒険者は腕から玉をポロポロとこぼす。
おいおいせっかく拾ってやったのに。
……と思った途端、ドタバタと他の冒険者達が近寄ってきた。
「なんだ今の⁉」
そのうちのひとりに迫られる。
「今のって……どの……?」
集まった冒険者達をぐるりと見渡し、誰にともなく尋ねると、彼らは口々に言った。
「さっきの! 玉を蹴り上げたやつ!」
「落ちる前に蹴り上げて、また落ちる前に蹴り上げて、またまた落ちる前に蹴り上げて……」
「どんなトリックを使ったんだ⁉」
「トリックじゃねえよ。ただのリフティングだ」
「「「リフティング?」」」
「そうそう」
俺は床に転がる玉を1つ取って、今一度見せてやることにした。
太もも、すね、足の甲。
身体のあらゆる部位を使い、一定のリズムで玉を弄び、変化をつけるために必要以上に高く蹴り上げたりもする。
もちろん玉が床に着くことは1度たりともない。
つま先とかかとで頭上を通す、そんな曲芸めいたこともしつつ、最後は落ちてきた玉を横に払うようにキャッチして、デモンストレーションは終了だ。
「こんな感じだ。簡単だろ……って」
ぽかんと口を大きく開けて、唖然とする者。
プルプルと身震いする者。
目を見開き、驚愕の表情を向ける者。
冒険者達はバラエティに富んだ反応を見せた。
「すげえ……」
ひとりの冒険者が感嘆の表情と共にそう漏らした次の瞬間、皆一斉に距離を詰めて、
「どうなっているんだまったく……」
「玉が生きているみたいだったぞ……」
「足と玉が糸で繋がってる……わけないよな」
言いながら、俺の足にペタペタと触れてきた。
だからトリックじゃないって!
「なあお前ら、リフティング見たことないのか?」
「「「ない!」」」
俺の問いかけに、冒険者達は口を揃えてはっきりと答える。
食べ物飲み物は似通っていたし、ジャグリングもあった。
だが足を使った球技に、この世界の人々は馴染みがないようだ。
「ダイチ、オレはまたお前に気付かされたぜ」
俺の肩をがっしりと掴み、輝きに満ちた目でそう言うのはチンピラ冒険者だ。
「……なにを?」
「大切なのは、新しいことへの挑戦だ! リフティングマスターに、オレはなる!」
おいおい! ジャグリングに対する愛と熱意はどこに消えた⁉
ツッコミ不可避の心変わりだ。
高らかに宣言したチンピラ冒険者は、玉をひとつ手に取って、足蹴にし始めた。
ポンポン、ポーンと。
おいおい、どこまで蹴飛ばすつもりだ。
一応リフティングのつもりらしいが、下手くそだ。
足が届く範囲を越えて蹴り飛ばしてしまい、3回がやっとときてる。
「オレもオレも!」
「やってみようぜ!」
「ああ、そうだな!」
他の冒険者達も続く。
だが、そろいもそろって下手くそで、玉はそっぽへ飛んでいく。
「難しい……ダイチはさすが転生者だな」
誰かがぽつりとそう漏らした。
いやいや、転生者だからリフティングが上手いわけじゃないからね。
サッカー経験が無さそうな萌生はそう上手くはできないだろう。
……ってあれ?
軽く周りを見渡し、萌生がいないことに気付いた。
チンピラ冒険者のジャグリングに乗っかるまでは俺にくっついていたはずだが、あいつどこに行った?
背伸びして、今度はじっくり見渡してみた。すると……。
「おっ、いたいた」
目に入ったのは萌生の後ろ姿。鎧が放つ、銀色の光沢がよい目印となった。
しかし同時に、違和感も駆け巡る。
「……え⁉」
思わず声が出たのは、驚愕を禁じ得なかったからだ。
状況を確認すべく、俺はすぐさま駆け寄った。




