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0026 誇るべき役割(2)

「全部好きでやってることなんだ。あいつらの喜ぶ顔を見ると、オレも嬉しくなるしな」


 ドミゴは自らの想いを反芻するように、そんな言葉を口にした。

 全体をぐるりと見渡し、その向け先である冒険者達を眺める。


 そして――


  深く考えさせられる感情はどこへやら、俺達はドン引きした。


「……あいつらの、ねえ」


「……ああ、あいつらの、だ」


 今一度全体を見渡すと共に、ドミゴのため息が漏れた。


 そのあいつら、非常識人だらけの冒険者達は、酒を浴びるように飲みながらどんちゃん騒ぎをしていた。

 

 もはや俺の歓迎の宴会という名目は薄れ、ただの飲み会と化している。


 ……それだけなら別にいいのだが。

 

 問題なのは大半の冒険者が服を脱いでいることだ。

 

 上半身裸はまだマシな方で、下半身にぶら下がる己の剣を堂々と丸出しにしている冒険者も少なくない。

 

 なお、さきほど俺に酒を勧めた口調だけは上品な中高年冒険者、彼は上半身のみ服を着たままで、下半身の剣だけ丸出しという特殊スタイルで大はしゃぎしていた。真性の変態である。


「酔うといつもこれだからなあ……」


 ドミゴはまたため息をつき、頭を抱えた。

 見たところ、この場で冷静なのは俺、ドミゴ、チンピラ冒険者、マリカ……マリカ⁉


「ちょ、ちょっとマリカ!」


「はい、なんですか?」


 俺はマリカに声をかけた。

 

 平然と空いた皿を片づけている幼い彼女は、繰り広げられる衝撃的な光景を目の当たりにしているにもかかわらず、気にする素振りを微塵も見せていない。


「この空間にいて、なにも思わないのか⁉」


「え?」


 言葉の意図は、すぐには伝わらなかったようで。

 

 マリカは首をかしげた後、全体をぐるっと見渡し、ようやく「ああ!」と気付いたかと思えば、親指を立ててグーサインした。


「慣れました!」


 慣れるな!

 

 前世ならマリカはまだ小学生くらいだろう。

 

 それなのにこんな環境に慣れてしまったら、大人になったときどのような女性になってしまうのだろうか。未来が末恐ろしい。


「まったく、マリカもマリカだ。あいつらにひけを取らないな」


 ドミゴが頭を抱えたままそう言った。


「立派になったってこと? お兄ちゃん」


「あいつらが立派だと思うか?」


 

 ………………お兄ちゃん?

 

 

 冒険者達が立派な大人ではないことは当然として、気になったのはマリカから放たれた、ドミゴを兄のように扱う台詞だ。


「なんだよ、まるで兄妹みたいだな」


 冗談きついぜ、と。

 そんな風に笑って言うと、ドミゴとマリカは対照的に真顔になる。


「いや、オレとマリカは兄妹だぞ」


「はあ⁉」


 うっそだろおい!


 驚かないわけがない。

 ヒグマのような大男のドミゴと、不思議の国のアリスのようなマリカが兄妹だったなんて。

 それに……


「歳が離れすぎだろ⁉」


「確かに離れてはいるな。ええと……8つか」


「8つ⁉」


 むしろそれしか差が無いのか⁉


「ワタシが12で」


「オレがハタチだ」


「ハタチ⁉」


 見た目だけならどう見てもその倍、40歳だ。

 1度会った人の良さそうな武具屋の店主、あの人と兄弟かと思っていた。


 ところがどうだ。まさかマリカと兄妹だったなんて……。

 

 百歩譲って血が繋がっているとしても、ふたりを端から見ると父と娘のなりである。

 

「ははあ、じゃあマリカはあれか。兄貴が冒険者だからこんなところで給仕の手伝いをしてるんだな」


 そうでなければ、ギルドの食堂で給仕の手伝いをしようなんて思わないだろう。

 もっと綺麗で品のある店で働いていたはずだ。


「きっかけはそうですね」


 マリカはひとつ頷いたが、けれど「でも」と向き直り、


「今では冒険者の皆さんのサポートをするのが楽しくてやっています! 皆さんの力になれるのが、この上なく幸せなんです!」


「えっ……」


 サポートをするのが楽しい、と 

 この上なく幸せだ、と。


 嘘偽りを感じさせない真っ直ぐな言葉と、自信を帯びた満面の笑みは、俺にまた疑問を抱かせる。

 

「そうなのか……」


 理解したていを装いつつ、内心では『どうしてもっと自己主張しないのだろう?』なんて考える。

 

 答えは到底生まれるはずもなく、当人たるマリカはおもむろに、コーラが入っていた一升瓶を持ち上げ、


「あっ、コーラ切らしちゃいましたね。こっちも……あっちも……」


 コーラがすべて空になったことを確認すると、俺に笑顔を向けた。


「今から買ってきますね!」


「そこまでしなくても。俺も皆も、別のを飲むぜ」


「いいんですよ! 近くにお店ありますし!」


 そう告げると、マリカは意気揚々と食堂の扉を開けて出て行った。

 嫌な顔ひとつしないどころか、自ら進んで、嬉々とした表情で。

 この兄にしてこの妹あり、と言うべきか。

 

 彼ら兄妹の考えは、頭脳明晰な俺でも理解不能だ。




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