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0025 誇るべき役割(1)

 コーラの酌み交わしが一段落付くと、俺は冒険者達から質問攻めにされた。

 問われた内容はもちろん前世のこと。なのだが……。


 こいつら、見事に女の話しかしねえ。


「スカートはどのくらい短いの?」

 そんなの時と場合によるだろ。


「暑い日はおっぱい丸出しにしてるの?」

 するわけねえだろ。


「向こうの女にモテるにはどうすればいい?」

 こんな会話をしないことだな。


「エロい格好のねーちゃんが接客してくれる店は向こうにもあるのか?」

 むしろこっちにもあるのか⁉


 こんな感じで前世の女についての質問が多分を占めて……いや、全てだった。

 教室でグラビアアイドルに夢中になっていた圭一みたいな奴らだ。


 一応、話の流れで、「俺は日頃から同年代の女の子達がたくさんいる場所へ通っていた。ちなみに全員スカートだ」と答えてやると、冒険者達は「なんだその楽園は⁉」と驚き、大層羨ましがった。ただの学校だぞ。

 

「ようようダイチ!」


 下品な質問大会も一段落つき、皆が酒をあおり、料理ををむさぼり始めた頃。

 またもや俺の側にやって来たのはチンピラ冒険者で、やつは陽気な声と共に俺の肩を組んだ。


「お前、戦闘服や鎧はどうするつもりだ?」


「うーん、まだ未定だな」


 俺は現在一文無しだ。

 これではなにも買えない。

 

 そもそもこの宴会を開いてくれなければ今日の飯にも困るところだった。


 まあ、金稼ぎの具体案を持っていないだけで、この俺なら金なんていくらでも稼げると思うが。

 

 そんな心配知らずの俺を他所に、チンピラ冒険者は、助言してやるぜと言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた。


「それならドミゴに作ってもらえよ」


「え? ドミゴに?」


 首をかしげ、次いで側にいたドミゴに視線を向ける。

 

 話は耳に入っていたようで、ニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべ、「オレでよければ腕によりをかけるぞ」と。


「こいつ、武具屋のせがれでさあ。こんな見た目だけど、手先が器用なんだぜ」


「こんな見た目は余計だ」


 ドミゴはチンピラ冒険者の頭を小突いたが、実際、意外である。

 

 まさかこのヒグマのような大男の手先が器用とは、見かけでは想像付かない。


「実績も充分だぜ。なんたって、ここの冒険者の鎧や戦闘服はほとんどがドミゴお手製の品だからな。もちろん、オレもそのひとりだ!」


 チンピラ冒険者は誇らしげにそう言って、自身が身に纏う銀色の鎧に親指を向けた。


「丁寧なのはもちろん、作業スピードがものすごく速いんだぜ! 一日もいらないよな!」


「ああ、明日には完成させてやれる。なにかこだわりはあるか?」


「いや、特にないけど……」


「だったら材質も含めて、デザインをドミゴに任せておけよ!」


「うーむ、ダイチはイケメンだし、布製の戦闘服でスタイリッシュにキメるか……」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 当人を差し置いて着々と進む戦闘服制作計画に、俺は待ったをかけた。

 

 好意をむげにしたいわけではない。

 

 ありがたい申し出だし、金属製の鎧ではなく布製の戦闘服であることは俺の好みと一致している。

 

 だが……。


「俺、いま一文無しだぞ」


 なんとも情けないことだが、事実を包み隠さず告げた。

 するとドミゴは一瞬キョトンとしたかと思えば、


「はっはっはっ、そんなの気にするな。出世払いでかまわん」


 と、俺の懸念を笑い飛ばした。


「ここにいる冒険者のほとんどがツケなんだぜ。もちろん、オレもそのひとりだ!」


 それは誇らしげにすることではないと思うのだが、チンピラ冒険者はまたも銀色の鎧に親指を向ける。


「早く返せ」とチンピラ冒険者の頭を小突いたドミゴ。


「どうしてそこまでして?」と俺は問うた。


「あいつらの、サポートをしてやりたいんだよ」


 サポート、と。

 出てきた言葉は魔法使いの役割と同様のものだった。


「見ろよ。馬鹿な奴ばっかりだろ」


 ドミゴが顎をしゃくった方に視線を向けると、冒険者達は品のないコールで騒ぎながら飲み比べで競い合っていた。

 ちっとも勉強せず遊びほうけている大学生みたいだ。


「けれど、オレはあいつらといる時間が好きで、あいつらが好きだ。だから手助けしてやりたくてな」


 ドミゴはそう話し、少しはにかんで満足げな表情を浮かべた。

 

 一方の俺は、再度挙がった『サポート』という言葉がどうしても腑に落ちない。

 

 親しいやつらの力になってやりたい、この気持ちは理解できなくもないが……。

 

 それでどうして、自身を誇るかのような満足げな顔になれるのか。

 日の目を見ることができない立場で、どうしてそんな顔ができるのか。


 ドミゴは言う。


「武具屋の場所、わかるか? リスタには1つしかないが」


「ああ、それなら1度行った」


「よし、明日取りに来るといい。最高の戦闘服を作ってやるぜ」


 ドミゴの表情は、俺に遠慮といった感情を一切抱かせない。

 代わりに抱いた感情は、感謝と、喜びと、そして……疑問。


 ありがたいし、嬉しい。

 でも――

 

 サポートで満足できるその気持ちは、よくわかんねえ。



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