0002 プリンス、授業で無双
朝のHRも終わり、1時間目は数学の授業だ。
え? どうせ真面目に受けてないんだろって?
ふっ、そんなわけないだろ。
たしかに授業を受けなくてもトップの成績に揺るぎはないだろう。
だが、学生の本分が勉学にあることに変わりはない。
好成績が授業をサボっていい理由になど、なりはしないのだ。
だから俺は真摯な態度で授業に取り組み――
「zzzzzz……」
「陽川」
「zzzzzz……」
「おい、陽川!」
「zzzzzz……」
「こらあ! 起きろ陽川!」
「zzzzzz……んあ?」
なかなか取り組めないんだよなあ。これが。
「なんすか?」
「なんすかじゃない! 1時間目から居眠りとは何事だ!」
寝ぼけ眼で見た前方には、薄くなった頭に湯気を昇らせて怒る数学教師が。
ストーブの上に置いたやかんみたいだ。
どこからそのエネルギーが湧いてくるのかね?
「昨日の試合で疲れているのはわかるがなあ、もっと真面目に」
「いや、試合というよりボーリングっすね」
「ボーリング?」
首をかしげた教師へ、昨日を振り返りながら告げた。
試合と祝勝会を終えて帰宅した直後のことだ。
「夜9時くらいですかね、友達から『ボールングやらないか』って連絡がきたんすよ。もちろんOKして、流れで俺がストライクを外すまで続けることにしたら、結局失敗しないまま朝を迎えちゃって。だからほとんど寝てないんすよ」
「はははっ」と笑うと、やかん頭が沸騰した。
「高校生がオールナイトでボーリングするなあぁぁぁ!!!」
「いや、大学生の友達っすよ」
「お前は高校生だろうぉぉぉ!!!」
おおう、気迫を感じるツッコミだ。
力の限り叫んだせいか、教師は「はあはあ……」と息切れ。
そんなになるなら怒鳴るなよ。
「夜通し遊んで授業中に居眠りなんて、優秀な秀明高校の生徒が情けないぞ!」
優秀、とは教師のひいき目ではない。
トップクラスの偏差値を誇り、難関大学に何人もの生徒を送り込んだ実績のある超進学校が、ここ秀明高校だ。
ここに入学することを夢見て日夜勉強に励む中学生もたくさんいると聞く。
家が近いから選んだだけの俺とは大違いだ。
「すんません。どうも眠かったもんですから」
大して反省はしてないが一応謝罪の言葉を口にする。
すると教師のギロリとした目がこちらを見た。
「ようし、それなら……」
教師は黒板に向かい、チョークを走らせる。
書かれた白色の文字は可愛げが無く堅苦しい。数学の証明問題だ。
「ほら、特別に眠気覚ましをプレゼントしてやる。受け取れ」
「それはそれは、親切が身にしみますね」
受けて立った俺はゆっくりと黒板に向かう。
カッ、と黒板にチョークが触れた音が鳴る。
そして――
ひとたび解答を始めたその手は、『Q.E.D』の文字を書き終えるまで止まることはなかった。
「はい、これでいいっすか?」
「おお……」
教師は『はい』とも『いいえ』とも言わず、まず感嘆の念を漏らした。
まるで黒板の文字列に圧倒されているようだ。
「美しい……正攻法とは異なる解法でこんなものがあったとは……」
どうやらオーソドックスな解法ではないらしい。
勉強などほとんどせず、フィーリングで問題を解く俺は正攻法を知らない。
だから数学の証明問題に関してはこういったことが稀にあった。
「さすがだな陽川。我が校の誇りだ」
そっちこそ、美しいほどの掌返しだ。お見事。
「もういいっすよね?」
「ああ、好きなだけ寝てていいぞ」
いいのかよ。
もう(席に戻って)いいっすよね、と言ったつもりだったんだが。
「先生はこの解法を思う存分眺めておくから」
いや授業しろよ。
心の中でツッコミつつ、「はあ」と相づちを打ち、教壇を下りる。
自席に戻る際に浴びるクラスメイトからの羨望の眼差しは、いつものことであった。
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