0016 フィールドのプリンス、異世界無双?(1)
魔法石泥棒に狙いを定めた。
遠ざかってゆくその後ろ姿は、ときたま善良な一般市民に重なり、視界から消える。
コントロールミスが許されないことはもちろん、タイミングも見計らう必要がある難しい場面だ。……普通の人なら、な。
俺は特別だ。
「膝かっくん、やるぞ」
「え?」
ふと、小学生がよくやる悪戯を口にした。
それを聞いた萌生は首をかしげたことだろう。
余裕綽々で泥棒を見据え続けること数秒経ったとき、逃走する後ろ姿まで、障害物のない一直線の道が完成した。善良な一般市民に当たる危険もない、絶好のチャンスだ。
「さて、決めてやるぜ」
今しかないこの瞬間、俺は赤色の魔法石を手放し、右脚を振り抜いた。
――ズドーン!!!――
まるで、赤い閃光のようだ。
唸りを上げる魔法石は火花を散らすかの如き残像を残して泥棒に迫りゆき……
ついにはその膝裏にぶち当たった。
「ギャー!!!」
泥棒は叫び声を上げ、衝撃に耐えきれず転ぶ。
さぞや驚いたことだろう。
急に後ろから狙撃されたのだから、何が起こったのか今でも理解不能だと思う。
何はともあれ膝かっくんの完成。狙い通りだ。
「はい、ゴールっと」
呟き、横を見ると、目を丸くした萌生が震えながら呆然と立っていた。
「あ、あれ……」と震える指先を泥棒に向けて、口を開く。
「あれ、狙ってやったでヤンスか⁉」
「当たり前だ。この程度はお茶の子さいさいだぜ」
「100メートルは離れているでヤンスよ!」
「大した距離じゃねえだろ」
慌てふためく萌生を他所に、俺は平然としていた。
そう平然と。
だがしかし……
そんな態度は表面上のみ。
実は平然としていられる状況ではなかったのだ。
というのも――
めっちゃ足が痛い!!!!!!!!!!!!!!!
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
ものすごく痛い!!!
それこそラフプレーを受けたサッカー選手のように、地面をのたうち回って苦悶の表情を浮かべそうになるほどだ。
まあ、あれは痛がるふりも多いんだけどね。
ファールを貰うために審判にアピールしてるんだよ。
そんな小ネタはさておき、靴を履いてるといえどあんな固い物を蹴るとそうなる。
少し考えればわかるはずなのにバカなのか俺は。
こんなことするから『バカっぽい』って言われるんだよ。
と、後悔に渦巻いていると、
「さっきの見たか、急に炎の魔法石が飛んできてこいつに当たったぞ」
「どこから飛んできたんだ?」
「さあ?」
転んだ泥棒を取り押さえた一般市民の声が聞えてきた。
ふむ、どうやら皆、魔法石の出所がわかっていないみたいだ。
泥棒に目が向いていたのだろう。
ここで俺が名乗りを上げれば英雄扱い確定だが……
ふっ、そんなことしねーよ。
俺が蹴ったんですよー、なんて小物じみたこと誰が言うか。
せいぜい驚いているといい。
「それにしてもすさまじい威力だったな」
そうでしょうそうでしょう。
現場から飛んできたその声を耳にし、腕を組んで数回うなずく。
このとき俺は、多少なりとも気をよくしていた。
しかし後に……衝撃の事実が告げられる。
「炎の魔法石が粉々になるほどだぞ」
……はい?
続けざまに発された言葉に、身体が硬直した。
俺が蹴った魔法石が粉々、らしい。
いやいやちょっと待て。
魔法石泥棒を捕まえるのに魔法石を破損させたなんて、本末転倒もいいところだ。
タラーッと、冷や汗が垂れたのもつかの間、
「朝から煮込んだスープに破片が入ったじゃないか!」
まじか。
「そんなのまだマシだ! うちなんか売り物の絵画に当たって傷がついたぞ!」
まじか。
「もう少しで子供の目に刺さるところだったわ!」
まじか……ってえええ! 本当にごめんなさい!
次々と二次災害の報告が。
こうなると、俺が蹴ったんですよー、なんて気まずくて言えない。
冷や汗はもう滝の如くだ。
「す、すごすぎるでヤンス……」
「ははは……」
二次災害などお構いなしに驚愕し続ける萌生の隣で、ヒーローになり損ねた俺は苦笑いするしかなかった。
なんでこうなるの……。
体調絶不調のため投稿間隔がまばらになっちゃってました。
今ではだいぶよくなりましたので毎日投稿目指してまた頑張ります。




