0015 プリンスと呼ばれた所以
☆おしらせ☆
タイトル変えました。
「また来るっす」と店主に告げ、一旦武具屋を退店した。
次に向かう先は萌生のみぞ知ることだ。
話によると、この世界には『魔法』なんてファンタジー要素の塊みたいなものが存在するらしい。
どのようなものか期待を抱きつつ、萌生の後を追うこと数十メートル。
建屋を持たない小さな出店の前で足が止まった。
「綺麗な石だな」
そう呟いたのは俺だ。
視線の先には赤・黄・青・緑の握りこぶし大の石が色分けされ、丁寧に並べられていた。
水晶玉のようにまんまるで、透き通るようにそれぞれの色が映えており、日の光に照らされて宝石のように輝く。その美しさは思わず『綺麗』と声に出てしまうほどだ。
「あらまあ、若くて男前の子が二人も。ゆっくり見ていってね~」
店番をしていたおばあちゃんは優しい口調で歓迎してくれた。
「あざっす!」
「元気いいわね~。私があと20年若ければ恋に落ちてたわ~」
「に、20年っすか……」
仮にそれだけ若返ったとしても年齢差はトリプルスコアになるだろう。
だが、今はそんなことはさておき、
「この石、魔法と関係あるのか?」
萌生に問う。
「大ありでヤンス。これらの石は『魔法石』と言って、魔法使いにとって必須アイテムでヤンス。ほら、後ろにある……」
萌生が指差す出店の奥、そこには木でできた棒が立てかけられていた。
「あれは杖でヤンス。自分の身体に合った長さの杖を選んで、杖の先端に魔法石をはめ込んで固定するでヤンス。そうすれば魔法の杖の完成。魔法石の先から魔法が飛び出すでヤンスよ」
「おお! めちゃくちゃかっこいいじゃないか! 俺、剣よりそっちの方がいいかも!」
剣は前世にもあった。
けれど魔法は前世にない。
味わったことのない刺激を求めて、俺は飛びつこうとした、が……。
「うーん……ちょっとこっちへくるでヤンス」
渋い顔の萌生はブレザーの袖を引っ張って、出店から遠ざかるように俺を連れ出した。
出店から十歩は離れたであろう距離にて「店の人の前では言いにくいことでヤンスからね」と耳打ちで前置きし、衝撃の事実を告げる。
「魔法、あまり強くないでヤンスよ」
「ええ⁉ そうなのか⁉」
にわかには信じられない。
だって魔法って……なんかすごそうだから! 根拠はない!
「うん。赤い魔法石からは炎魔法、黄色い魔法石からは雷魔法、青い魔法石からは氷魔法が発動するでヤンスが……」
「いやいや、めっちゃ強そうじゃないか」
炎、雷、氷が自在に出せるんだろ。
そんなのもし前世で扱えたら誰だってヒーローに……いや、その前に警察が飛んできて事情聴取が待ってるか。そう考えると前世は世知辛い。
「どれも威力がイマイチでヤンス」
「ええぇ……まじかよ」
落胆した俺に、萌生は「うん」と頷いた。
「まじでヤンス。個人差はあるけど、強い魔物相手なら足止めにしかならない威力でヤンスよ。だから魔法使いの役割は、剣など近接武器を持つ冒険者のサポートでヤンスね」
「じゃあ緑は? 緑の魔法石はどうなんだよ」
俺は店先に並べられた現物を眺めながら、尋ねる。
「緑は一風変わっていて、回復魔法が発動できるでヤンス。攻撃はできないけど、怪我を治すことができる唯一無二の存在で、替えが効かないから需要はとても高いでヤンスよ」
「へえ、じゃあみんな回復使いになりたがるんじゃないか?」
「もちろん。でもそう上手くはいかないでヤンス。なにせ属性を自分で選ぶことはできないでヤンスから」
「選べない? どういうことだ?」
首をかしげると、萌生は魔法が持つ欠点と呼ぶべき特徴について語ってくれた。
「使用できる属性は誰であっても1人1種類、しかも生まれつきでその属性が決まっているでヤンス。どれだけ回復使いになりたくても、1/4を外してしまえばその夢も泡と消え、他の属性を受け入れて生きていくしかないでヤンス」
低火力と、属性のランダム要素。
魔法には魅力をかき消す不便な点が多々あるようだ。
「どう? それでも魔法使いになるでヤンスか?」
最後にそう尋ねた萌生に向けて、
「それならやめとく」
俺は即答した。
ランダム要素はさておくとして、着目すべきはその役割だ。
炎、雷、氷、そして一番需要が高い回復こそ、サポートという他力本願に収まっている。
つまり手強い魔物を相手にするとき、攻撃を誰かに任せないといけない。
そうしないと勝ちきれないから。
はっ、と鼻で笑いそうになった。
そんな他人必須の魔法、ほかにどんな利点があっても自分が使う気はしないね。
だってそうだろ?
俺がいるべき場所はどんな世においても中心であり、主人公のように1番目立つ位置だ。
サポートに収まるような器じゃないんだよ、俺は。
「俺も剣で戦いたい。この世界で一番の剣豪になる」
「おお! 並々ならぬ自信でヤンスね!」
そりゃそうだ。だって前世でも常に一番だったもの。
実力を知らない者なんていないほど名を轟かせて……おっと。
そういやこいつ、俺のこと知らなかったよなあ……。
その『こいつ』である萌生は頷きながら口を開いた。
「いい線いくと思うでヤンスよ。なにせ陽川君も転生者でヤンスから」
「……お、おおう」
またしてもだ。
まるで転生者であることそのものが重要であるかのような、気になる言い回し。
「なあ、」
真意を尋ねようとしたそのときだった。
「ど、泥棒ーーー!!!」
悲痛な叫びが、俺の疑問と平穏な空気を消し去った。
目を向ける。
声を発したのは魔法石屋で店番をしていたおばあちゃんだ。
地に膝をつき、手を伸ばしたその先には、緑の魔法石を鷲づかみにして逃走する男の背中があった。
「おいおい、善良じゃない一般市民もいたもんだな」
「どの世界にもこういう輩はいるでヤンスね」
萌生は嘆息した。
俺は歩を進める。
見過ごすわけにはいかないと、出店に並ぶ赤色の魔法石をひとつ、手に取った。
「おばあちゃん、これ、借りるぜ」
狼狽したおばあちゃんは「えっ⁉ い、いいけど」と言葉を返した。
きっとわけもわからぬまま、混乱の最中の返答だった思う。
「なにをするつもりでヤンスか?」
「まあ見てろって」
魔法石を足元へ落とし、軽く蹴り上げてまた手に戻した。
ニヤリと萌生を一瞥する。
お前、俺のこと知らないんだろ?
だったらこの機会に見せてやるよ。
「俺がフィールドのプリンスと呼ばれた所以をな」
☆魔法についてのまとめ☆
・魔法石を杖の先端にはめ込んで発動させる。
・魔法石は4種類
赤→炎魔法
黄→雷魔法
青→氷魔法
緑→回復魔法
・使用できる属性は1人1種類、しかも生まれつき決まっている。
・威力はイマイチ




