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0014 冒険者になろう

 武具屋。

 観音式扉が開けっぱなしにされた平屋の店だ。

 

 入店すると、剣や槍、弓矢などの武器の他に、萌生が身に付けているような物々しい金属の鎧が目に入る。

 

 店の奥のカウンターでは店主らしき初老の男性が「ゆっくり見ていってね」と温和な表情で告げた。


「あざっす」と挨拶して品々に視線を戻す。


「この剣、『50G』って書いた札が付いてるな。なんだこれ?」


「値札でヤンスよ」


「値札? この世界に金があるのか?」


「うん。貨幣制度が導入される程度にはこの世界も発展しているでヤンス。銅貨1G、銀貨10G、金貨100G、白金貨1000G。それぞれ1枚に付いた価値でヤンス」


「へえ……うわ! これめっちゃ高いぞ!」


 上下の衣服がセットになったそれは、700Gと破格のお値段だ。

 いかめしい金属の鎧が300G~500Gなのに、ヒラヒラなびく布製のそれにどうして高値が付けられているのだろう。


「布製の戦闘服でヤンスね」


「俺は惑星ベ〇ータに転生してしまったのか……」


「ドラゴ〇ボールは関係ないでヤンス」


 嘆息を挟んだ萌生は言葉を続ける。


「身体を守ってくれる装いは大きく分けて二つ、金属製と布製があって、前者は鎧、後者は戦闘服と呼ばれるでヤンス」


「布製で身体が守れるのか?」


「マモール材という稀少素材で特殊加工が施されているから、耐久力は折り紙付きでヤンスよ。布だから軽いし、値が張って当然でヤンスね」


「それはマモール材を多めに使っているんだ。だからぼったくっているわけじゃないよ」と、店の奥から店主の笑い混じりの声が飛んできた。


大声で『これめっちゃ高いぞ!』はさすがにマナーが悪い。


「たはは、すんません」と俺は頭を掻いた。


「ところで、いの一番に武具屋を紹介してくれた理由はなんだ?」


「それは僕たちにとって関わりが深いからでヤンスよ」


「そうなのか?」


 話の意図が掴めずにいると、


「そもそもこの武具、なんのために使うか想像つくでヤンスか?」


 萌生が問うてきた。

 俺は「うーん……」と少し悩んで。


「戦争、とか?」


「初手でその回答とはなかなかサディスティックでヤンスね……」


 こらこら、ドン引きしないでくれ。

 特に思いつかないから消去法でそう答えただけだ。

 

 萌生は俺の回答にまたも嘆息した。いい加減飽きない? それ?


「さっき、魔物を見たでヤンスよね」


「ああ、見た」


 たしかゴブリン、と言ったか。

 前世では決してお目にかかれないだろう不思議な見た目の生物だ。


「これらの武具は、魔物と戦うために存在するでヤンス」


 売り物の剣に手を触れながら、萌生は言葉を続ける。


「この世にはありとあらゆる魔物がいて、そいつらを倒すとお金が得られるでヤンス」


 ほう。


「だからそれを生業とする人も多く存在するでヤンス」


 なるほどな。


「そして……その人達のことを『冒険者』と呼び、立派な職業としてこの世界では浸透しているでヤンス」


「てことは萌生、お前も……」


 俺は萌生が身に付けているいかめしい金属の鎧と、腰に差した剣を今一度視認した。


「お前も冒険者なのか? 魔物と戦って金を稼いでいるのか?」


「いかにも。陽川君もこれから冒険者になるでヤンスよね?」


 まるで挑戦を促すようなその問いに、思わずツバをゴクリと飲み込んだ。

 

 サッカー選手、学者、芸能人。

 前世の俺はなろうと思えばなんにでもなれた。


 でも、ここに来て開けた新しい道、『冒険者』という職業は、そのどれにもない未知なる可能性を予感させられる。

 

味わったことのない刺激に身体が震え、舌なめずりしそうになった。


「ものすごく強い魔物もいるのか?」


「うん。万物の頂点とされ、人の束を蹴散らし、街を滅ぼし、気候そのものを変えてしまうような魔物がいるでヤンス」


「はははっ、そりゃおもしれえ」


 前世の俺は、何事においても常にトップだった。

 だから魔物だろうがなんだろうが、俺の上に生物が存在するのは気にくわねえ。

 必ずぶっ倒してやる。絶対にできる。

 頂点に君臨するのは、俺ひとりだけで充分だ。


「冒険者、なってやる。そして俺がその魔物を倒す」


「おお! 頼もしいでヤンスね! 転生者だからいい線いくと思うでヤンスよ!」


「……ん?」


 転生者だから。

 この部分に少々の違和感を覚えた。

 まるで実力や経験が関係なく、転生者であることそのものが重要であるかのような言い回しだ。


「それにしても、職業や貨幣制度なんて、意外と常識的で整った世界だと思わないでヤンスか?」


「え、ああ、たしかにそうだな。……ところで、魔物を倒してどうやってお金を得るんだ? 亡骸をどこかに持って行くのか?」


 想像してみて、ちょっと嫌だなあ、と。

 大きな魔物なら運ぶのも一苦労しそうだし。

 グロテスクな話だが、バラバラになったらどうしよう。


「いやいや、極めて直接的でヤンス」


「と言うと?」


「死んだ魔物がお金を落とすでヤンスよ。シャキンと切ったらポンッと消えて、そしたらジャラジャラとお金が出てくるでヤンス」


「ええぇ……ゲームの世界じゃん……」


「それくらいで驚いてちゃダメでヤンスよ」


 萌生は人差し指を左右に振りながら。


「次は魔法について説明するでヤンス」


「魔法⁉」


 一気に顔を出したファンタジー要素に驚かされた。

 前世で常識外扱いされた俺が言うのも何だが、この世界もまったく常識的じゃない。


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