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彼女には声がなかった。
静々と周りを見る
彼女には目がなかった。
隅々に耳を傾ける
彼女には耳がなかった。
喧々と助けを拒む
私は「余白」を見つけた。だただ隙間がある、何かを入れる場所があるという隙間の存在に。それは初めて会ったものでは無いということも思い出した。小学生ぐらいの時だっただろう。当時見つけた時は恐怖に包まれた。何もなかったのだ。そこには何かがいた、誰かの場所だったはず。しかしソレはただ何もない、誰もいない事を主張していた。気がおかしくなりそうだった。私は逃げ出すようにその場から去った。ソレほどの恐怖感を持った事があったのにも関わらず、今の私は何の感情をも抱かなかった。理由はわからない。小学生特有の価値観があったのだろうと適当に考え、途中まで進めていたテスト勉強に意識を戻した。高校生になってからの初のテストだ。そんな些細なことに気にしている余裕はない。点数を取る。その為だけに勉強をしている。
勉強が終わり時間も2時を過ぎていた。明日は休みだからと言っても遅くまで勉強をし過ぎていた。寝る準備を整え布団に入った。目を瞑ると余白がいた。ただこちらを見つめている。絶対に私を見逃さない、忘れない、そんな目でこちらを見つめている。布団から思わず飛び出した。あの恐怖が蘇ってきた。奴は私を見ている。余白の存在を私に刻み込もうとする。現在時刻など気にする間も無く外に出飛び出した。街灯がスポットライトの如く照らす道路の真ん中を駆け出した。責められている気がした、罵られている気がしたのだ。それには理不尽さを感じず確実に自分が悪だとすら感じた。どうしてしまったんだろか。気でも狂いそうだ。いや、もう既に狂ってしまったのかもしれない。
どれほどの時間を走ったかはもう既に分からない、気を抜けば今にも倒れそうな程走った。辺りを見渡すと余白は居なくなっていた。しかし刻み込まれた。魂が存在するのなら、それはもう消える事なくしっかりと後が付いているだろう。もう忘れない。初めに見つけた時、忘れられていたのは幸運だったのだと思う。むしろ何故あの時感情を、恐怖を抱かなかったのか不思議なくらいだった。