物語1−3
王子様はまず、塔の上にいるお姫様ともっと仲良くなるために、可愛い妹を連れて魔女の森へ向かいました。
お姫様を助けようと思った王子様ですが、彼女が本当にお城から助け出してほしいのかわからなかったからです。
梯子に登って、王子様の妹はお姫様とお話します。二人はすぐに仲良くなって、たくさんお話します。
王子様はそれを下から見上げて、微笑むのでした。
きゃ、脚色しすぎだなんて、そんなことありませんわ!
わあ! だから、見ないでくださいませ!!
* * *
「いや、必要なのは、梯子と髪の毛のケア用品だ」
これは、わたくしが何かお花などのプレゼントは必要ないのですか? と聞いた時のお兄様の返事です。
返事を聞いて、わたくしは思わず「ハァ?」と素っ頓狂な声をあげてしまいました。
どう考えても、梯子と髪の毛のケア用品なんて、女性に差し上げるものではありません。いえ、ケア用品はまだわかりますが梯子なんていったい何に使うのでしょう?
片手に梯子を抱えるお兄様に手をひかれ、わたくしは魔女の森へと入ります。
森は、出入り禁止となっているわけでは無く、出来れば入らないようにしてねという注意書きのみが前に存在します。なのでお兄様は「絶対入っちゃいけないんじゃないから良いよね」と笑いながら言って、躊躇なく入って行きました。
わたくしは魔女の森には初めて入ります。
とてもオドロオドロしい、不気味な森かと思っていましたが、なんてことは無いただの森でした。
お兄様は慣れた足取りで森の中を横断していきます。荷物になっている梯子と髪の毛のケア用品を入れたバッグはお兄様がご自分で抱えられているので、わたくしはただ手をひかれているだけです。
何も言わず、相変わらずニコニコしながらお兄様は歩いていきます。だけれど、途中でわたくしのほうを振り返って聞きました。
「リティ。リティは、高いところは平気かい?」
「高いところ、ですか?」
「うん。高いところ」
「はい。たぶん、大丈夫です」
お兄様が手すりから落下したのを見た時は、高いところがトラウマになりかけましたが、わたくし自身が落下したわけでは無いので、それほど深い心の傷にはなりませんでした。良かったです。
「そうか。なら、安心だな」
「安心……ですか」
「ああ。安心だ! あと、髪の毛のケア用品の使い方はわかるかい?」
「それも、たぶん大丈夫ですけど……」
「そうか。リティはなかなか心強いな」
心強い。この言葉が、わたくしの中にジンワリと広がっていきました。(よくわかりませんが)お兄様に褒められることは、わたくしの中で、とても名誉なことなのです。
……ところで、高いところと髪の毛のケア用品の使い方になんの関係があるのでしょう?
「お兄様」
「さ、着いたよ」
問おうとしたところでそう言われ、顔をあげると、そこにはお屋敷がありました。