物語1−2
美しいお姫様は、ある日王子様に出会いました。二人は互いに見つめあい一目ぼれをしたのです。
王子様は、そのお姫様を魔女の森の屋敷の中から助け出そうとしました。
だけれど入口にはたくさんの恐ろしい姿をしたモンスターが、見張りをしているのです。
お姫様は魔女の屋敷の一番奥の塔の一番上に閉じ込められています。
だから、王子様は考えました。
いったいどうしたら、お姫様を助けられるのか……。
もう! お兄様。わたくしの日記を勝手に見ないでくださいませ!!
この間のことを書き綴っているだけなのです。けして脚色などしていません!
ああ、なにするんですかお姉様!
* * *
「リティ。魔女の森に行かないか」
「ほぇ?」
お兄様の突拍子も無い発言に、わたくしはついおかしな声をあげてしまいました。
それにしてもお兄様、笑顔で何を言ってらっしゃるのでしょう? 口下手でちょっと引っ込み思案なわたくしには理解が出来ません。
「お兄様。魔女の森へ行くとは……どういう……」
「んー? そのままの意味だけど」
あはっと楽しそうに一般的に「能天気」と表現されるその表情を見て、わたくしはまたお兄様の悪い病気が発症したことを確信したのです。
あれは、わたくしが十歳に満たないころ。少女であったときの話です。
お兄様は今より幼い顔を、大人になっても変わらない「能天気」な表情に変えて、
「あは。リティリティ、城の中にあるさーあのベランダの手すり歩かない?」
と問うてきたのです。
わたくしの世界は、このころ8割がお兄様を占めていましたので、よくわからないままに「おにいちゃま、なにをしますのー?」と言って、そのままお兄様に付いていってましました。
これが良くなかったのです。
「まあ見ててよー」と言いながらお兄様。見事にベランダの手すりを歩いたのです!
白く細い手すりの上を器用に歩くお兄様のことを、すごいとも思う反面、落ちてしまいわ無いかととても心配でした。
ベランダの下は少しお手入れの行き届いていない草むらでしたが落下したら怪我すること請け合いだからです。
しばしハラハラしながら、サーカスでも見ているかのように「おにいちゃま、おにいちゃまっ!」とつぶやき、お兄様の奇行を、幼い私は見守りました。
そして、案の定と申しますか、お兄様は……。
「あははははー」
…………手すりから落ちました。
わたくしは若干パニックに陥り、先ほどまでお兄様が歩いていた手すりを掴んで、下を見下ろし「おにいちゃまーーーー!!」と叫んだのを、今でも鮮明に覚えています。草むらの上で微動だにしないお兄様を見たわたくしの幼い心にトラウマ必至です。
本当に動かないので、わたくしは慌てて二人のお姉様(エトお姉様とルルお姉様)とレシアお兄様よりも三つ年上のマティお兄様を呼びに走りました。
わたくしが、お兄様が手すりを歩いていて落ちた! と説明しますと、三人とも大爆笑。
何がおもしろいのか、パニック状態に陥っている9歳のわたくしにはわかりません。
マティお兄様が「面白そうだから、レシア見に行こうぜ!」と言って、わたくしの手を引き、ルルお姉様を連れて、庭へ向かいます。エトお姉様は、ちょっと笑いながら、お医者様に連絡されていました。
こうして、レシアお兄様は無事救出されたのです。
しかも驚くことに、お兄様……無傷でしたの。もうこれは、超人と呼ぶしかありませんわ。
ということを思い出すと、わたくしはなんだか溜息をこぼしたくなってきました。
「ハァ……」
「ん? 溜息なんてついてどうしたんだい? リティ」
「どうしたもこうしたもございませんわお兄様……。どうして突然魔女の森へ行きたいなんておっしゃるのです?」
「運命の人に、出会ったからさ!!」
「……運命の、人?」
しばし、お兄様の言っていることが理解できず、わたくしは首を傾げました。
「そう。そうなんだよリティ! 僕は運命の人に出会ったんだ!!」
嬉しそうにニコニコ笑いながら紡がれるお兄様言葉を聞いていると、だんだんその意味を理解してきました。
……運命の、人?
それは、もしかして。
「お兄様! 好きな方が出来たのですか!?」
「へへ。まあ、そういうことも言えるかなー」
「す、す、素敵ですわ! お兄様ぁーーーー!!!」
わたくしの頭の中で、お兄様が幼いころに読んでくれたおとぎ話がよみがえってきます。
お姫様を好きになって、そのお姫様にアプローチする王子様。
「で、そのお姫様はどこにいますの!?」
「やー。お姫様かは、わからないけどねー。うん、だから魔女の森」
ニコッと、お兄様が笑います。
と、いうことは魔女の森に閉じ込められているお姫様を助けに行くというのですね!
「わかりました。お兄様、行きましょう!!!!」