半人の百足
二人は入り口の陰から飛び出し、沈黙しているムカデ型のゴーレムの顔目掛けて突貫。
特にスミレは、その頭部らしき場所に生えている上半身が顔を上げるよりも早く首元に接近し、その刃を突き出した。クラウスも数歩の距離を遅れて顔目掛けて両手剣を突き出す。
……が、すんでのところでその攻撃は阻まれた。攻撃に対する反射行動というものか、人の形をした上半身の両腕が剣を防御していた。
スミレの攻撃で腕の表面にヒビが、クラウスの攻撃で半分割れ欠けるものの、本体に攻撃は届いていない。
そのまま半人ムカデのゴーレムは両腕を押し戻し、二人を己の体から振り払った。
スミレは空中で一瞬だけ黒い翼と尻尾を出現させて駆使し、宙返りしてからバランスよくふわりと着地。クラウスは強靭な足でそのまま衝撃を受けきるようにずしりと着地した。
「奇襲は失敗だな」
「ええ。まぁ、こうなった方が私としては楽しいのですが。でも、岩を斬る感触というのはそれほど面白いものではなさそうですわね」
下半身のとぐろをほどき、戦闘体勢を取る半人ムカデ型のゴーレム。上半身は身長180cmのクラウスよりやや大きい。ムカデの下半身はそれよりよほど長い。
後方から突然ズシンという重い音がした。クラウスが確認のために振り返ってみれば、先程二人が飛び込んだ入口が岩の扉で閉ざされていた。
「入り口が閉まった……!?」
「どうやらわたくし達、このゴーレムを倒さない限り生きて帰れないようですわね」
並みの冒険者なら泣いて逃げ帰りたいほどの大きさを持つボスモンスターなのに、無情に入り口は閉ざされた。どちらかが死ぬまで終わらないデスマッチの開始だ。
しっかりと下半身でバランスを保ち、人型上半身の頭をもたげるムカデ。勢いを付けるために一度だけぶんと上半身を後ろに反らして、振り上げた両腕ごと叩きつけるように上半身を二人目掛けて振り下ろした。
「くっ!」
「甘いですわ」
スミレはクラウスが舌を巻くような速度のステップでそれを回避する。クラウスはスミレより一瞬反応が遅れての回避だったが、それでも岩の腕と硬い地面の間でミンチになることはさけられた。
だがギリギリの回避というのは好都合だった。クラウスは回避直後に両手剣を振りかぶり、ゴーレムの首を両腕ごと叩き切ろうと試みる。
しかし、二人が回避したことを察知したゴーレムがすぐに左腕を振って攻撃してきたために失敗。両手剣をとっさに盾にして、その腕の直撃もクラウスは防御する。
それでも衝撃全てを受けきることはできず、クラウスはそこそこの距離を吹き飛ばされた。
満足気に吹き飛ばされたクラウスを見やるゴーレム。いや、見るだけではなかった。その二つある緑色の目に強い光が灯る。
魔法だ、やっと態勢を整えたクラウス目掛けて光線の魔法を放とうとしている。
「誰か忘れていませんか?」
突然の声に、何事かとゴーレムは正面へ向き直る。目前すぐに迫る切っ先。スミレが持つ妖刀、『奈落一輪』の鋭い攻撃がゴーレムの目を貫いた。
地面につけられたままの右腕を一瞬で駆け上り、スミレはゴーレムの頭に肉薄したのだ。
刀がすぐ引き抜かれると同時に、ため込まれていた魔力がバランスを崩して頭部の中で暴発。
大きくのけぞった瞬間を逃さず、クラウスが大きくジャンプして、その身を真っ二つにするように両手剣を振り下ろした。
「おおおおおおっ!!」
切り裂かれ、真っ二つになる上半身。普通の生物なら、頭部が砕けて上半身も真っ二つになったものが生きられるわけがない。
ずるりと両側に上半身が広がり、力なく地面へとその身を支える下半身の一部ごと崩れ落ちた。
「やったか?」
「ああぁ、目を貫きましたが、やはり岩を絶った感触でしたわ。無生物はやはりつまらないですわね」
刃先を見てしょんぼりするスミレ。敵が動かないことを確認し、屍の向こうにあるダンジョンコアを見る。
赤く光るコア、あれを壊せばこのダンジョンは機能を停止してやがて崩れ去る。中にあるもの全てがやがて塵へと化して消え去るだろう。
「コアの用心棒は終わりのようだな。このままダンジョンコアを破壊し、て……?」
頭部が砕けて上半身も真っ二つになったものが生きられるわけがない。『普通の生物』ならではあるが。
「グオオオオッ、オオオッ!!」
割れた頭部たちが雄たけびを上げる。ムカデ型ゴーレムの足元にある地面が泥と化し、その割れた傷口を埋めるように取り込まれていく。
息をのむ二人の前で復活したゴーレムの姿形は、右腕左腕、そして二つの胴体を繋ぐように現れたもう一つの腕を持った姿だった。
「コアを砕けていなかったのか」
「あらあら、これでは斬っても斬っても増えていくだけですわ。どうします?」
つまらない相手の上、斬っても斬っても姿を変えて再生してくる相手だ。スミレは明らかに不機嫌そうな表情を浮かべ、真ん中の腕による突きの攻撃を回避しながら相談を持ち掛ける。
上半身の中心以外にゴーレムの心臓部があるのか、あるいは下半身までまるごと吹き飛ばすような攻撃をしなければ殺せないのか。
スミレからすれば、首を刎ねても死なないというのは中々厄介だ。
振り下ろされた左腕による攻撃を剣で受け流し、クラウスはある事象に基づいた考えを出した。
「……先にダンジョンコアを壊そう! このゴーレムはダンジョンの一部を吸収して再生した。ゴーレムがダンジョンの機能の1つなら、活動を停止させられるかもしれない」
「なるほど。頭が回りますわね、あなた」
3本の腕による振り下ろしのラッシュ。空中を舞う花弁のようにスミレはヒラヒラとそれをかわしていく。が、さすがに3本腕による攻撃の量が多く、危うく攻撃が身や髪をかすめる。
クラウスはというと、スミレのような回避はできないようで、その腕力と両手剣によるパワーを活かして攻撃を受け流していた。
「俺が囮になる! その間にアンタはダンジョンコアの所へ回り込んでくれ」
「承知しましたわ。その間に死なないでくださいね」
攻撃の合間を縫って走り出し、振られる尻尾を素早く飛び越えてダンジョンコアに迫っていくスミレ。
ダンジョンコアを守るために振り返ろうとしたゴーレムだったが、隙を見せた内に右腕が跳躍したクラウスによって斬り飛ばされていた。
「さぁ、第2ラウンドといこうか」
着地したクラウスは一人でゴーレムに向かい合う。今一度ゴーレムは雄たけびを上げ、3本の腕を振りかぶってクラウス目掛けて振り下ろした。
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