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首狩り姫と英雄

 少々の頭痛と共にクラウスは目を覚ます。カーテンの隙間から光が入り込んでおり、もう朝だということを知らせている。


 身を起こすと同時に、彼は昨夜の出来事を思い出してばっと覚醒。自分の下半身に違和感が無いかどうか確かめるため、冷や汗を流しながら思いっきりシーツをめくる。


 何も無かった。きちんとズボンは履いたままであるし、誰かさんが潜り込んでいたという形跡もない。


 安心したような、しかし少し残念な気持ちもあるように頭を掻く。淫魔とお酒を飲んだのだから襲われたのではという心配は杞憂だったようだ。

 あの惚れ惚れするような妖美さを持つ淫魔に吸精されていたら、いったい今はどうなっていたのだろうとクラウスは身震いした。


「よかった……」


 とりあえずベッドから出て寝巻から亜麻(あま)色の服装に着替える。そして、朝食をとるために宿の1階へ降りていく。


 食堂にムラクモ=スミレはいた。(すみれ)色の着物は他の冒険者たちの姿と比べて非常に目立っている。ベーシックな茶色や亜麻(あま)色の服装の中で、文字通りスミレの花が咲いているように目立っている。


 昨夜と同じ服装ということは、何着か同じ着物を持っているのだろうかと軽く疑問を抱きながら、クラウスは彼女が座る座席へと向かった。


「おはよう、昨日は世話になった。向かいに座ってもいいか? 他に座れる場所が無さそうだ」


「あら、おはようございます。同席でも構いませんわ。……少し顔色が悪いようで? 慣れぬお酒のせいでしょうか」


 スミレの皿に乗っているのは、鶏肉とサラダという実に女性向きなヘルシーな料理だった。

 ダンジョンに入るとなると驚異的な栄養を消費しそうであるが、この料理を食しているということは今日はダンジョンに潜る気が無いらしい。今日するのは、代わりの刀と呪術符などを購入することである。


「確かに、目覚めは少し悪かった」


「それに、淫魔に襲われたかもとぞっとしたのでは?」


 むぐっと、クラウスは口をつぐんだ。図星だ。彼は何も言い返せなかった。


「サキュバス全てがそういう行為が好きとは限りませんわ。やはりそういった印象は感じるのでしょうけども。それにしても……」


 にやりとスミレは笑みを浮かべる。


「お礼を情事と考えたり、夜に襲われることを期待していたり? 渋い顔つきをして中々にむっつりですのね」


「うっ……」


 もはやスミレに対してクラウスはたじたじであった。全てを見透かされているような心境だ。


「くすくす、困っている顔もなかなか。ですがわたくしに床での情事は期待しないでくださいまし。そういうことには経験が無いもので。わたくし、白い液より舞い散る鮮血の方が好みですもの」


 この鶏肉からも血が出ればいいのにというような表情でフォークを刺す。そのまま丁寧に口に運び、美味しそうに咀嚼(そしゃく)していく。


「それにわたくし、身を捧げる相手は自分より強い人だと決めていますわ。……ああ、そうそう。昨夜の一緒にダンジョンに行くという話、本気ですの?」


「その話については本気だ。すぐに行くつもりなのか?」


「ええ、早くて明日にでも。刀を取りに行くまでのルートはモンスターが減っているはずですし、すぐに取りに行った方が楽ですわ」


 実際、先日クラウスがスミレを支援しにダンジョンを進んだ時、その道中でモンスターはほとんど姿を現していない。スミレが現れるもの全てを斬り伏せたのだ。


 ダンジョンに自然発生するモンスターが再び配置されない内に取りに行く。さっさと少人数でモンスターが少ない内に刀を取りに行くか、頼れる仲間を募ってからモンスターがまた湧いたところへ行くかの選択だ。

 どちらにしてもスミレが本調子ではない内に行くので、難易度にあまり違いは無い。


 ただ、スミレは『首狩り姫』として味方となる人にも恐れられているので、仲間集めには時間がかかる。前者を選んだ方がよかった。


「代わりの刀だといつもより斬りにくいと思いますし。モンスターの数が減っている内に、本調子になりに行きたいですわね。危険度Aの判定とおっしゃっていましたが、心の準備はできていまして?」


「問題ない。俺は英雄だからな」


 英雄だからな。スミレに対して何度かクラウスが口にした言葉。

 もしかすると、彼は実力のある名うての冒険者なのかとスミレは記憶を探る。しかし、両手剣を武器としたクラウスという名前に心当たりは無い。


「英雄と言いますが、クラウスさんはもしかして凄い方ですの? 申し訳ありません、わたくし他の冒険者の事には疎いものでして」


 クラウスがスミレを救う時、遠距離から剣圧でモンスターを吹き飛ばした。確かに並みの冒険者にできることではない。英雄と呼ばれるだけの実力はある。

 だが、クラウスは首をゆっくりと左右に振り、それを否定した。


「いや、自分で自分を英雄と呼んでいるだけだ。でも俺は英雄だからな、英雄でありたい」


 何を言っているんだと、スミレの思考が一瞬止まった。次に、この人は少なくとも『普通』と言える人ではないなと判断。脳内での彼のポジションを恩人から変人へとシフトする。


 だが、一緒に行くというのであればこのくらいおかしなところを持っていた方が良いのかもしれないとスミレは考える。


 まともであればまともであるほど、危険度の高いダンジョンでは生き残れないかもしれない。

 一攫千金の夢を見る純粋な者や世のためを思う者より、どこかおかしい所を持つ者の方が生き残るというのもありがちだ。


 なにより、クラウスからは自分に対する恐怖心を全く感じられないというのがスミレにとっては好感だった。


「くすくす。では、英雄さんに短い旅ですが付き合ってもらいましょうか」

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