クラウスの魔力についてあれこれ
「クラウスさん、そういえばなんですが」
いつもの着物姿ではなく、黒い袴に豊かな胸をさらしで巻いた姿でスミレは問うた。クラウスは一度スミレの方を向き、そのセクシーな姿への目のやりどころに困った。
玉のように艶やかな肌で、木刀が振るわれる度に胸がふるふると揺れる。
今日のクラウスは森林の中で訓練中だ。騒がしい街の中よりはここの方が集中できる。危険度Aのダンジョンが三度も続いたせいか不明ではあるが、モンスターとダンジョンの出現が少なくなっているのでできていることだ。
要するに、冒険者達は暇なのだ。その状況の中でクラウスは、周りのお手伝いをしながら合間の時間に剣の素振りをしていた。スミレもクラウスのやっていることの意味や喜びを知りたいと一緒に訓練中である。
互いに剣の素振りをしながらの問答。
「クラウスさんはどうして攻撃魔法を使わないんですの? わたくしのようにこだわりがあるのならいいのですが、そのようには思えませんわ。あのブローンの魔力フィールドに抗うほどの魔力。使わなければもったいないですわ」
「ああ、そのことか……」
苦手な分野の話をするように声のトーンが落ちる。大量の魔力があれば大魔法使いとしても活躍できるのかとスミレは疑問の顔だ。
「魔力がありすぎて魔法として安定しないんだ。自分の身体強化をしたり、斬撃の衝撃波として無理矢理飛ばしたり、敵の魔力に無理矢理同調させるのが限度。例えるなら、細いホースに大量の水を一気に流しているものだ。少し間違えると大爆発する」
「大爆発って……クラウスさんがですか?」
「ああ、そうだ。自爆に近い。攻撃魔法として炎を使えば大火事が、水を出そうとすれば大洪水が。周りを巻き込みかねないし、自分の体にも何が起こるかわからない。たぶん今は昔と違って魔法を使うと同時に破裂するかもしれない」
平常心と冷静さをもって魔法を発動すれば大きな魔法となるかもしれないが、戦場においてはその2つが戦闘行為によって下がる。下手に発動すれば何かをトリガーとして自分の体ごと大爆発、というわけだ。
「歩く爆弾、ということですか。中々命がけの事をやっていますわね。身体強化ですら命がけなんじゃないですの?」
「まぁ、な……。アンタは、こんな俺とパーティを組んでいいのか。前も言ったが、戦う目的が違う」
「いえいえいえ、戦う目的が違うからこそですわ。わたくしはあなたと一緒に戦って、もっとあなたを知りたいのです。人を守ることや役に立つこと、それがどういうことなのか。もちろんモンスターと戦う時はそれなりに楽しませていただきますが」
そこまで言ってスミレは一度木刀を下ろし、うんうんと考え始める。そして、何か恐ろしいに気づいたのか忌々しげな声を発する。
「魔力が高すぎるということは、魔法への耐性が強くて魅了の魔法が効かない?」
「真面目な話に何を考えている」
「いえいえスミレっ。わたくしは魅了の魔法を使ってでもクラウスさんとあま~いいちゃラブをするのです。物は試しというものですわ」
木刀を地面に刺し、ささっとスミレはクラウスの前まで移動。そして、彼の体にぎゅ~っと抱き着き、甘えるように上目遣いで彼の目を見つめた。そして目を細めてぺろりと舌なめずり。その目にはまた愛情が描かれている。
「聞いてるのか、スミレ。おいっ、スミレ……! 人の目は確かに無いが……!」
「さっクラウスさん? わたくしの目をじいっと見てくださいまし」
「何を……!」
予備動作などはないが、スミレは間違いなく魅了の魔法をクラウスにかけているだろう。だが効くか効かないか試さなければ永久に彼女は自分を離してくれないだろうと、しょうがなしに欲に燃えた目を覗き込む。
その瞬間、視界がきゅっと狭まり、スミレの姿しか見えなくなったような錯覚を覚えた。
「ん……特に、変わりは」
強がりだった。クラウスはグイグイ来るスミレに好意を持っている。その好きという気持ちが増加、いや、倍増といえるくらいに増幅させられているのだから正気を保つのがやっとだ。
頭がぐらぐらし、思考も視界もピンク色に染まっていく。スミレのことが好きで好きでたまらなくなる。
「くすくす、本当にそうですの?」
「なっ」
さわり、とスミレの片手が彼の下半身へと持っていかれる。何がはとまではお互いに語らないものの、しっかりと硬くなっていた。
「あらあら? 意外と精神に対する魔法耐性はありませんでしたか? うふふっ、嬉しいっ。ではこのまま落としてしまいましょうか。ねぇ、もっと見つめ合いたいですわぁ」
「スミレっ、効くのはわかっただろう。もういいだろう」
必死で抗い顔をそらそうとするが、クラウスはスミレの目から目を放せない。完全に彼女の虜になっている。まるで何年も付き合ってきた愛しい人のようにすら感じられる。
「さっ、もっとわたくしの愛を見つめて……自分に正直になって……」
「スミレッ……! こ、こういうことをするのは本当にお互いちゃんと知り合ってから……! くっ、ああ好きだよ! アンタみたいな美女に好かれるなんてう、嬉しいに決まっている……! アンタを傷つけたり避けたりするような他の冒険者達になんか渡すものか!」
ついにクラウスの理性が決壊した。両手を広げてぎゅうっと抱きしめ返し、彼女の髪にキスを落とすように頭を下げる。
スミレはクラウスの胸に顔をうずめて深呼吸し、彼の高鳴る心臓の音をうっとりと楽しむのだった。
「えへへっ、えへへ、クラウスさぁん。大好きですわ。あなたの精も愛も心も首もいつかぜんぶぜ~んぶいただきますねっ」
「なんだ、えへへって……可愛すぎるだろ!」
「はい、あなたの可愛いスミレです。今度デートへ行きましょうねっ。ちゅっ」
なおこの後、クラウスとスミレは両者収まりがつかず、森林の中でいちゃいちゃラブラブと2度も愛し合った。




