英雄のルーツ
クラウス達が活躍するギルドより西。西国で戦争が続いていた頃の話。今は約10年前になる。
今でこそ人々はダンジョン攻略のために団結しているものの、人々の戦いというのは驚くほど軽い理由で起こる。現在でもそれは変わりないだろう。たまたま現在は戦争が城塞都市周辺やその国で行われていないというだけ。
戦死者が捨てられる山に住む少年がいた。『戦場の人食い餓鬼』、それが少年に名付けられた名だった。
大人顔負けの身体能力と秘めた魔力を活かして戦場を渡り歩く。まともに食事をとる金が無いためか、人肉を貪り食らう。言葉すらろくに喋ることのできない、ただ命令されて殺戮をするだけの畜生。
その少年の師匠となる者は、死体の腹に顔を突っ込んで生肉のままそれを食らう少年の狂気の沙汰を見つけて、大粒の涙を流したという。髪はボサボサで腐臭にまみれ、目は濁っていた。餓鬼は話しかけてきた者を見るなり、襲いかかって逆に取り押さえられることになった。
師匠となったものは餓鬼に読み書きを教え、人道を説き、戦い方を教えた。最初は師匠に逆らって逃げ出そうとしたりしたものの、餓鬼はついにその師匠から逃げられたことは無かったという。
師はある時言った。「私の国に、クラウ・ソラスという光の剣の伝説があります。あなたの白髪も、見方によっては光に照らされているようにも見えますね。だからそうですね。クラウソラスはちょっと長いので、クラウスと名乗りなさい。闇の中を生きてきたあなたなら、同じ闇に惑える者を救える存在となれるはずです」
少年はその時言われたことがまったくもって理解できなかった。『救う』『助ける』といった行為が、人の命を奪い続けた存在にとっては理解不能なものだったのだ。自分にとって価値が無い、意味不明な行動であった。また、名前も必要なさそうだと言った。
それに対し、名前が無い相手にはみんな心のどこかで不安感を抱いてしまうものですよと、師は穏やかな笑みを浮かべながら諭した。
少年は師匠と共に、今度は人を守るためにモンスターと戦った。師の作る料理は美味しいとまでは言えないものの、死肉とは違う温かさを持っていた。
救った人から初めて感謝された時、彼の心の内に温かいものが湧いたと彼は覚えている。親類も絆も知らない餓鬼が、初めて笑みを見せかけた瞬間だった。
「英雄になりなさい。成し遂げて英雄になるのではなく、何かを成し遂げるために英雄になりなさい。誰に笑われようと蔑まれようと、あなたは英雄になるために誇りあることをしなさい」
クラウス15の時。師はついに病に伏す。
しかし、直後に高難易度とされるダンジョンが出現。並みの冒険者では対処できず、ダンジョン外にモンスターが溢れかえることになる。
師、これをついに来た死に場所と考え出陣。餓鬼は共に戦ったが、師を守ることはできなかった。
師は死ぬ間際に最後に説いた。「君は……失う怖さを知らなかった。これが私の最後の教えです。失う怖さを知りなさい、その怖さに怯えている人がたくさんいることを知りなさい」。
そう言い残して、師はクラウスの腕の中で息を引き取った。
少年は悲しみを、喪失感を、大切なものが失われると人はこうなるのだという絶望感を知った。今まで奪い続けてきた少年として生きたままでは、感じられぬ、そして得られぬ感情だった。
そうして、餓鬼だった者は成長して今ここにいる。
人々から少しずれている、その献身の勢いが怖いと思われても、人々を守る英雄であるためにクラウスはここにいる。
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