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ミルクでも貰おうか

 危険度Aのダンジョンを首狩り姫が破壊した。この噂は街の冒険者の間にあっという間に広がった。

 クラウスが同行していたこともついでに話に含まれていたが、あの『首狩り姫』がやってのけたという話にかき消されていった。


 そんな話題が現在進行で流れるギルド運営の酒場。クラウスとスミレの2人は水をちびちびと飲みながらメニュー表をながめる。

 時刻は20時だ。昆虫型モンスターだらけの、危険度Aのダンジョンを突破してから数日後の事であった。


「パンケーキを1つ。それに……ミルクでも貰おうか」


「んぶっ」


 向かいの席に座って水を飲んでいたスミレが盛大にむせる。表情を変えることの少ない渋い顔と大きな体格をして、頼んだものは意外にもパンケーキにミルク。大の大人がなんと子供らしい注文をするのかと、スミレは久しぶりに戦場以外で声を出して笑うかと思った。


 この注文はいつもの事なのか、店員は笑いを押さえていた。なのだが、スミレがむせ返るのを見て我慢できずに半笑いでフフッと息を漏らす。

 そして、むせたのがあの『首狩り姫』であることを思い出し、逃げるように厨房へ注文を伝えに行った。


 周りの冒険者も同様で、いつもならあの『英雄様』がまたお子様メニューを頼んでいると冷やかすのだが、スミレがいることでしんと静まり返っている。


「そんなにおかしいか」


 声のトーンを少々下げてクラウスはスミレに問う。怒っているというよりは、ショックを受けているような感情表現であった。

 水でむせるほどの反応は彼にとってショックだ。表情は変えていないものの。


「し、失礼極まりないのですが、もうおじさんと呼ばれそうな人が素面であまりにも自然と言うものでしたから……その、パンケーキとミルクを」


「俺はまだ20だ、二十歳(はたち)だ」


「冗談でしょう?」


 信じられないという目でスミレはクラウスを見る。身長180cmのでがっしりとした体格に、活き活きとした活力が感じられない目つきは、とても20歳であることを思わせない。どこからどう見ても、歴戦の冒険者の風格だ。


「本当に20歳だ。アンタの言う通り、よく老けていると言われる」


 しょぼんという擬音が見えるようだ。しょんぼりとしたクラウスは少々の水を飲んだ。


「それにしてもあんたは食べ盛りだな。以前見た朝食と違って、がっつりと肉を注文するとは」


「子供みたいに言わないでくださる? ダンジョン攻略後はそれなりに栄養が要りますわ。それにわたくし、これでも20歳です」


「……嘘だろう?」


「20ですわ」


 クラウスの目が細くなる。彼女を15~18歳だと思っていたという顔だ。

 確かにスミレの身長は150cmと小さい。女性冒険者の中ではかなり小さな方だ。顔つきも子供らしいあどけなさを残しており、腰に刀さえ差していなければ、異国の服を着た子供だろう。


 もっとも、胸のサイズなら他の冒険者に引けを取らないのだが。手のひらに収まりきらない程の大きさをしていて、なおかつ体の美しさのバランスを損なわないサイズだ。ロリ巨乳、そんな言葉が似合う。


「やめておこう、年齢の話は。お互いに得をする感じがしない」


 やめやめとクラウスは首をゆっくり振った。


「そうですわね。……では、得となる報酬についての話をしましょうか。持ち帰ったダンジョンコアについては?」


「非常に高くギルドに買い取ってもらった。反撃してきたコアは大変珍しく、良い研究材料になるとして研究所に回されるらしい」


 未だ謎が深いダンジョン。モンスターや金銀財宝が生まれるメカニズム、どこに突然出るかわからない発生の仕方。


 ダンジョンの謎がわかれば民間人に被害が出ることが少なくなり、また、資源を入手できる場所としての活用が見込めるようになる。そのために冒険者が持ち帰ったダンジョンコアは高く買い取られるのだ。

 

「そうですの」


 ただ、スミレはダンジョンコアのたどる道についてはまったくもって興味が無い。

 さらに言えば、報酬についてもそれほど興味が無い。安泰と言えるだけの生活レベルと、装備を買い揃えられるだけの報酬をちゃんと貰えればいいのだ。彼女にとっては殺戮そのものが娯楽であるため、遊びの金を必要としない。


「報酬は、そうですわね……。わたくしが4割ということでよろしいですか?」


「アンタが少なくていいのか? 先導してモンスターを斬っていたのはアンタだ」


「わたくしが危険に巻き込みましたし。では、わたくしのお尻を触った分のツケとして、半分ずつにいたします?」


 クラウスは困ったようにポリポリと頭を掻いた。お尻を触ったことを人前で言われることが困るし、お互いに金銭への欲が無いため、話していたらどこまでも分配の割合が変わってしまいそうだからだ。

 半々の話になったところがちょうどいいだろうと、クラウスは頷いた。


「そうだな。2人でなければあのダンジョンは突破できなかったとして、半々にしよう」


「ええ。あのムカデゴーレムはわたくし1人では突破できなかったと思いますし」


 ちなみに、ケツだけにツケか、と茶化すようなユーモアセンスと度胸はクラウスにはない。どこまでも真面目な男である。

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