コアブレイク
後ろで地面を叩き鳴らす轟音が響く。それをスミレは無視。あの男なら数十秒は持ちこたえてくれるだろうという考えを持って、スミレはダンジョンコアを砕くために集中する。
まず、ダンジョンコア目掛けて飛び掛かると同時に突きを繰り出した。いつも潜るようなダンジョンコアの強度であれば、大概はこの威力で貫ける。
だが、さすがに強力なモンスターを次々と生み出すようなコアだ。ヒビすらできず、むしろ逆に赤い稲妻を放出してスミレの体を後方へ吹き飛ばす。
「づぅ!?」
――この雷、体へのダメージだけではなく体内の魔力まで食っていますわね。
ダンジョンコアを守るゴーレムに苦戦してから、やっと弱点に気づいた疲労している冒険者の希望を無惨に奪う仕掛けだ。
先にこのコアを破壊する判断をしていなければ、壊す体力と魔力が切れているだろう。
力がいるのでクラウスに斬ってもらいに来た方が良かったかと考えたが、ゴーレムと戦っている彼と今さら交代する余裕はない。
スミレは突きよりも、出し惜しみの無い必殺の一撃をもって壊さなければならないと判断。距離を詰めなおし、ダンジョンコア目前にて刀を中道で構える。
奈落一輪が紫色の淡い光を帯びた。スミレが武器に己の魔力を大量に流し込んでいるのだ。
刀が変形――いや、魔力の塊による新たな刃を宿した。その姿は既に刀ではなく、大太刀と言える刃渡りである。高まる威力、切れ味、そして彼女の集中力。
「奥義、滅閃刃」
大きく振りかぶって、音が遅れて響くほどの速さで振り下ろす。魔力の刀身はコアをすり抜けるように通り過ぎ、スミレは腕を下まで降ろすことができた。
背後で鳴り響いていたゴーレムの拳による打撃音が止む。形の変わっていなかったダンジョンコアの右半分がずるりと下にずれて、左半分との間から血しぶきのように内包されていた魔力を噴出させる。
破壊成功。その崩れる姿を見て、スミレは一息つく。
……だが。
「がっ――!?」
スミレの体を衝撃が襲う。ダンジョンコアが相打ちを狙うように、最後の赤い電撃をこれでもかと放出したのだ。
まともにその全てを浴びた彼女の視界が白く赤くスパークする。全ての力を使った彼女にとって、その一撃は大打撃。たまらずスミレはその場に倒れ込んだ。
「が、かっ……うっ……」
――往生際の、悪いコアでしたわね……!
大打撃ではあったが、意識を手放すほど彼女の体はヤワではない。地面に刀を突いて視線を上げれば、完全に崩れていくダンジョンコア。
このダンジョンはもう終わりだ。全ての機能が停止し、時が経てばいずれ中にある全てが塵へと帰るだろう。
「大丈夫か?」
「あら、生きていましたのね」
「俺は英雄だからな。人を守るために死なない」
「くすくす。わたくしなんかのためにありがとうございます、英雄様」
クラウスに手を差し伸べられ、よろよろと立ち上がるスミレ。彼の背後には、ぐったりと体を地面につけて崩れ去っていくムカデ型ゴーレムがあった。
しかしクラウスもボロボロだ。スミレがもう少しダンジョンコアを斬るのが遅ければ、彼は死んでいたかもしれない。
ゴーレムの形が完全に無くなった後、ガコンと音を立てて入り口が開く。同時に、天井につるされていた産卵床となっている人々が落ちてきた。
どれも衝撃で腹が割れ、中に大量の卵が覗く。これほどの内蔵損傷と怪我では、もう誰も救う余地が無い。ここに置いていくか、せめて一思いに命を絶つ方が良いだろう。
「わたくしが寝ていた間にダンジョンへ入ってきた人たちですのね」
「全員を救えるわけじゃない……すまない」
「冒険者稼業は綱渡り。いつ死ぬかわかりませんし、あなたの責任ではありませんわ。……さて、ダンジョンコアを持ち帰って、ギルドにこのダンジョンを破壊したと伝達しましょうか」
納刀して背後にあるダンジョンコアの元へ振り返ろうとしたスミレだったが、コアの最後の反抗を受けたせいかクラウスの方へふらりとよろけてしまった。
彼女の体を受け止めるクラウス。お互いに酷いダメージを追っていた。
「無理はしない方がいい。コアは大きいし、俺が袋に入れて持っていく」
「……はぁ、わたくし一人では持って帰るまでの完遂は無理でしたわ。感謝、しておきますね」
「俺も一人ではここは突破できなかった。礼を言う」
「わたくしが巻き込んだんですのよ? あなたが礼なんて言わなくてもいいですわ。……はて?」
話している間に、流れるような動作でスミレはクラウスに背負われていた。おんぶの格好だ。
身長150cmという小さな体格を持つ彼女は軽いとはいえ、誰かに背負われることなどそうそうない。彼女にしては珍しく、羞恥で顔が真っ赤に染まった。
「我慢してくれ。いざという時に剣が振るえないといけない。この前みたいに抱えられていくのも嫌だろう? ……よっと」
「それはそうですが……ひゃん!?」
「ん!? すっ、すまない!?」
姿勢を整えるために、クラウスは左手で彼女を支えて一度ジャンプするように身を上げる。その瞬間、うっかりと左手が彼女の臀部を触ってしまっていた。
自分の口から普通の女の子みたいな声が出たことに驚くスミレ、ついうっかりとんでもないことをしてしまったと狼狽えるクラウス。
まさか羞恥というものをスミレが持っていることなど、お互いに思いもしなかったのだ。
「か、貸し借りにしておきますわね? ちょっとした責任は、とってもらうかもしれません」
「……覚悟しておく」
「ふぅぅ……わたくしがこんな声を出すなんて」
脱力し、クラウスの背にもたれかかるスミレ。それによる『むにょん』、とした奇妙な柔らかい感覚をクラウスは受け取った。
「スミレ、さん……」
「なんですの? 先程までアンタ呼びだったのに」
「当たっています……背中に……胸……」
「え?」
スミレが自分の胸部に目を降ろす。深い谷間を作るほどの巨乳が、確かにクラウスの背中にあたっている。
鎧越しであるがその弾力や彼女の気配、ほのかな香水の甘い匂い、そして首元に回された手による温かさをクラウスは感じ取っていた。
「か、貸し借りがもう一つできましたわね」
「今のは俺のせいじゃない」
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