(1)暗がりに潜む者達
短いです
真っ暗な部屋に大きな円卓が1つ。円卓の中心には短くなった蝋燭が1つだけ置かれている。円卓を囲むのは、黒いローブで全身を覆った無数の人影だ。彼ら、或いは彼女らは蝋燭の薄明かりにその輪郭だけを晒し、顔が見えない。
「で、件の薬だが」
「ローカスト? でしたっけ?」
「あぁ。魔薬ですわね。ワタクシ達は重宝しておりますわ」
「あれは好かん。なにより毒蜘蛛のやり方が気に食わん」
「良いんじゃないかねぇ。ボクは大いに好いているんだがねぇ」
「貴様には聞いておらん。どうせそれも偽物なんだろう? 《蛇使い》」
「シーっ! ダ、ダメですよ! 黒議会で名前を出しちゃ!」
「ふん」
「まぁまぁ。どうせ周知の事実なんだし。君も気にしないでしょ?」
「まぁねぇ。どうせ人形だしねぇ」
「それより、魔薬がなんですの?」
「諸君の意見を聞きたい。あれは我々のパワーバランスを崩壊させ兼ねないものだ」
「ワタクシはむしろ後押しすべきだと思いますわ」
「全く。何も分かっておらん」
「なんですの? 文句があるなら聞きますわよ?」
「ケ、ケンカはメッです!」
「僕も同意見かな。危険性が広まってないのは確かだし、今まで以上の利益を出すのも確かだと思うよ。それにケンカは良くない」
「ボクはそれより、フローラ・ヴァイスを認めるかどうかの方が大事だと思うけどねぇ」
「ふむ...。いつもながら見事に意見が分かれたな」
「まぁ意見が合う訳ないよねぇ」
「然り」
「それはそうだけど、黒議会として結論は出すべきだと思うよ」
「ふむ。では魔薬ローカストの流通は暫し見守るとしよう」
「何が結論だ」
「だから! 文句があるなら言ったらどうですの?」
「言った所で意味など無い」
「毒蜘蛛を黒議会に呼んだらどうかねぇ」
「それは却下だ。彼女はまだその時期ではない」
「同感ですわ」
「ふん」
「賛成かな」
暫し沈黙。
「では、定例会はここまでとする。良い夜を」
「良い夜を」
「良い夜を」
「良い夜を、です!」
「やらなきゃダメかねぇ」
「規則だよ、《蛇使い》君」
フッと蝋燭の火が消えた。全ては宵闇に埋もれて消える。