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(5)種明かしと謝罪

 フローラはルークとミュークを連れて金豚商会へと走った。その道中、フローラはルークと情報共有を行った。突如現れた《蛇使い》について。アレス、リリアと連絡がつかない事。ブバール商会に商談を持ち掛けたが取り付く島もなかった事。そして――


「売人を殺したのは恐らく蛇使いだ。だがその後ろに居るのがブバール商会だという確証はない」

「そもそも、何でリリアとアレスが狙われたんだァ? てか奴さんの目的はなんだよ」

「これも推測でしかないが、ローカストの原材料がバレた可能性は考えられる。もしくはそれを知る為に2人を襲ったのか」

「人質、ってことか。クソッ! 舐めたマネしやがる!」


 走りながら、フローラは常にリリアとアレスに呼び掛け続けた。


「人質であるならば、まだ生きている可能性は高い。最悪の場合でも、どちらかは生きているだろう」

「クソッ! 俺が付いてりゃこんな事には...!」

「それは無い。二手に分かれる必要があった以上、どちらかとは連絡が取れなくなっていただろう。それに、対策はしてある」


 金豚商会の本館に辿り着いた3人は、閑散とした本館を走り抜けアレスの執務室へ急いだ。そして跳ね飛ばす勢いで扉を開けたフローラは、部屋の中へ入ると足を止めた。背後から飛び込んで来たルークとミュークが勢い余ってバランスを崩した。


「なんだこりゃ...」


 原型を留めていない魔術師達の死体が無数に転がる執務室には、見慣れぬオブジェクトが立っていた。その真っ黒な直方体は、フローラが触れるとサラサラと砂になって消えていく。そして中からは昏睡状態のリリアが溢れ出た。メイド服はボロボロになり、胸の辺りには血の付いた大きな穴が空いていた。しかしメイド服の穴から覗くのはキメ細かい健康的な肌だ。リリアの全身にも、傷は見られなかった。


「何がどうなってやがる...」

「虫の防衛機能だ。宿主の生命反応が著しく低下した場合、即座に宿主を仮死状態にした上で安全を確保。その後蘇生を試みる」


 フローラは淡々と説明し、リリアの頬に優しく触れた。途端にリリアは息を吹き返し、身を捩って咳き込んだ。


「お嬢...様...?」

「おかしな所はないか、リリア」

「お嬢様...!」


 意識がハッキリと覚醒したリリアは、フローラの胸に縋り着いて泣いた。


「申し訳ありません...! 私の所為でアレスが...!」


 子供のように声を上げて泣くリリアの前髪を掻き分け、フローラは額同士をくっつけた。


「大丈夫だ、リリア。私がなんとかする。お前は先ずは服を」


 そう言われ、リリアは鼻をすすりながら立ち上がると部屋を出る。


「で、どうするよ大将。敵の正体は分かんねェんだろ?」

「いや、問題ない。そうだな、ミューク」

「ん! まだ大丈夫!」

「はぁ? 自分だけ納得して説明しないってのは悪い癖だぜ、大将」

「リリアの記憶を読んだ。その記憶によれば、ミュークが小型の分体をアレスに引っ付けていた」

「ん!」


 ミュークは自信満々に手を挙げた。そして、キラキラとした目でフローラに頭を差し出す。そのひんやり冷たい半透明の頭を撫でてやりながら、戻ってきたリリアを尻目にフローラは説明を再開する。リリアはすこし不機嫌そうにミュークを誘拐すると、胸に抱えてソファに腰掛けた。それを合図にフローラとルークもソファに座る。


「そもそもアレスと私の間では最近、ローカストを大量購入する不審な客の話が出ていた。しかしアレスの調査網に転売されたローカストが引っかからなかった為、結論を後回しにした」


 フローラは何処からともなく写真を取り出すと、3人に見えるように机に投げ置く。


「これが、アレスの部下が撮ったその客の写真だ」


 その写真を見て、リリアは首を捻った。


「この男、何処かで...」

「今回の襲撃犯の中に姿を確認した。つまり売人が殺されたのは、私とアレスが命令した購入制限に反発しての事だろう。まぁこれ程短絡的な行動に出るとは思っていなかったがな。そして売人が殺され、バガスを締め上げたが何も得られず。私達はアレスを訪ねた」


 そしてフローラはアレスから手渡された書類を取り出す。そこには王都フェルディナンドの主だった商会の名前と収支報告書が一覧で記載されている。中には月に幾ら賄賂として使ったか、またはどんな役職に就いた従業員が横領したか、という事まで表に纏められていた。つまり全ての商会の金の流れが一覧に記されている中で、ブバール商会だけが使途不明金を計上されている。


「アレスでさえ調べられなかったブバール商会の使途不明金が、《蛇使い》やこの商会を襲った魔術師達に流れていたとしたら辻褄が合う。」

「て事はコイツらが敵の正体じゃねェか!」

「だろうな。だが十中八九ブバール商会はしらを切るだろうし、我々もこの書類を証拠として見せる訳にはいかない。故に全員で売人殺しの事件を調べる裏で、私とアレスは別の作戦を考えた。その結果、現状がある。まぁ一部私の予想とは違い肝を冷やしたが、結果として作戦通りだ」


 フローラはリリアを見詰め、不満げなリリアの頭を撫でた。


「お前がそこまで頑張ってくれるとは思っていなかった。許してくれ」


 そう言ってリリアの頭にキスをしたフローラは、次にルークの方を向いて頭を下げた。


「お前にも迷惑を掛けたな」


 ルークは頭を搔くと天を仰ぎ、フローラは一同を見つめてもう一度頭を下げた。


「先程ルークにも言われたが、何も言わないのは私の悪い癖だ。今後は気を付ける」

「あー。分かった。そういう事ならもういいさ。な、リリア」

「えぇ。ルークに同意するのは癪ですが、作戦をアレスやお嬢様に任せ切りにした私達にも改善点はあります。それよりも、今はアレスを助けましょう」

「あぁ。アレスの居場所については虫が私に知らせる手筈になっているが、今のところ連絡は無い。それに《蛇使い》は私の虫を支配出来る。貧民街で戦ったのが偽物ならば、本物は別の場所に。恐らくアレスと共に居るだろう。虫からの連絡は無いと見ていい。だがミュークの分体通信網までは妨害出来ないだろう。何しろ原理不明だからな」

「ですがお嬢様。幾らミュークとはいえ、見つかってしまっては為す術もないのでは?」

「あぁ。だからミュークの援護を兼ねて、アレスの虫の防殼機能を作動させよう。《蛇使い》程の魔術の使い手には解除されてしまうだろうが、時間は稼げるだろう。その間にルーク、服を着替えろ」


 ニヤリと笑うフローラ。そのイタズラっぽい笑みを見て、ルークは少し高揚した。ルークとリリアはその笑みを知っていた。下らない、しかし楽しそうな事を思い付いた時の笑みだと。


「敵の本拠地にお邪魔するんだ。そんな服装では失礼だろう?」

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