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(2)金豚商会と蔓延るローカスト

 フローラ率いる一行は騎士達を蹂躙したあと、宿屋の翁に金を余分に払って貧民街を出た。向かうは貴族街にある商会、金豚商会である。『清く正しく毟り取る』を信条とする金豚商会は、非合法な手段を一切行わずに国内有数の大商会へとのし上がった。そんな金豚商会を率いる会長の名はアレス・ゴットン。毒蜘蛛(タランチュラ)の一員である。


フローラ達はいつも通り金豚商会の本館の右隣の家に入ると、内側から閂を掛けた。入ってすぐに部屋が1つだけある小さな家だ。だがその狭さに似合わず、入って左側に立派な暖炉が設置されている。フローラよりも大きな暖炉の上部には金の豚の置物が飾られているが、右目にだけサファイアが嵌め込まれていた。リリアはその穴が空いた左目に、嵌めていた指輪をあてがった。ガコンと何かが外れ、暖炉の中から緑色の光が溢れ出した。それは一息に4人を呑み込むと萎むように消える。後には閑散とした部屋だけが残った。


「来たね。待ってたよ」


橙色の髪の優男が朗らかな顔で両手を広げ、出迎える。そこは執務室だ。金豚商会の会長、アレス・ゴットンの個人的な執務室である。フローラが我が家のようにソファに座ると、隣にリリアが座りその膝の上にミュークが座った。反対側のソファにはルークがどっかりと腰を下ろし、それを見届けたアレスは悪戯っぽくフローラに声を掛けた。


「また暴れたって聞いたよ」

「文句はアイツらに言ってくれ」


アレスは爽やかに声を上げて笑うと、引き出しから紐で綴じられた書類を引っ張り出した。それを見たリリアは手のひらに緑の魔法陣を展開。書類が風に乗り、フローラの手元に届く。それを確認してから、アレスは再び口を開いた。


「ローカストが別ルートから市場に出てる様子は無かったよ。売人が殺された後、急に羽振りが良くなった奴の話もね」

「収穫なしという訳では無いんだろう?」

「勿論! でも確証は無い。ブバール商会っていう薬品専門の商会が、売人が殺された翌日から急に材料の仕入れを絞り出したんだ。ブバール商会にはお抱えの錬金術師が何人も居て、商会が扱ってるのは主に彼等が作ったポーションなんだ」

「確かに不審ではあるが、動くには弱いな」


その時、じっと黙っていたルークが手を挙げた。


「あー。ちょっといいか? 実は話をよく知らないんだが...」


リリアとフローラとアレスは、信じられない物を見る目でルークを見つめた。


「しょうがねェだろうが! 大体お前はいつも急過ぎんだよ!」


ルークはそう言ってフローラを指さすが、フローラは何処吹く風だ。


「じゃあ僕が説明しようかな」


アレスは全員の目線が集まったのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。


「始まりは3日前。集金に行ったバガスから、売人が殺されたという連絡が入った。売人はそこそこ腕が立つ傭兵崩れだったけど、持っていた剣に血は付いていなかった。それに死体は胴体を中心に大きくて重い何かで潰されていて、リリアさんの探知魔術は魔術を使った形跡を示さなかった」

「魔物って事か?」

「そう考えるのが自然だけど、残念ながらそうじゃないんだ。売人はローカストも金も持っていなかった。つまり犯人は、売人を大きくて重い何かで圧死させた後に薬と金を持って逃げたって事だよ」


ルークは眉をひそめた。それを見て、フローラが口を挟む。


「周辺に居た人間達の記憶を調べたが、分かったのは黒いローブで全身を隠した何者かが売人と口論していた、という情報のみだ。よって、私はバガスに話を聞く事にした。現段階で最も怪しいのはバガスだからだ」

「でも新しい情報は得られなかった。そうだね?」

「あぁ。バガスは何も知らなかった。売人達の名前さえも」


皆が口を噤んだ。アレスはそれを見て微笑む。


「だから、少し強引な手に出るのはどうかな?」


4人はアレスを見つめ、無言で先を促す。明らかに興味が惹かれた様子の4人を見てアレスは笑みを濃くした。


「ローカストは現状最も大きな利益を生む魔薬だ。ブバール商会は薬品専門の商会として、それが自分達の預かり知らぬ所から出回っている現状を快くは思ってない。そこで、ブバール商会に商談を持ち込むのはどうかな?」

「...ふむ」


フローラは顎を撫で、アレスの提案を吟味する。


「勿論、ローカストの存在が表沙汰になる危険性は分かってるよ。でも最近は騎士団の襲撃も頻繁になってるし、僕の商会が裏組織と繋がってるっていう噂も出てる」

「公的機関の後ろ盾か」

「うん。そろそろそういう時期だと思うんだ。僕の調べでは、後ろ盾になりそうな権力者達は既にローカストの存在を知ってる。だからブバール商会に商談を持ち込んで、毒蜘蛛(タランチュラ)が隠れ蓑を探してる事を示すんだよ。どうかな?」


フローラは目を瞑り、そして開いた。その瞳は真剣そのものだ。


「では動くとしよう。ルークはミュークを連れて他の売人達を当たれ。リリアはアレスと連携してブバール商会の錬金術師達に()()()()。進展があり次第、虫を通じて知らせろ。私はブバール商会に行ってくる」


フローラの号令と共に、毒蜘蛛(タランチュラ)は動き出した。

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